32.万謝



「私の両親の事…ずっと前から知ってたのに
何も言わなかったのは…
リナリーやコムイさん達があんなにも心を痛めて
私の事を思ってくれてるんだって知ったからなんだ…
いつか話してくれて、思いっきり泣かせてくれる日がくるから
その時まで待とうって思ったの」

でもね…待ってる間に、私の力がどんどん弱くなって
人を癒すことが出来なくなってきた。

「当然だよね」

私が人を治したいって強く祈ることができた理由は
早く家に帰って家族に会いたかったからだもの。

でも…それも出来なくなった。
大切な家族の元に帰る為に祈っていたのに
その大切な人達がいなくなった。
人を癒そうとするたび

「なんでお母さんとお父さんが」

「あの二人さえいなければ…
二人が、死ねばよかったのに」

「私、なんの為に祈ってるの」

なんて思って…

一時はアレン・ウォーカーのように
人のために祈ろうと頑張ったことあったんだけど
やっぱりダメだった。

他人の為に祈るなんて彼のように立派なこと
私には無理だった。

目の前で咎落ちを見て
アクマにしてまで家族を蘇らせる気も失せた。

「私ね、なんにもなくなっちゃった…っ」

戦えもしない、人を癒すことも出来ない。

それどころか

自分のせいで
お母さんとお父さんが命懸けで生かした命を殺して…

「こんな私、もう、いらないよね?
もう、必要じゃないよね?
死ぬしか……ないよね?」

だから…

ごめん。

「死なせて…っ」

誰かが何かを言う前に

私は受話器の線を引き抜いて通信を切った。

血が頭から大量に流れ
凄く眠い。

このまま眠ったら
きっと私は死ぬだろう。

でも、なんとか持ちこたえ
私は暴れまわっている咎落ちした双子に
涙を流しながら両手を伸ばし

そして、微笑み

「ごめんね…
一緒に死のう…?」

咎落ちは助からない。

例えイノセンスの暴走を止められても
中身はアクマになったカストル。

どのみち破壊されるなら
私がこの手で壊してあげる。

皮肉だね。

アクマなのに
周りを破壊している力は神の力。

神は信者には尽くすが
異教徒や裏切り者には容赦しない。

その点、悪魔は来る者を拒まない。

一体

どっちが悪魔なんだか…

イノセンスを発動させる。

被されていた科学班が作ったマイクを捨て
スピーカーの役割である羽を今までにないほど大きくし、広げる。

回復と再生を司るオラトリオ(聖職者の歌声)と
対をなす破滅を司る歌声。

本来の、正しい歌声…

「セイレーン(破滅者の歌声)…」

殺意を込めて

あなた方に歌います。


























『アレンくん!ラビ!神田くん!
今すぐ戻るんだ!』

「嫌です!!
死なせるもんか!
なんとしてもルシファーを止めます!」

『もう間に合わない!!
歌声を聴いてしまえばっ君達まで…!』

「間に合わせます!
もうすぐなんです!!
絶対に…っ全然に死なせるもんか!!!」

『頼む!引いてくれ!!
もう…あの子は、もう…!』

通信を切る。

彼女の歌声が教団にまで届かない為に。

「お、おいアレン!」

「ラビと神田も
無理に僕に付き合う必要ありませんよ。
僕個人で行きますから」

「ふざけんな。
アクマを壊すのは俺の仕事だ」

「此処まで来たんさ!
今更引き返せるかよ!」

坂を登りきれば、そこのどこかに彼女はいる!

もう見えてるんだ。

咎落ちして異形な姿になって暴れる双子と
それと戦う大量のアクマ達が。

「っ!」

爆音に紛れて

どこからか歌が聞こえる。

僕はその微かな歌声を探して道から外れた

「アレン!?」

「ラビ達はそのままアクマ達を頼みます。
僕は彼女を…ルシファーを捜します!」

聞こえる。

彼女の歌声が。

いつもと同じ歌なのに

その声はこの世の全てを呪うかのように
なんとも悲しげだ。

「(彼女の歌声で死んだって構わない!)」

愛しい人が死ぬのは絶対に嫌だ!

「ルシファー!
これ以上歌わないで!!」

消えそうな微かな歌声を頼りに。

僕は耳を澄ませ全力で走った。

 


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