君の騎士になりたい 「僕ひとりでも大丈夫だよー?」 「今日は遊の王子様やりたい気分なの」 「どっちかっていうと、タテキョー達が乗り込んできた時のミラランは、王子様ってよりお姫様だったけどね」 「遊くん抉らないで」 翼と竜牙の試合が終わり、次はいよいよ準決勝だ。 竜牙を倒すために、策を練り、機を待ち、持てるすべてを出し切った翼。それでも、竜牙には届かなかった。むしろ、それは悪い意味で彼をその気にさせてしまう結果となった。会場全体を巻き込むエルドラゴの攻撃が、翼を、アクイラを容赦く追い込み、彼は餌にされた。 そして、銀河と水地の戦いがもうすぐ始まろうとしている。 竜牙と翼の試合後、その内容にショックを隠し切れない遊だったが今は何とか笑ってくれている。皆の飲み物買ってくる!と元気よく宣言した遊に、私も一緒についていくことにした。 先ほどの発言にあははーと楽しく笑う遊だが、あまり抉らないでほしいところだ。何故って、自分の女々しさに泣けてくるからだ。何故もっと早く決断できなかったのか、と。まあ、全部今更な話だ。 「お仕置きはちゃんと受けてもらいますよ?」 「お前それは犯罪だーー!!!!」 見事に暗黒星雲の皆様方に待ち伏せされ、遊と共に取り囲まれてしまった。裏切り者を、逃がすほど甘くはないということだ。 明らかに犯罪紛いの発言をしている大道寺が指示を出すと、暗黒星雲の奴らが一歩一歩と近づいてくる。咄嗟に遊を背中に隠したが、この人数だとあまり意味はないのかもしれない。 「それにしても、随分早い再会でしたねえ」 「本当だよな。できればもう会いたくなかったよ」 まさかこんなことになるとは。 今後の戦いのことを考えていたら、この展開はすっかり頭から抜け落ちていた。向き合うと言ったが、こいつとだけは向き合いたくなかったぞ。 その視線を逸らさず口元を引き攣らせてしまうと、小さく遊の悲鳴が聞こえた。振り向いた時には、背後から回った奴らが既に遊の体を拘束していた。 「遊を離せ!!」 「聞く義理はありませんね」 遊との間には、既に暗黒星雲の奴らが割って入り、そちらに駆け寄ることが叶わない。制裁を受けた昨夜のことを思い出しているのか、遊の瞳は不安げに揺れていた。 一人が徐に手を伸ばしてきたが、その手を振り払う。恐らく、逃げるのは無理なのだろう。だったら、やれることはひとつだ。 「遊に乱暴しないでくれ」 「だから言っているでしょう、」 「全部話してやるよ」 大道寺が僅かに反応を示す。よし、作戦通りだ。 「私の何に期待してたのか知らないけど、聞きたいことがあるなら言ってみろよ。答えてやるさ、全部」 まあ所詮、ハッタリではあるのだけれど。だって私には本当に何もないんだから。だけど、こんな言葉でも取引材料になるなら、いくらでも使ってやる。遊の安全さえ確保できれば、あとはどうにでもなれだ、実際なんとかなるはずだし。 なるほど、と口にする大道寺はそのまま態とらしく眼鏡を押し上げる。ムカつく動きだーと思いながらも、その仕草を見送り、言葉を待った。 すると、その言葉を待たずして控えていた彼らに、両腕が拘束される。 突然なそれに思わず「は?!」と間抜け声を上げ大道寺を見ると、そこには予想外の笑顔があった。 「もう、必要なくなりました」 「は、それどういう…」 「私はもう手を引きましょう」 確かに私はそれを望んでいた。いや、しかし、何故今…?! 何も言えずに大道寺を凝視するも、勝ち誇ったような笑みが浮かんでいるだけだ。鼻で笑い、大道寺は言葉を繋げる。 「時空を歪ませるほどのエネルギー体、非常に魅力的ではあったんですがね」 「は?時空…?」 「自覚がなければ使い用もない」 「どういう意味だよ」 「早々にアメリカへ引き渡してしまえば良かったと、それだけは後悔していますよ」 「っなに、アメリカに友達でもいんの?」 言っている意味が分からない。思わず軽口を叩いてしまったが、その目が冗談ではないと語っている。こちらの反応など気にせず、大道寺は小さく笑い声まであげる始末だ。 「しかし!暗黒の力は既に完成しつつある。竜牙様とエルドラゴさえあれば、それだけでもう十分でしょう」 全然分からないけど、なるほど、ひとつだけ理解したぞ。とりあえずもう、この盾は使えないってことだな。 …どうしよう。もう一度遊へ振り返ると、遊も困惑した目でこちらを見ている。ダメだ、せめて遊だけでも逃がさないと。掴まれた腕を振り払ってみるが、強い力で外すことはできなかった。 「天童君、美羅さん。せめて最後くらい、我々の役に立ちなさい」 エルドラゴの餌として。 ゾッとして、空気が変わった。 「次の竜牙様の相手は、盾神キョウヤ…」 思い出したように、ああ、と大道寺は笑った。 「じゃあ、ますは貴女からですね」 その目がこちらへ向くや否や、取り押さえてた連中に体を引きずられる。ダメだ、このまま連れていかれてはダメだ。しかし、その手が外れない。もがく程その力が強まっていく、ああ、うざったい!! 「ミララン!!」 「ざけんな放せよ!!」 視線の先では、遊も同様に暴れもがいている。 ひとりの手が遊の口を乱暴に塞いだのを見て、頭の中でぶちっと音がした。 しかし、それが口から飛び出す前に、自分たちの名前を呼ぶ声に気づいた。ハッとして視線を向けると、ケンタと氷魔が、こちらへ走ってきている。 が、無情にもその手は届かず、大道寺によって閉められたシェルターの向こう側から、こちらへ呼びかける声が聞こえる。 だけど、良かった。これで大丈夫だ。 引きずられる足に力を入れ、なんとか踏ん張った。 「遊!!大丈夫!!絶対助かるから、大丈夫だからな!!」 遊の口が開くのを確認する前に、口も視界も覆われてしまう。 でも、遊はケンタと氷魔が助けてくれる。それが分かっただけでも十分だ。 私はこのまま、竜牙のもとへ連れていかれるのだろうか。多分、そうなんだろうな。 ……骨も残らないかもしれない。 記憶の終わりなんて来る前に、私、消滅するかも。 その事実に、不思議と心は落ち着いていた。 . ← ×
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