33.似合わない涙



「どうして教えてくれなかったの…?」

涙をいくつも流しながら
リナリーはその場に座り込んで声を絞り出す。

「ルシファーのイノセンスが
本来は死を歌うものだって…どうして!!」

自分の兄から聞かされた
姉のように慕っている友人のイノセンスの真実に
リナリーはただ涙を流すしかなかった。

「うそよ…うそよっうそよ!
信じない…!信じない!!」

「リナリー…」

「ルシファーはアレンくんが必ず助けてくれるんだから!
あの人がっ死んじゃうなんて信じないわ!!」

床に突っ伏し
リナリーは泣き叫ぶ

「いやあ…!
死なないで…!
死なないで!!姉さん!!!」

リナリーがスイッチを押したことで
教団内に響き渡ったルシファーの懺悔。

それを聞いた者達は呆然とその場に立ち尽くしていた。

「死なせてなんて…
ルシファーちゃん…っ
あんなに追い詰められてたなんて…!」

ミランダが泣きながら呟く。

それを聞いたマリがミランダを慰める。

「大丈夫だ。
きっとアレン達が…アレンが助けてくれる。
信じて待とう」

「きっと帰ってくるである。
死なずに、帰って…」

クロウリーも祈るようにぼやく。

「…あいつ…あんなに苦しんでたのか…?」

「じゃあ、言い返せば良かっただろ…
なんで、こんな…」

「両親が死んだとか…知らなかったし…」

「素直に謝罪の言葉を言えないのか!!」

マリの怒号が響いた。

それを聞いて
周りでざわついていた人達は罰が悪そうに黙り込んだのだった。





















両手を双子に広げたまま
私はひたすら歌う。

オラトリオ(聖職者の歌声)のように
聴いてる者は次々死んでいくのかと思ったが
どうやらセイレーン(破滅者の歌声)は全て歌いきって初めて効果が出るらしい。

歌いきり
私と同時に死ぬ。

私の命は

もう残り少ない歌詞が残量。

「(大丈夫…私も一緒に死んであげる…)」

だから

そんな風に暴れて世界を呪わないで。

憎いなら私を憎んで。

あなた達の救われた命を殺した

私だけを呪って。

もうすぐ

歌いきる。

あとワンフレーズ。

あと、10文字。

あと

3文字。

もう一度顔を上げて双子を見上げ

「っ!?」

一瞬声が詰まり、歌が途切れた。

アクマに紛れて

神田とラビがいる。

なんで!?

撤退したはずじゃ…!

その時
私の死角から再び瓦礫が迫っていた。

気付かない

気付けない。

神田とラビの存在に驚いて
声も体も動かない。

真上に、落ちる。



















「歌うな…このっバカ!!



















歌声が不自然に途切れたその隙に
僕はクラウン・クラウン(神ノ道化)のマントで落ちてくる瓦礫から守る為
包むようにルシファーをきつく抱きしめる。

退魔ノ剣を発動していたから腕は一本しかない。

口を塞げない。

だから

「っ……!?」

彼女にキスをして、歌を中断させた。

勢いが付きすぎて2人してその場に膝をつく。

瓦礫は真上に落ちてきたけど
クラウン・クラウンのマントにより防げた。

それを確認したあと
すぐに僕は口を離し
そして彼女の口を手で覆う。

「歌わせませんよ」

息を乱しながら呆然としている彼女を見据える。

「死なせるもんか。
君は、僕が愛してる人なんですから…!」

「…!」

「だから、死ぬなんて言わないで…っ
もうごめんなんだ。
大切な人を失うのは…!」

懇願するように顔を俯かせる。

いつまで口を塞いだままでなければならないのか分からないけど
今はこの手を退かしたくなかった。

「何もかも自分だけすべて背負い込まないで下さいよ!
何のための仲間なんですか!!
僕はいつだって君の力になりたいのに…!」

「…………」

「頼って下さいよ!
もっと信じて下さい!
淋しいなら、ずっと傍にいますから…!
どこにも行かないで、ルシファー…!!」

彼女の目から涙が溢れた。

ゆっくりと僕の手を口から離すと

「お願い…
2人を助けて…っ
アレン…!」

そう言って

ルシファーは泣きながら僕の胸に倒れ、気を失った。

「ええ…必ず…」

頭の出血がひどい。

早く、医者に診せないと…

その場に彼女を寝かせ
退魔ノ剣を握りしめる。

「カストル、ポルックス…」

イノセンスから今助けます。

そして

アクマとして破壊され
どうか、安らかな眠りを…

 


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