24.がなり立てて、私に



一足早く任務から神田が帰ってきたと聞いて
私はすぐに修練場で一人座禅を組んでいる彼の付近に座り込んだ。

「………」

「………」

「………なんだよ」

「………別に…」

「なら今すぐその暗い空気振りまくのやめろ。
うざってぇんだよ」

「神田の気のせいですよ。
私はこんなにも元気なのに」

「うぜぇ」

「…………」

「今度は何を溜め込んでんだ」

「別に…」

「マジでうぜぇ」

「どうせ興味ないくせに」

「ああ、ねぇな」

「神田は蕎麦にしか興味ないですもんね」

「テメェ…
最近もやしに似てきやがったな…」

「本物の腹黒似非紳士には負けます。
彼は笑顔で人殺せますから。別の意味でも」

「もやしの野郎は節操のねぇ天然たらしだ」なんて神田が言う。

そんな他愛もないことを言い合いながら
私はぎゅっと膝をさらに抱き込む。

「…神田」

「なんだよ。うるせぇな」

「歌っていいですか?」

「………好きにしろ」

好きにさせてもらった。

イノセンスを発動させず私は歌う。

普段はこんな風に歌ったりしない。

歌うのは好きだが
教団に来ていつの間にか必要な時以外歌わなくなった。

歌はいつも歌ってるものと同じだ。

神田と私しかいない修練場に歌声が響き渡る。

彼は身じろぎひとつせずただ座禅をし続け
私はひたすら歌い続ける。

やがて歌い終わり、私は抱き込んだ膝に顔をうずめた。

「……おい」

「…なんですか」

「寝んじゃねぇよ」

「…寝ません」

「……おい」

「なんですか」

「……いい加減、他人を信用したらどうだ」

「……………」

「たったひとつだけの支えが崩れた場合
テメェはどうなるんだよ。
支えは多ければ多い程安定するだろうが。
そんなこともわかんねぇのか」

膝に顔をうずめたまま私は言う。

「…………神田は…」

「…?」

「神田は、もし私がアクマになったらどうします…?」

「斬る」

「ですよねー」

「敵になるんなら容赦しねぇ」

「ええ、神田らしいですよ。
まさにザ・神田です」

「意味わかんねぇこと言いに来たんなら出ていけ!」

「神田」

「なんだよ!」

「容赦しなくていいです。
思いっきり斬り捨てて下さい…」

「……おい…?」

神田が不思議そうに振り返ったのが分かる。

それでも私は顔を上げない。

「バカな私を、斬り捨てて下さい…」

伯爵に魂を売ってまで
もう会えない死人に会おうとする私はバカです。

バカに容赦なんてしないで。

こんな…救いようのないバカに…

「……ああ、テメェは今ここで斬りてぇくらいバカだ」

「………」

「でも斬ったらあのもやしがギャーギャーうるせぇだろ。
斬られたくなきゃそこで大人しくしてろ」

その内もやしが帰ってくる。

そう言って座禅を再開する神田。

それから互いに話すこともなく、ずっと無言だった。

私も珍しく眠ることなく
ただ近くに神田を感じながらうずくまっていた。

 


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