26.言わない口約束



『ルシファー、ちょっといいか?』

通信でそうリーバーさんに言われ、私は科学班に向かった。

「どうしたんです?リーバーさん」

「来たか。
ちょっとイノセンス発動してもらっていいか?」

「ジョニーさんか誰かが倒れたんですか?」

「いや、確かめたいことがあるだけだ」

「…?そうですか」

言われたようにイノセンスを発動する。

耳の近くにヘッドホンのようなものが現れ
そこから金属的な3つの羽が表れる。

左の羽からは口元目掛けてマイクが伸びる。

イノセンスは大体が百黒なのに、私は青という変わった色。

リーバーさんはしばらく羽に触れて何かを調べ

「やっぱりな。
ルシファーの金属っぽい所羽なんだが
スピーカーみたいな役割なのか所々穴が開いてる」

「え?…ええ、まあ。
この口元のマイクで音を拾って
わざわざ声を張り上げなくても大きく出るように羽のスピーカーで音を出してます。
羽を大きくすればその分音も大きく出ますよ」

「そのマイク消せないのか?」

「…動かして音を遠ざけるくらいなら」

「なら、やっぱりこうするしかないか」

リーバーさんは何かを取り出してそれをマイクに取り付ける。

「なんですか?」

「イノセンスのマイクの上に俺等が作ったマイクを被せる。
そして、別に作ったヘッドホンを対象者に被せる」

「え?」

リーバーさんの手が離れる。

そこにはイノセンスのマイクの上に被せるように
別のマイクがあった。

「ジョニー、ヘッドホン被ったか?」

『オッケーです班長ー』

どこにいるか分からないが
通信ゴーレムからジョニーさんの声。

「いつもみたいにちょっと歌ってみてくれ」

「はい」

言われたように歌う。

ふと気付く。

スピーカーから、声が出ていない。

「ジョニーどうだ?」

『成功ですよ!
体が癒やされるの分かります!』

「あの、何なんですか?」

気になって歌を中断すると
彼はニコッと笑い

「癒やしの歌声を特定の人物に聴かせることが出来ないかって思ってな。
時間が出来た時に作ってたんだよ」

「………」

「イノセンスのマイクの上から、作った無線式のマイクを被せ
イノセンスのマイクが声を拾わないように遮断。
歌声は別に作られたヘッドホンを使用した人物にのみ届く。
そういう仕組みさ」

「…なるほど」

「ただ、声が出てる事に変わりはないから
敵がルシファーの歌声が聞こえたら結局回復してしまう。
だから戦場に行っても離れた場所にいないと無意味だな。
こればかりはどうしようもなくてな…」

すまなそうなリーバーさん。

私は作られたマイクを見つめながら

「とてもいい発明だと思いますよ。
敵がヘッドホンの仕組みに気付かない限り
戦士は私の体力が持つ限りいつまでも戦えますもの。
私が戦場の前線に出られないのはいつもの事です」

淡々とする私にリーバーさんは苦笑し
そして頭に大きな手をポンッと乗せてきて

「近々試験的に実用するようだ。
頑張れよ、ルシファー」

その手は

なんだか暖かくてとても安心した。




















「教えて下さいコムイさん。
まだラビの推測でしかありませんが…
ルシファーのイノセンスが実は『死の歌声』って本当なんですか!?」

「…………」

「コムイさんが彼女に両親のことを中々伝えないのは
嫌われるのが怖いからの他に
その歌声で彼女もろとも敵と心中するのを恐れてるからなんでしょう?」

何も言わないコムイさん。

さっきから目を伏せて僕を見ようとしない。

そうだよ。

コムイさんは最初に言っていた。

「あの子が悲しさのあまり早まったことをしないかボクは不安なんだ」って

つまり、こういうことだったんだ!

「コムイさん!」

「………
彼女に回復だけに使うように言ったのはボクじゃない。
彼女自身がそう使ってたんだ」

まだルシファーが幼い頃
無意識にイノセンスを発動させて両親の怪我を治したことがある。

それがきっかけで彼女は
本来は死を呼ぶ歌声を
回復が出来る歌声と勘違いし
以来、ある意味間違った方法でオラトリオ(聖職者の歌声)を使っていた。

その間違った使用法が
自身の命を救っているとも知らず。

教団に入ってからも彼女は死を呼ぶ歌声のことは知らず
回復だけに使っていた為
教団側もそれしか力がないと思い込んだようだ。

被験者の命を延ばす為に実験の際は彼女を必ず連れ込み、歌わせた。

ルシファーの勘違いが幸いし
教団側に必死の歌声であることを隠せた。

そして室長はコムイさんに変わり
そこで真実が発覚した。

「ボクはどうも腑に落ちなかったんだ。
伯爵と戦う為の兵器が
本当に回復だけの力なんだろうかと…」

ミランダのように後方支援に長けたイノセンスもある。

それを考えたら、回復に長けたイノセンスがあってもおかしくはないが…

ならば何故、彼女のイノセンスにはマイクとスピーカーがあり
より遠くまで声を飛ばそうとする機能があるのか。

それはやはり
より遠く、より多くの敵を巻き込んで
道連れにする為としか考えられない。

「だから、逆に考えたんだ。
もしかするとこのイノセンスは
本来は心中必須の必死の歌声じゃないかと…
それをルシファーが偶然間違った方法を発見し
その間違った方法のおかげで彼女は殺傷力の高いイノセンス保持者と気付かれずに
無事に生きていられたのではないかと」

「………っ」

「例え違ったとしても
彼女の心次第で敵を全滅させることが可能の可能性はある。
そう思ったボクはルシファーにそれを告げ
以後その事実を隠しながら回復しか出来ないフリを貫き通すよう『命令』した。
ボク以外に誰にも言ってはいけない。
あのリナリーでさえ未だに知らないんだよ」

彼女の力の真実が
一番最初に知られるのがコムイさんで良かった。

僕は心底安堵する。

「まさかこんな形で露見するとはね…
さすが、ブックマンの後継者としか言えないよ。ラビ…」

「僕、絶対誰にも言いません!!
ラビにもうまく誤魔化しますっ」

「いや…もう無理だよ」

「え?」

「そこにいるんだろう?
入っておいで、ラビ」

室長室のドアが開かれる。

そこにいたのはラビと神田だ。

「どうして…」

「いや…どうしても気になってさ…
アレンの後こっそり追ったんさ」

まさか、推測がドンピシャとは思わなかったさ。

ラビはそう嘲笑する。

「人の口に戸は立てられねぇ。
いつこれが公になるか分からねぇぞ、コムイ」

「分かってるよ神田くん…
でも、だからっていきなり教団の全員にバラすこともないさ。
君達が黙っていれば
少なくともすぐに上にバレることはない。
ルシファーのイノセンスのことは
誰にも言わないでもらえるかい…?」

「もちろんですよ」

言えるはずない。

彼女の命は僕が守る。

誰と心中させるつもりはない。

僕はそう固く決心したのだった。

 


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