29.出会えた事に後悔はない



翌朝、私はカストルに起こされて起きることが出来た。

眠い目をこすりつつ山道を歩く。

欠伸を噛み締めながら
先を行く双子の背をぼんやり眺めながら考えた。

私、やっぱりどうかしてたかもしれない。

2人を呪うよなことばかり考えて

2人を傷付けるようなこと言って…

お母さんとお父さんに執着し過ぎてたのかな。

でも、悲しいのは悲しいし
未だに2人のこと割り切れたわけじゃない。

今だって

お母さんとお父さんに会えるなら会いたい。

だけど…




――ルシファー…
君は独りじゃないんです。
僕が…僕達がいるじゃないですか…!

他にも君を大切に思っている人達はいるんです!
だって僕達仲間じゃないですか!――




アレン・ウォーカーが言ってた言葉。

そうかもしれない。

私、自分で勝手に独りだと思い込んで
差し出された手を拒否してたのかもしれない。

勝手に殻に閉じこもって
勝手に傷付いて
勝手に、恨んで……

「(…自分勝手過ぎるよね、私…)」

もう少し

2人に歩み寄ってみようかな…?

拒絶されたりしないかな?

まだ少し、怖い。

「(素直になってみよう)」

教団に帰ったら
まず、アレン・ウォーカーにお礼を……

「アクマです!
ルシファーさん、下がって!!」

ハッと我に帰り
俯かせていた顔を上げる。

レベル1のアクマがどこに潜んでいたのか次々姿を現した。

「兄さん!
オレがルシファーさんとファインダーさんを安全な場所まで送る。
戻ってくるまで1人で頼めるか?」

「ああ!頼むっポルックスっ」

カストルがイノセンスであるサーベルを引き抜く。

ポルックスも同時にボウガンを発動させ

「こっちだ!」

私の腕を引き、走り出す。

振り向くと1人で大量のアクマと対峙するカストルの背。

少しの間見つめ
やがてポルックスに引かれるまま走る。

途中妨害しようとアクマ達が立ち塞ぐが
ポルックスがそれを次々撃退していく。

「ここに身を潜めて」

やがて着いた廃墟の影に押し込まれる私とファインダー。

「…なんだか異常なまでにアクマの数が多くないですか?
私とファインダーを庇いながらこの数を突破出来ると思えないのですが」

「…………
ああ、なんか…聞いたよりもアクマの数が多いよ。
でも、戦えるエクソシストはオレと兄さんしかいない」

「応援を呼びましょう。
教団にはアレン・ウォーカーやラビ、神田がいます。
誰か1人でも来てくれれば気持ち的にも余裕が出ます。
あなた方を信用してないわけではないですが
何よりも生きて帰る事が優先です。
本当は撤退が一番良いのですが、それが許せないのなら
戦いの中での最善策を取りましょう」

「…………」

淡々と話す私をポルックスは意外そうに眺め

「…じゃあ、教団への連絡を頼むよ。
オレは兄さんの援護に戻る」

「分かりました」

「…ありがとうな。
正直テンパってたんだ。
ちょっと、落ち着いた」

ポルックスはニッと笑って走り去る。

それを数秒見届け
隣で身を縮めているファインダーに目を移す。

「教団への回線を開いて下さい」

「お…っお前なんかに指図されたくな」

パシン!と相手の頬を打つ。

相手は呆然と打たれた頬を押さえて私を見る。

「いい加減にして。
こんな時に好きだの嫌いだの言ってられないでしょう。
ここは戦場です。
それを自覚して下さい」

言い返す言葉もなく
ファインダーは回線を開いて受話器を私に渡す。

数回のコール後、コムイさんが出た。

「コムイさん?」

『やあ、ルシファーかい?
そろそろ連絡が来る頃だと思ってたよ』

「え?」

『実はファインダーに背負わせてる通信機は最新の通信機でね。
君達の位置と大ざっぱだけどアクマの個数がこっちの受信装置に表示され
更には他の通信とも通話出来る優れものさ!
更に更にスイッチひとつで教団内に放送して収集が簡単になる便利機能付き!
だから、アクマの数が報告より異常の数だってすぐに分かったよ』

「そうだったんですか…
というかそんな物作ってたんですか」

『ついさっきアレンくんと神田くん、ラビを応援に向かわせた。
しばらくかかるけど頑張れそうかい?』

『ルシファー!すぐに向かいますっ
頑張って下さい!』

『踏ん張れよー』

『チッめんどくせぇ』

『ユウも弟分を心配してるさー』

『ああ!?』

他の通信だろう。

声はあまりクリアではないが三人の声が通信に入ってきた。

『ルシファー、カストルもポルックスも頑張って!』

「やあ、リナリー」

『私は傍に行けないけど
みんなの帰り待ってるからね!』

「…ありがとう」

カストルとポルックスにも
この温かい言葉を聞かせたかった。

そう思った私は自分のゴーレムに向かって

「カストル、ポルックス
今アレン・ウォーカーと神田、ラビが応援に向かってるようです。
もうしばらく頑張って下さい」

『了解!応援まで踏ん張れよっ兄さん!』

『お前もなっ』

「体力もそろそろキツいでしょう。
アレン・ウォーカー達も通信を切らずそのまま聴いて下さい。
いつまで走っても体力が切れないよう回復します」

イノセンスを発動させ、マイクに手渡されたマイクを被せ歌い出す。

『おおっすげぇ
マジできつくなくなった』

『ありがとうございますルシファー。
助かります!』

通信の向こうでは
テンションの上がるラビと、声に覇気を取り戻したアレン・ウォーカー。

そしてゴーレムの向こうでは体力を取り戻し
やんちゃな子どものように戦うカストルとポルックス。

大丈夫。
このまま上手くいけばアレン・ウォーカー達が到着してアクマ達は全て破壊される。

そう思った瞬間だった。

「あ…」

隣にいたファインダーが声を漏らしてドサッと倒れる。

「…え?」

思わず歌を中断して隣を見ると
なんとファインダーは何かに体を半分以上貫かれ殺されていた。

「…なに…?」

ガラリ、と頭上から瓦礫が崩れる音と

『兄さん!!!』

ポルックスの悲痛な叫び声が聞こえたのは同時だった。

 


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