19.誰よりも、深い闇を



優しい…

本当に優しい両親だった。

自分から望んで入団した教団だけれど
待っていたのは恐怖、そして絶望。

幼い頃の私はイノセンス寄生型という珍種の上
更にその能力はアクマを破壊する力は皆無な変わり
癒しを祈ることで人体を活性化させるという回復力の力で満たされた異例のイノセンスだった。
その為、それはもう動物実験のように扱われた。

逃げることも出来ず
たとえ逃げ帰っても、私のイノセンスがある限り両親はいつまでも危ないまま。

実験の負荷に堪えられない人達を持ちこたえさせようと
彼らは幾度となく私を実験室に連れ込み
実験される様子を目の前にひたすら歌わされ
そしてあえなく死んでいく被験者を、もう何度見たことだろう。

仲良しだったリナリーもいつしか壊れ
私は誰に頼ることも出来なかった。

だから

早くこの戦いを終わらせて両親の元へ帰る。

それだけを願って歌い続けた。

見返りなんていらない。

いるとすれば、私を早く両親の元へ返してほしい。

他人からの見返りなんて必要ない。
だから他人から感謝される必要なんてない。
私が傷を癒やしたなんて知る必要もない。

両親のことだけを想いながら
それだけを支えに私はどんなことにも耐えてきた。

いつか、帰るから。

それだけを胸に…

でも

死んでしまった。

大切な大切な
たったひとつの支えだった両親が。

これから私…どうすればいいの?

誰の為に癒しを祈ればいいの?

アレン・ウォーカーのように他人の為に…?

無理だよ、そんなの。

私は彼みたいな聖人のような心なんて持ってない。

そんな優しい人になんて私はなれないよ。

どうしてお母さんとお父さんは死んでしまったの?

助ける為に離れたのに

なんで?どうして?

『ルシファーっルシファー!
起きてるか?
今すぐ来てくれ!
ポルックスとカストルの怪我が酷い!
この間紹介した双子のエクソシストだよっ』

双子のエクソシスト…


















あの二人さえいなければ

私の両親は…




















「え?ポルックスとカストルもう任務についたの?」

夕食を食べながらリナリーが声を上げる。

ラビも夕食を口に運びながら

「らしいさ。
だいたいの基礎体力作りも終わって、イノセンスの発動も安定したから
即戦力の為にレベル1のアクマ狩りの任務にクロちゃんと行ったらしいさ」

「早いわね。
短期間でそこまで…」

「ティエドール元帥によると二人は才能があるってさ。
イノセンスとの出会いでその才能が開花したらしい」

「確かに二人の成長は目覚ましわ。
ふふっどんなエクソシストになるか楽しみね」

「ただ、その任務中につい油断してしまってアクマの血の弾丸に被弾したらしい。
クロちゃんがすぐ血を吸い出したから助かったけど体の怪我は重症で
意識が朦朧として厳しい状態さ」

「ええ!?」

「多分今ルシファーの治療を受けると思うさ」

「そう、ルシファーがいるなら安心ね」

ホッと胸をなで下ろすリナリー。

「ところで…」

チラリと横を見るラビ。

そこには大量の料理を次々制覇していく僕。

「アレーン?
ルシファーと初めての任務で進展あったさー?
告白はー?」

「ぅぶ!?」

思わず飲み物を吹き出す。

「きったねぇ!
いきなりなんなんさ!?」

「なっなんで知ってるんですか!?
僕がルシファーのこと…その…」

「いや、多分知らないのルシファー本人とコムイだけさ。
つーかあれで隠してたんさ?」

「アレンくん分かりやすすぎるもの」

可笑しそうにクスクス笑うリナリー。

そ…そんなに分かりやすかっただろうか…

僕は気を取り直して食事を再開する。

「特に何もなかっですよ」

悲しいほどね。

「告っちゃえよー
奥手すぎるさアレンはー」

「がっつきすぎるどっかの万年欲情ウサギよりマシです」

「それってオレのこと?」

「自覚があるだけ救いはありますね」

「最近アレンさんひどい」

シクシク泣き真似をするラビ。

「想いが伝わるといいわね、アレンくん」

「ええ…
もし許されるなら、ルシファーの御両親の代わりに
僕が彼女を支えてあげたいんです」




















「きゃあ!ルシファー!」

ナースがその場に倒れ
肩を激しく上下して胸を押さえる私に駆け寄る。

「どうしたんだルシファー」

ドクターも心配して私に駆け寄ってくれた。

「もう何時間も歌い続けてるはずだ。
なのにどうして…」

どうして

双子の体はこんなにも癒やされないんだ?

「ハァ…ハァ…っ」

自分の歌を聴きすぎて体の体力が限界に近付いている。

双子の体は最初よりは癒されたものの
明らかに癒しの速度は遅い。

本来なら、もうとっくの昔に全快しててもおかしくないというのに…

「すみませんドクター…
なんだか今日は…調子が悪いみたいです…っ
でも、此処まで回復すれば後は自然治癒でも十分でしょう。
今日はもう…休ませて下さい…」

ナースの手を借り
私は立ち上がると治療室から出て行く。

フラフラと覚束ない足取りで自室を目指す。

「私…っ最低だ…っ」

二人さえいなければ

二人が死ねば良かったのに。

そんなこと思いながら癒しなんて祈れるはずがないじゃない。

悪いのは双子じゃない。
アクマだ。

そんなこと分かりきってるはずなのに…

「…っお母さ…お父さ…っ」

涙が

止まらない。

 


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