10.理想の友好関係



「ルシファー、リナリーから聞きましたよ。
君のオラトリオ(聖職者の歌声)のこと」

僕の前に座って食事をしていた彼女が
無言でこちらを見てくる。

「さして親しいわけでもないのに
相手をただ治したい一心で祈りながら歌えるなんて
とても普通の人じゃ出来ませんよ。
凄いですね、ルシファーは」

「それを言うなら
アレン・ウォーカーだって
人だけでなくアクマをも救済しようとするその心掛けは
誰にも真似できるものじゃないですよ」

「僕は過去(マナ)のことがあるから…」

「…私の祈りなんて、凄いと言われるほどじゃないです」

「え?」

「私にだって
人間並みの願望があって
それのために癒やしを祈ってるに過ぎません。
感謝されたり、誉められたり
そんなことされても困るだけです」

「ルシファーの願い…?
君は何を願っているんですか?」

彼女は答えなかった。

言いたくない事を強要するわけにもいかず
僕は食事を再開する。

ルシファーは両親の死を知らない。

双子を保護する際に
紳士と婦人2人がアクマの犠牲になったことは知っているけれど
その2人が両親であることは僕達も、コムイさんも話していない。

両親を深く愛している彼女が願うもの。

それは間違いなく両親が関係することだろう。

もしそうなら

彼女の願いは
もう一生叶わないものに…

「…………」

マナを失ったから
家族を失った時の消失感や淋しさはよく分かる。

いつかコムイさんから両親の死を伝えられた時
傍にいて支えてあげたい。

彼女は

僕の好きな人だから。






















「ポルックスです」

「カストルです。
ぼくはポルックスの兄になります」

鏡のような双子とはまさに彼らのことだ。

目の前は同じ顔が並んでいて不思議な感じがする。

親を不慮の事故で失ったらしい2人は
どちらも痩せているというよりやつれていた。

「アレン・ウォーカーです。
よろしくお願いします」

「ラビっす。はじめまして」

「ブックマンじゃ」

「リナリー・リーよ。
よろしくね」

「私はミランダ・ロットーよ」

「私はアレイスター・クロウリー三世である」

順番に自己紹介をし
ポルックスとカストルは同じタイミングで笑みを浮かべて「よろしく」と言ってくる。

「任務でいない神田クンとマリ、チャオジーについては後日紹介するよ。
って、あれ。あと一人…」

「ルシファーっ起きて起きて!
もうちょっと踏ん張ってっ」

リナリーに揺さぶられ
まどろみにハマっていたルシファーはハッと意識を取り戻す。

そして双子を見ると実に眠そうな顔で

「…………ルシファーです」

キョトンとする双子にコムイさんは苦笑して

「ごめんねー
この子寄生型イノセンスの影響で常に眠い子なんだ。
悪気はないから許してね?」

「そこにいるアレンってやつもイノセンスの影響でかなりの大食いさー」

「ちょっとラビっ
いきなりバラすことないじゃないですか!」

「いや、隠しきれるもんでもないさ」

「そういえば、クロウリーも寄生型なのに普通ね」

「リナリー、アクマの血を吸って豹変するのは普通じゃないさ」

そんな会話を聞いていたポルックスとカストルは
緊張した面持ちが少しだけ和らぎ

「楽しい人達だね兄さん」

「そうだな」

「とても楽しいわよ。
此処に来て笑うことが多くなったもの」

「であるな」

ミランダさんの言葉にクロウリーが同意する。

「だが、任務はいつも命懸けじゃ
何時までも浮ついた気持ちでいると死ぬぞ」

ブックマンの厳しい言葉に双子は

「はい。
僕と兄さんは、僕達に身を投げてまで守ってくれた
あの婦人と紳士の為に戦う決意をしました」

「償いきれるとは思っていないけど
そこで少しでも遺族の方々に謝罪が出来るなら…」

僕等全員が無意識にルシファーを見る。

しかし当の彼女は眠そうに船をこいでいた。

エクソシスト全員はルシファーの両親が亡くなったことを知っている。

それは全員で彼女の力になりたいからだ。

ルシファーの陰口を言う人なんてエクソシスト組にはいない。

むしろ、誰にも真似できない力を使い
平等に癒やしを祈り、歌い続ける彼女を尊敬しているくらいだ。

「(ポルックスとカストルは
守ってくれた2人がルシファーの両親って知らないんだな…)」

入団したばかりの上、初対面であるルシファーを目の前に「遺族です」なんて紹介したら…

2人は途端に居心地が悪くなってしまうだろう。

これも打ち明けるのに時間が必要そうだ。

「まずは修行を積んで
イノセンスを自在に操れるよう頑張ります」

「ええ、頑張って下さい。
応援してます」

僕はそう言って、ポルックスに笑いかけた。

 


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