9.読み間違えた心



過労で倒れた人がいるから今すぐ来てほしい。

ゴーレムからの通信で寝付いたばかりのルシファーは叩き起こされた。

睡魔とそれはそれは激しい戦いをしながら無理やり奮い立たせ
ルシファーは部屋を出て科学班のいる部屋へ向かう。

欠伸を噛み締め、フラフラと歩いていたとき
偶然バランスを崩し
慌てて手と肩をついた壁は室長室だった。





















「それ、本当ですか…?
コムイさん」

信じられず僕は問う。

いや、信じたくないが本心だ。

暗い表情のリナリーと
固い表情をして何も言わないコムイさん。

ラビも驚きのあまり言葉が出ないようだ。

僕達はただ、新しい双子のエクソシストに会いに来ただけだったのに…

「双子を庇って亡くなった紳士と婦人が
ルシファーの両親って本当なんですか…!?」

再度問う。

コムイさんは無言で頷いた。

「ごめんなさい…!!
私がっ私が間に合っていれば!」

わっとリナリーが泣き始めた。

「私…っもうルシファーにどんな顔して会えばいいのか分からない!
あの人がどんなに両親を大切にして、どんなに想っていたか知ってたのに!
償いきれないわっこんなの…!!
私のせいだわ…!」

「リナリーのせいなんかじゃありませんよ!」

「そうさ!
リナリーのせいじゃないさ!」

「でも!」

「リナリー。
あまり自分の責めるんじゃない。
さっきも言ったように…
これはどうしようもなかったんだよ。
仕方なかったんだよ…」

唇を噛み締めながらコムイさんはそう諭す。

「…ルシファーはまだ両親の死を知らないんさ?」

「知らないでしょう。
ついさっき僕が、眠たがってたルシファーを自室のベッドに寝かせつけた所ですから」

未だに泣き止まないリナリーの肩を抱いて背を撫でる。

「いつかは言わないといけない。
でも、ボクは今はまだその時じゃないような気がしてたまらないんだ」

教団内で絶えないルシファーへの陰口。

本人はなんともないような顔をしているが
果たしてその表情と心情が一致してるとは言い難い。

優しい人は、変にプライドが高い所があるから。

「あの子が悲しさのあまり早まったことをしないかボクは不安なんだ。
だから…ルシファーのことをよく理解している君達が支えてあげてほしい」

「コムイさん…」

「ルシファーの両親のことは時期を見てボクから話す。
憎まれ役はボクが買うから…」

「そんなこと言わないで兄さん…
私もルシファーに謝るわ。
許してもらえないだろうけど
たくさんたくさん謝るから…っ」

「リナリー…ごめんよ…」

ルシファーが眠っていてくれて本当に良かった。

リナリーの背を撫でながら僕は切実にそう思った。

それから僕達は両親の死のことはルシファーには言わず
コムイさんの判断に任せることを約束した。

今この場にいない神田にも伝えておくようだ。

入団者の双子はまだファインダーの人に案内され
教団の中を見て回るついでに部屋を割り当てている段階らしい。

紹介する時は呼ぶよ、とコムイさんに言われ
ひとまず室長室から退室することにした。

室長室から誰もいない廊下にでる。

リナリーの方はだいぶ落ち着いてきたようだ。

「大丈夫ですか?リナリー」

「大丈夫…
いつまでも私が泣いてるわけにはいかないもの」

涙を拭い、そして笑みを作る彼女。

本当にリナリーは強い女性だ。

ひとまず落ち着いて
これからの事を話そうとラビの提案に同意し
僕達3人は談話室に向かった。

そこで見たのは、談話室のテーブルに突っ伏しているルシファーの姿。

血の気が引く感じがした。

自室のベッドで眠っていたはずの彼女が何故ここに?

まさか

あの話を聞かれたんじゃ…!

「ルシファー!
どうしたんですかっルシファー!!」

慌てて駆け寄り、彼女の背を激しく揺さぶる。

リナリーとラビも同じ嫌な予感に顔が青ざめていた。

彼女は顔を上げようとしない。

ますます嫌な予感がする。

「起きてっ」

「起きるさルシファー!」

リナリーとラビも声をかけ
そこでやっと、ルシファーの体がピクリと反応した。

「ん…」

ゆっくりと頭を上げる彼女は寝起きの顔。

寝過ぎの為か若干目が赤い。

ぼんやりと僕達を見ると

「…何かあったんですか?」

「え?」

「3人とも変な顔してますよ?」

いつもののんびりとした雰囲気。

「アレン・ウォーカーなんて血の気が引いて
ますますもやしっぽいですし」

「アレンです男女」

いつもの毒舌。

何ら変わりはない。

「ねぇ、ルシファー…
部屋で寝てたんじゃないの?」

「寝付いた直後に
科学班の方で倒れた人が出たと通信が来たんですよ。
その方とついでに科学班方の疲労を回復させる為に起きて向かったんです」

「に…兄さんの部屋で
何か聞いたりしなかった?」

「……何、とは?」

キョトンとするルシファー。

リナリーはそれを見てニコッと笑うと

「う…ううん!
いいのっ気にしないで!
ほらアレンくん、ラビっ
もうすぐ夕食よ?
ルシファーも見つかったし食堂行きましょうっ」

リナリーがぐいぐいと僕とラビの背を押す。

泣いた後の顔をルシファーに見られたくないのだろうか。
僕等は何も言わず大人しく押され続けた。

それを後ろで不思議そうに眺めるルシファー。

どうやら何も知らないようだ。

一安心して食堂へ向かう

「………お母さん…お父さん…」

彼女が

そう呟いていたとも知らずに。

 

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