30.もし、運命が変わるなら…



気を失っていたらしい。

気が付けば、私は瓦礫の下敷きになっていた。

頭を打ったのか血が流れ出ている。

それ以外は、幸いなことに打ち身ぐらいだ。

足も潰されてない。

私はよろよろと瓦礫をどかして体を引きずり出す。

アクマの血の弾丸が流れ弾となり
廃墟の壁を突き破ってファインダーの体を貫き
突き破れ脆くなった壁が崩れてきたようだ。

ファインダーは即死で
もう私でもどうしようもなかった。

地面に転がった受話器から誰かが必死に叫んでいる。

頭を押さえた為、血で濡れた手でその受話器を取ろうと手を伸ばし

「うわあああああああああああ!!!」

ポルックスの叫び声に顔を上げる。

辺り一帯は弾丸により障害物全て壊され
見通しが良くなっている。

『兄さん!!兄さん!!!』

ゴーレムから壊れたように叫ぶポルックス。

「ポルックス…!
どうしたんですか…!?
返事して下さい!」

くっ…頭が、痛い。

意識が、また飛びそうだ。

「ポルックス…!返事して…!」

だが、返ってきた返事は

『こんにちはv』

聞いたことない、声。

ポルックスがいる場所に
シルクハットに、顎の長い…丸い体をした誰かがいる。

『我輩は千年伯爵といいますv』

「え…?」

そんな

あの、伯爵?

「なんでここに…」

『貴方ではなくそこのお嬢さんに呼ばれて用があったのですが
今は貴方のほうが深刻そうですねv』

私が……呼んだ…?

『最愛の兄、カストルを
蘇らせてあげましょうか?』

『お前が…!お前が兄さんを殺したくせに!!』

『すみませんv
だからお詫びに蘇らせてあげますv』

「ま…待って下さいポルックス…!!」

頭がついていけない。

カストルが殺された?

伯爵に?

『ただ、エクソシストならご存知でしょうが
兄を蘇らせた場合貴方はアクマの皮になりますv
それでも、たった1人の肉親を蘇らせますか?』

『オレは…』

『アクマの皮になっちゃいますが
一瞬でも会えるんですよ?
さあvどうします?』

一瞬でも会える…

「(私も、お母さんとお父さんに
会いたいよ…)」

そう思ってしまった私は
ポルックスへの声掛けを止めてしまった。

『オレ…オレ、は…
エクソシストだ…
アクマなんかに…兄さんを、アクマなんかに…っ』

『…………』

『兄さん…兄さん…!
オレの、たったひとりの家族…』

『会いたいなら
これに愛情込めて名前を呼んであげて下さいv』

『兄さん…』

やっぱり

ダメ…!!

「…ポルックス、待っ」

『カストル兄さん!!』

通信の向こうで
惨劇が始まった。

『ポルックス…』

『兄さん…!兄さんだっ』

『よくも…アクマにしたな…!!』

『え?』

『よくも…!よくもよくもよくもよくもよくも!!
アクマに!!逃げられない!!
呪ってやる!呪ってやるぞぉおぉおおおおお!!

『兄さ……ぎっ!』

『ポルックス!よくも!!
よくも!!よくもお!!!

『がっ!ひっ…
ぎゃあああああああ!!

ポルックスの断末魔。

呪いを帯びたカストルの叫び。

そして、何かを引き裂き
何かにゴキゴキ、バキバキと入り込む音。

聞きたくない。

私は強く目を閉じ、耳を塞ぐ。

「やめて…もう、やめて…!」

「貴女が望んだ未来ですよ
お嬢さんv」

「っ!?」

顔を上げると、伯爵がいた。

「こんなのっ全然望んでません!」

「いいえv
貴女が両親を蘇らせた未来が
あの双子の姿ですよv」

「っ!」

「我輩は貴女の心の闇に呼ばれて此処に来たのですよv
貴女も、ずっと我輩を呼んでいたでしょう?
その声に応えただけですv」

「え…」

「貴女が我輩を呼ばなければ
アクマがこの場所に異常発生することも
双子がああなることもなかったでしょうねv」

「…私が、引き起こした…?」

この、惨劇を?

私が2人を呪い
アクマにしてでも両親に会いたいと思ったから
この惨劇が起きた…?

「うそです…」

違う。

こんなの、違う。

こんな…つもりじゃ…!

「もうご両親はよろしいんですか?」

「…………」

「そうですかv
残念ですが我輩はこれで失礼しますねv
また会いましょう、可愛いお嬢さんv」

大量のアクマだけを置き去りにして姿を消す伯爵。

呆然と、アクマになった双子を見つめる私を
アクマ達が一斉にターゲットにする。

「カストル…ポルックス…」

そんなの構ってられなかった。

私が引き起こした惨劇の被害者しか見えてなかった。

私のお母さんとお父さんが生かした命を

私が…!

「カストル…!ポルックス…!!」

その時

アクマになったポルックスの体が眩しいほど光り
辺りは白い光りに埋め尽くされた。

遠くから、ポルックスの声でアクマになったカストルが叫んでいる。

苦しみ、もがく声。

この光りは一体…!?

眩しさで目が開けられない。

やがて光りが収まり、目を開けると
目の前には異形な姿をした何か。

それは天使のような

悪魔のような……

アクマ達が私からターゲットをその異形な何かに変える。

異形な何かは辺り一帯を焼き尽くすかのように暴れ
アクマ達は一斉に攻撃する。

「ぁ…っああ…!!」

見たことある。

これは、

「咎…落ち…!」

ポルックスは神を裏切り、アクマを作った。

裏切り者への

神からの制裁。

 


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