21.らしさを取り戻して



「ルシファーっ
眠ってるんですか?ルシファー!」

執拗に彼女の部屋の扉をノックする。

クロウリーから教えてもらった話を聞いて
僕の心は穏やかではなかった。

どこで寝ているか分からない彼女だが
部屋の中からは人の気配を感じる。

間違いなく彼女はいる。

それも、起きて。

「ルシファー…ここを開けて下さい。
お願いします…」

扉が開く気配も、開ける気配もない。

「………
開けたくないなら…
そのまま聞いて下さい」

固く閉ざされた扉にゴツンと頭をぶつけ
心から懇願するように言った。

「ルシファー…
人をアクマにするだなんて
考えないで下さい…」

お願いだから

君はそちらに堕ちないで。

「アレはとても悲しく、救いのないものです。
僕はそんな可哀想なアクマを唯一救済する手を持ってるから
エクソシストになったんです。
アクマにすることで失った人を取り戻せるなんて嘘です。
すべて幻想です。
伯爵がアクマを造る為の売り文句でしかありません」

大切な人を

二度もこの手で壊すなんて

もうごめんなんだ。

「ルシファー…
君は独りじゃないんです。
僕が…僕達がいるじゃないですか…!
コムイさんも、リナリーも…ラビやクロウリー、ミランダさん。
いけ好かないけど神田だって…
他にも君を大切に思っている人達はいるんです!
だって僕達仲間じゃないですか!」

君は独りなんかじゃない。

孤独なんかじゃないです。

どうか

それに気付いて…!

「一部の方々の陰口なんて気にしちゃダメですっ
小生意気ないつもの君はどうしたんですか!
こんなの君らしくない!
めったに表情変えないけれど
ふとした時に笑って…
悪気もなく悪態ついてくる君が僕は好きなんですっ
だから…!」

道を踏み間違えないで。

心の闇に

あいつ(伯爵)は敏感なんだ…!

「………明日から…
僕はリナリーと任務に行ってきます。
君の傍にいることが出来ません…
でも…」

「アレン・ウォーカー」

「っ!」

中から声が聞こえ、僕は顔を上げる。

「ルシファー…!」

「熱弁してる所悪いんですが
私がアレイスター・クロウリーに言ったことは冗談ですよ。
心配しないで下さい」

「え…」

「私がアクマなんて造るはずないじゃないですか。
私の大切な人はみんな生きてますもの」

「……」

胸の奥が、痛い。

「それとも…
何か知ってるんですか?
私の身内で亡くなってる人のこと…
私に何か黙ってるんですか?
仲間だと言うなら教えて下さいよ。
今、すぐに」

「っ…」

「何も知らないなら…
死んでるはずありません。
死なせない為に私から離れたんです。
死ぬわけない…誰も…誰も…」

「ルシファー…」

「…最近調子悪くて落ち込んでただけです。
もう大丈夫ですから…
放っておいて」

突き放された感じがした。

だが、どうすることもできない。

僕は淋しさと悔しさを噛み締めながらその場から去るしかなかった。

「私のことを思ってくれてるなら…
今すぐお母さんとお父さんに会わせてよ。
……なんで…教えてくれないの…?
私はずっと待ってるのに…っ」

部屋の扉に寄りかかり

力なくそうぼやいた彼女の声は
僕には届かなかった…




















「兄さん…
一体いつになったら
ルシファーに両親のこと教えるの…?」

リナリーは明日の任務の内容が書かれた書類から目を離し
目を伏せるコムイにそう言った。

「こういうことって
時間が経てば経つほど言いにくいものよ…?
私…最近、両親のことを話すあの人を見るのが辛いの…っ
何も知らないで
何も疑いもしないで
ただ両親の元に帰りたい一心で
癒しを祈って歌うあの人が
可哀想で可哀想でたまらないの…!」

「…………」

「兄さん…!
もういい加減に教えてあげて…!
どうして教えてあげないの…!?」

書斎に両手をつき、身を乗り出すリナリー。

その両目には涙が浮かんでいた。

「……ごめんよリナリー…
ボクだって、分かってるんだ。
教えず引きずれば
その分言いづらくなるってことも
その分、相手が深く傷付くってことも…」

「…兄さん…」

「あの子の泣き顔が見たくない…
それもある。
けれど、何よりもボクは…
あの子に嫌われたくない…
リナリーと違ってあの子とボクは他人だ。
その縁がいつ切れてもおかしくない。
だから…いつまでも言えないんだ。
リナリーと同じように
あの子はボクの宝だから…!」

目を隠すように
コムイは書斎に肘をつき
組んだその手に顔を乗せる。

リナリーは悲しげに顔を歪め
そっとコムイを抱きしめると

「ルシファーが兄さんを嫌うはずないわ!
私とルシファーは姉妹のようにずっと一緒だったんだもの…
嫌うなんてしないって分かる!
あの人をもっと信じてあげて…兄さん…っ」

切なげに

リナリーは涙を流し
抱きしめ続けた…

 


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