18.素直になれない



クラウン・クラウン(神ノ道化)を解くと
僕はとりあえずその場のアクマの煙から逃れる為ルシファーの腕を引く。

十分に離れた後、僕は彼女の両頬を包むようにパチンと優しく叩き
なるべく怒った顔をして

「囮だなんて…
そんな危険なこと自ら進んでしないで下さい」

「信じてるって言ったじゃないですか。
ならあの状況を打破出来る方法があったんですか?」

「とっさには思いつきませんでしたが
転機はあったはずです。
お願いですから…
命を投げ出すような真似だけはしないで下さい」

大好きな人を二度も失いたくない。

そう思った途端急に怖くなって
僕は思わず彼女を抱きしめた。

抵抗することもなくルシファーは大人しく抱かれ

「…そんなに嫌だったんですか?」

やがて、彼女の意外そうな声にハッとし、慌てて体を離した。

そして背を向け手で顔を覆い

「(しまった。やってしまった…)」

まだそんな関係じゃないのに思わず…

ああ、片想いって怖い。

自分が何しでかすか分からないから。

「アレン・ウォーカー」

「な…なんです?」

「傷だらけじゃないですか」

「ああ…窓突き破って外に出ましたから」

多少切り傷はあるけど
普段のアクマやノアとの負傷を考えたら小さいものだ。

「大したことないですよ。
汽車から出ず戦ってたら乗客に被害が出ますので…
そっちの方が怖かったんです。
今はファインダーの方が何とか処理してくれてると思いますよ」

血がにじみ出ている腕を舐める。

ああ…服に小さいガラスの破片がついてるな…
洗濯どうしよう。

ふと彼女を見ると、ルシファーの白い手に一筋の赤い線が入っていた。

切り傷だ。

「あれ…怪我しないように団服で包んだのにな…
隙間からガラスが入ったかもしれないですね。
すみません…大丈夫ですか?」

その腕を取ると、逆に手を握られた。

「え」

「貴方の方が傷だらけなのに
この傷を心配するなんてバカですね」

「は…」

ポカンとする僕の髪に触れ、ガラスを取り除いてくれるルシファー。

「じっとして」

オラトリオ(聖職者の歌声)が発動された。

僕の手を握り、間近で歌が歌われる。

所々にあったズキズキと痛む傷が次々癒やされてゆく。

歌声も、傷が癒える様子もとても心地良い。

あれ…
でもルシファーって、自然治癒で治せる傷は治さない人じゃ…

何となく握られている彼女の手を見ると
傷ついていた箇所がなくなっていた。

「え…
ルシファーの傷がない…?」

完全に傷が癒え、歌は中断される。

疑問に思っていた事を彼女が答えてくれた。

「私のオラトリオは私の声が聞こえるすべてが対象者ですから。
自分自身も例外じゃないんですよ」

「そうなんですか」

「ただ、他の人は耳を塞いで声を遮断することが出来ますが
私は耳を塞いでも自分の声は遮断出来ません。
耳を塞いで声を出しても
自分の中で普通に聞こえるでしょう?
そういうことです」

「なるほど。
他人を癒やしつつ自分も癒せるなんて便利ですね」

「そうでもないですよ。
高速治癒ですから体力使ってるには変わりないですし…
体が何ともない人に活性化を促す場合
少しの時間なら疲れを癒やすことは出来ますが
やりすぎると逆に疲れるんですよ」

「……もしかして…
任務先の移動が汽車にこだわったのは
神田の治療をわざと遅らせ、ある程度自然治癒に任せ
治癒の際の体の負担を僅かでも少なくする為ですか…?」

僕の手を離し、顔を背けるルシファー。

「違います。
私が疲れたくなかっただけです。
というか汽車に乗りたかっただけです」

「……はいはい」

まったく。素直じゃない。

あの時僕が「神田の傷完治してるんじゃないんですか?」というつっこみに対して
「よし」と言ったのはギャグでも何でもなかったということなんですね。

「それにしても、ルシファーは頭の回転が早いですね。
初めての戦闘なのにうまく攻撃を避けたり、とっさに囮を思いつくなんて」

「昔から逃げ足は早かったんです。
アクマに追われまくる幼少時代でしたから」

「今まで無事だったのが信じられないくらいですよ」

「座って」とルシファーに言われその場に腰を落とす。

彼女は身をかがめ僕の髪や服についた小さな破片を取り除き始めた。

「貴方は本当に他人の為しか考えてないんですね。
こんな無茶して。バカですよ」

「バ…バカ…
そんなに何度も言わなくても…」

「ほんと、バカ…」

ルシファーの顔が赤く見えたが気のせいだろうか?

真夜中の暗さで明確に見ることが出来なかった。

「…ルシファー、あの…」

遠くから

ファインダーの方が駆けつける声が聞こえたのはその時だった。

 


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