25.いつも正直な君だった



それから数日後。

「うっそお。
ユウがおんぶしてる」

任務から帰って最初に出くわした人物の意外な姿に
ラビは疲れが吹き飛んだような気がした。

最悪な奴に見られた。

そう言わんばかりに
出くわした人物、神田はイライラしながら大きく舌打ちをする。

「勝手に廊下で寝やがってたこいつが悪いんだよ!」

八つ当たりでもするかのように神田はラビに
そのおぶっていたルシファーを押し付ける。

慌てて抱き止めるラビ。

「今更じゃんかー
昔に戻ったと思えばさ〜」

「るせぇ!
もうこいつのお守りなんざしねぇ!
さっさと部屋に持っていけ!!」

「へいへい」

足早に去って行く神田を楽しげに見送った後
抱いているルシファーを部屋に移動させようと歩き出す。

「ラビ、一体誰を抱いてるんです?」

「見てわかんねぇさ?ルシファーだよ」

「そうですか。
彼女をこちらに渡してもらいましょうか?」

「渡すって、そんなどこの盗ぞく…」

振り返ると、後ろに修羅を出しながらも
後光がつきそうなほどの笑顔でイノセンスを発動させるアレン。

「アレン…か、帰ったんさ…?」

「渡して下さい」

「リ…リナリーは…?」

「短期任務が入ったようで別行動です。
渡して下さい」

「さっきまでユウが抱いてたんさ…」

「良いから渡せ」

素直に渡すラビ。

「じゃあ…あとよろしく…」

「ええ。
あと、神田に会ったら「死ね」って言っておいて下さい」

「そんなん自分で言うさあ!」

オレが殺される!

ラビはそう叫んで去って行った。

「油断も隙もないですね、まったく」

ハァ…とため息をつくアレン。

チラリと腕の中で眠っているルシファーを見ると
彼女のさらりとした髪に頬をすり寄せ

「ただいま、ルシファー」

君がいてよかった。

なぜか

君が消えてしまいそうに思えて不安だったんだ…




















「僕がいない間に彼女に何をしたんですか。
白状してください」

「何もしてねぇよ!」

「神田なんか蕎麦か六幻に欲情してればいいんですよ」

「どういう意味だモヤシ…!」

「アレンです。バ神田…!」

「もしもーし。
談話室でイノセンス振り回すの大変危険さー」

ルシファーを部屋に運んだ後
僕は偶然談話室で神田と出くわし今の状態だ。

神田の抜刀された六幻を退魔ノ剣で受け止め
そのままギリギリと競り合う。

そんな僕達の横からラビが遠慮がちに入ってきた。

2人して仕方なく発動を停める。

周りの囁くような噂によれば
僕が留守にしていたこの数日間、ルシファーは先に帰っていた神田の傍にいることが多かったようだ。

単なる嫉妬、それもある。

だがそれよりも何か胸の奥でざわつくものがあって
嫉妬だけで済ませられる気がしなかった。

「オレも詳しく知らねぇけどさ
ポルックスとカストルとなんかあったらしいさ」

「え…双子とですか?」

「『理由も分からず嫌われた』って言ってたさ。
ほら、ルシファーの奴
最近イノセンスがうまく発動出来ないっつってたろ?
それでイラついてんのかなーって」

「回復速度が急激に落ちたみたいですもんね。
助けられたはずの人を助けられず
随分落ち込んでいたようです」

元々表情がコロコロ変わる人ではないけど
最近の彼女は分かりやす過ぎるほど雰囲気が暗い。

そして同時に
僕達と距離を置いてるような…

「ユウはなんか聞いてない?」

「知らねぇよ」

「僕、ずっと前から思ってるんですが…
ルシファー…実はもう知ってるんじゃないんでしょうか?
自分の両親のこと…」

ラビと神田も感じる所があるのか否定しない。

「僕達が何も言わないから知らないフリしてるだけで
本当はもう知ってて、泣きたいのをひたすら我慢してるんじゃ…
それって、かなり辛いことですよ?
自分の感情を押し殺して
周りからの陰口に耐えて…
それじゃあ、心から癒やしを祈れないのも仕方ないと思いません?」

その時、ラビがポツリと

「…なあ、ルシファーは心から癒やしを祈って歌うことで
相手と自分の治癒をしてるんだよな?」

「ええ。僕はリナリーからそう聞きました」

「こんな奴治したくないって心のどっかで思ってるから
今回みたいに回復速度が落ちてる」

「そうとしか考えられないですよ。
彼女だって感情のある人間ですから…」

「全部ルシファーの心次第なんだよな?」

「……ラビ?」

確認してくるようなラビの言葉に
僕は不思議に思って彼を見る。

「じゃあさ」

彼は続ける




「『こんな奴死んでしまえ』
って、殺意のこもった心で歌った場合
相手は死ぬのか…?」




「っ…………!?」

思ってもみなかったことに
僕は思わず目を見開く。

「じゃあ!もしかして今まで亡くなった方々は…!!」

「いや、そいつ等は回復が間に合わなくて死んじまったらしい。
一応回復してるから殺意はなかったと思うさ」

「っ……
でも、ルシファーのイノセンスの仕組みを考えたら
殺意で歌えば…相手は…」

「死ぬな」

神田が淡々と僕が言い辛いことを言う。

「ちょっと待って下さい!
もしそうなら、ルシファー本人だって…!!
だって、イノセンスの力は彼女本人も対象で…」

「アレン、こうとも考えられないか?
戦えなくて頼りなく見えるけど
本当はルシファーのイノセンスがオレらの中で一番殺傷力が高い。
聴いたやつみんな必ず死んじまうからな。
だけど、歌った本人も死んじまうから
その力をあえて回復に使うようにした。
そうすれば誰も死ぬことなく、逆に回復が早いから助かる。
死の歌声をわざと生の歌声に変えた…」

「…!!」

「そう指示した奴がいるとすればコムイしかいねぇさ。
公にバレたら効果のない力のない歌声になっちまう。
耳を塞げばいいだけだからな。
それに、中央にもバレてみろ。
伯爵とノアが勢揃いしたら間違いなく送られて心中命令を出すに決まってる。
コムイは戦えない変わりに癒やしが使えるというカモフラージュを作って誤魔化し、ルシファーを守ってるんさ。
あいつが中々両親の死を伝えないのは
嫌われるのが怖いの他に
敵討ちでその力を使われてアクマもしくは伯爵と心中するのを恐れてかもしれないさ」




――私は戦場に行っても何も出来ません。
というか私が戦場に出たらアクマ含めてその場の全員が死にます――




「そんな、嘘だ…」

初めてもらう任務の前に彼女が言っていた言葉。

あれは冗談じゃなかった?

真実を

僕に言っていた…?

コムイさんとルシファーしか知らない隠し事って
まさか、これ?

「あいつのイノセンス
思った以上にでかい爆弾かもしれないな…」

呟くラビに僕は何も言えず
ただ呆然と下を向き

「っ信じない…!
僕、コムイさんに聞きに行ってきます!」

「おい!アレン!!」

ラビの声を無視し
談話室を飛び出した。

 


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