夢の終わり 中編


「じゃあいっくよー!!せーの!!」


その合図と同時に着火し、遊とケンタが楽しそうに声を上げながらこちらへ駆けてくる。舞い上がった小さな花火が、夜空を鮮やかに染めた。




バトルブレーダーズから、もう二週間が経とうとしていた。

代わる代わるお見舞いに来てくれた皆に話を聞くと、それはそれはすごい戦いだったらしい。エルドラゴに支配された竜牙を、銀河は倒すのではなく救うことで決着をつけたのだと。全員の心を一つにして、竜牙のブレーダー魂を取り戻したのだと。…すごいなあ銀河、まさかそういう展開だったとは。


私はというとあの後ずっと眠り続けており、目を覚ましたのは決勝戦一週間後のことだった。聞いた話によると、エルドラゴの餌にされたヒカルも翼も、そしてキョウヤも決勝戦直後には目を覚ましたらしいじゃないか。なんだそれずるい。
しかも、なんか三人が魂となって現れたとか、銀河がペガシスに乗って空を舞ったとか……なにそれすっっっごい見たかった。


まどかとケンタが興奮気味に話してくれた試合の内容は、想像することしかできない。

私の記憶にも、その試合はないのだ。
物語でも見逃して、ここでも見逃した。なんだかその事実に笑ってしまった。

ついに、私にも分からないことができた。もうこの先の未来は何も知らない。それは、少しだけ肩の荷が降りたような気分になった。あんなにも苦しみ、悩んで、立ち向かっていたつもりだったのに、結局解決したのは時間だ。余りにも、呆気ない。



「体はもう平気なのか」
「おー、ぼちぼち」
「…辛くなったらいつでも負ぶってやるぞ」
「やだよ、絶対降ろしてくれないやつじゃん」



揶揄うように笑う翼から視線を外し、目の前に向き直る。


流星さんの図らいにより、私たちは今、古馬村に来ていた。
初めは少人数の予定だったのだが、翼が興味を示し、遊が便乗し、折角ならとヒカルを誘い……そんな風にして、ケンタ、まどか、キョウヤ、ベンケイといつの間にか大人数での打ち上げ状態になっていた。元々古馬村出身の銀河と氷魔は、まあ言わずもがなだ。


この人数で村で騒ぐのもなんだと、夜も更けてきたところで場所を変えた。

私の始まりの場所。
目の前の湖には、綺麗な満月が映し出されていた。


「あー、そういや流星さんWBBAの本部長になるんだって?」
「ああ」
「じゃあ翼の上司になるわけだ」
「……。」
「なんかコメントしてやれよ」


今遊たちが楽し気に打ち上げている花火も、流星さんが用意してくれたものらしい。うーん、お茶目だ。

流星さんといえば、私の存在には早々に気づいていたらしい。私がこの世界へ来た日、山で傷をいやしていた流星さんも光を見て、且つ北斗から話を聞いていたと。いろいろ気遣ってくれていたそうだが、そんなの知るはずもなかった。…大人ってこわー。


いろんなところで、いろんな人に助けられてる。
自分もどこかで、返せないだろうか。


「ミラランー!線香花火バトルしよー!」
「パース」
「ええー」
「翼さん連れてけ、翼さん」
「えーつばさー?」
「遠慮するよ」


動くのが少し面倒で断ってしまったが、今はなんとなくこうしてぼんやりしていたい気持ちだった。横の翼も多分そんな感じなんだろう。
ちぇーと言いながら戻っていく遊を見送ると、他は皆参加するようで盛り上がって円になっていた。うーん、なんていうのかな、こういう、幸せって感じだ。


「あ、キョウヤはやらないのか?」
「付き合ってられるか」


とか言いつつここまで来てるんだから、彼は生粋のツンデレだ。口にしたかったが、今それをすると折角拾った命を落としかねないので飲み込むことにした。そんな彼は、タテキョー!!と容赦なく絡みにいく遊からどうやら避難してきたらしい。


特に何を話すわけでもなく、少し先の皆に視線を送る。初めは氷魔が優勝したようだが、二戦目には油断したのか、可愛らしく真剣な顔をしたまどかに破れていた。

……やっぱり参加すればよかったかなあ。その火が落ちる瞬間、ぎゃー!とショックを受ける皆の一挙手一投足に小さく笑ってしまった。すると、また新しい線香花火に火をつけ、途端に全員が静かになるものだから、また笑ってしまった。


ああ、楽しいな。
こんな時間がずっと続くといいなあ、と。こんなぼんやりした気持ちを持ってしまうのは、まだ体が治りきっていない、なんだかふわふわした状態だからかもしれない。



そういえば、まだ、果たしていない約束があった。



思い出したタイミングが悪かったのか、しんと、面白いくらい集中している皆に、悪戯心が芽生える。少しだけ声を張って、呼びかけた。


「ねえ、ちょっと聞いてほしいんだけど」
「なんだよ美羅、今集中してるんだよ!」
「美羅もやる?じゃあこれが終わったら…」



「私、別の世界から来たんだ」




「「「「………は?」」」」




真横からの視線にも、正面からの視線にも、ニッコリと。

皆の手元で、線香花火が地面に落ちた。




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