15.手を差し伸ばして



歌が終わると僕はすぐに聞いた。

「神秘的な歌ですね。
何という曲なんですか?
言葉も聞いたことない国の言葉ですし」

「聞いたことなくて当然です。
タイトルはないし、歌詞も造語ですから」

「へ?」

「この曲は私が作ったものです。
オラトリオ(聖職者の歌声)はこの曲でしか発動しませんでしたので」

「え…ルシファーが作った曲…?
歌詞も君が?」

「はい。
私が作った造語です」

「凄いな…
どんな内容の歌詞なんですか?」

「教えません」

「へ」

「好きに想像して下さい。
この歌はそういう歌ですから」

なるほど。

歌詞を相手に想像させることで
曲の神秘性を上げてるんだろうな…

ルシファーはイノセンスを解くと神田の横に座り

「怪我は治りましたか?」

「元々ほぼ完治してたんだよ。
方舟で来たんじゃねぇのか」

「せっかく外に出られるんですから汽車で来ました。
いやあ、汽車は長時間だと退屈ですが楽しいもんですね」

「何やってんだテメェは。
つーか何しに来たんだよ」

「観光もどき」

「帰れ!」

ギャーギャー騒ぐ神田と
対称的にのんびりと受け答えるルシファー。

まるで風を柳が受け流す如く
どんなに神田が凄んでも彼女には効果がない。

「アレン、飲み物を買いに行かないか?」

「え?」

神田同様傷が完治したマリがほぼ押し出すように僕を病室から出した。

廊下をマリと並んで歩きながら僕は不安に駆られ

「マリ…
神田とルシファーってどういう関係なんですか?」

「え」

「そういう関係なんですか?
やっぱりそうなんですか?
付き合いは長いんですよね?
バッ神田ぶっ殺す!!」

金輪際ルシファーは神田に近付けない!
絶対にだ!

決意新たに手をグッと拳にすると
それを見ていたマリが笑いだした。

「……………
なんで笑うんですか」

「ハハハッ
いや、アレンは彼女に惚れ込んでるという噂は
本当だったのだと思ってな」

「う」

隠してなかったわけではないけど
さすがに分かりやす過ぎたか。

日頃から何かと彼女に絡んでるし。

少し後悔しながらマリと病院の食堂に入り、飲み物を頼む。

マリは何故か二人分だけのコーヒーを頼むと
僕は近くのイスに座るよう促され、素直に座った。

彼は向かい合うように座って僕にコーヒーを渡し

「安心してくれ。
神田とルシファーはそんな仲じゃない。
悪態つきあう友人同士だよ」

「そうなんですか…」

重かった心が少し軽くなった気がする。

ホッとしてコーヒーを一口飲んだ。

「昔は神田が今のアレンのようなことを彼女にしていたんだ」

「………はい!?」

あの神田が!?

「もちろん神田も嫌々だったよ。
だが私達の師匠から言われて渋々ね。
まだルシファーが教団に住んでいた頃はよく神田の近くで眠っていたものだよ」

「なんで神田の近くで…」

「昔の彼女も教団内ではあまりいい噂はなかったんだよ。
彼女も彼女で本心を言わないだろう?
だから、何も言わず、何も聞いてこない神田の近くが一番居心地が良かったそうだ。
よくブツブツ文句を言いながらルシファーを運ぶ神田を見かけたものだよ」

ライバルだ。

やっぱりダメだ。
友人同士でも神田はライバルだ。

「それにルシファーはほぼ神田専門のヒーラーみたいだったんだ」

「え゛」

「昔はエクソシストが少なかったからね。
神田は駆り出されっぱなしで怪我もよくしてた。
神田は事情があって回復は早いけど
あまり体に良くないんだよ。
だからすぐに彼女が呼ばれていた。
だが、しばらくしてあまりにも周りのルシファーへの非難が耐えなくてね…
皆の気持ちを収集するため
一時的に彼女は教団から引き離れることになったんだ」

「………なんで彼女はそこまで嫌われるんですか?
優しい人なのに」

マリはコーヒーを飲むと少しの間考え

「分からない。
だが、ひとつの原因は彼女が何も言わないから、もあるだろう。
私も神田も未だに彼女の本心が分からないんだよ。
辛いなら辛いと言ってほしい…
言ってくれなければ
どんなに助けたくとも、こちらは手を差し出すこともできない…」

「どうして、何も言ってくれないんでしょうね…」

「昔の教団は本当にひどかったからな…
もしかしたら彼女は、もう助けを求めることを諦めてるのかもしれないな…」

 


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