バトルブレーダーズ開幕!


「いよいよ始まるのね…」
「そうだな…」
「……。」
「……。」
「っ…いっ、いよ、いよっは、始まるっのね…!」
「笑いすぎだよまどか」


ブレーダーDJの選手紹介でステージに登場した皆は、それぞれの思いを胸に表情を引き締めている。
そんな時、一緒に客席で観戦しているまどかはさっきからこの調子だ。いい加減慣れてくてもいいと思うんだが。


「第一まどかが言ったんだろー?!」
「そ、それはそうなんだけど…!」


結局、ポイント不足によりバトルブレーダーズには出場できなかった。怪我も治りきってないし、仕様がないなと諦めはつく。そもそも後半の方は、ポイント集めをしている場合じゃなかったってのが、大きな理由ではあるけどさ。


「っだだ、だって、何があるか、わ、分からないじゃふふっ」
「いやもうそこまできたらいっそ声に出して笑ってくれ」


しっかり見届けよう。むしろ、あんな激戦を間近で見られるのかすっげー楽しみだ!!気持ちを切り替えそう意気込んだところで、一つ問題が起きた。

そう、私は留守番と言われたのだ。皆曰く、怪我のことや暗黒星雲の件を考えると、会場に来るのは危険だと。
それだけは嫌だと我ながら最上級の駄々をこね且つ涙ながらにお願いをして、今私はここにいる。多分、この世界に来てあの時が一番泣いた。なんて情けない。いっそ清々しいくらいだ!!


まどかからの条件。
少なくとも、暗黒星雲から少しでも見つからないようにということで、変装をしろというものだったんだけど、さ。



「何度もいうけど、このサングラスはちょっと…」
「………っ…」
「堪えなくていいよまどか」



頭にすっぽり嵌るキャップはいいとして、このサングラスは誰が考案したものなんだろう。今の私は、グラサンにキャップという小物感漂う完全に怪しい人になっていた。なあまどか氏、そもそも皆と一緒にいたら、すぐ分かるから変装はあまり意味がないと思うんだ。なあ、どう思うまどか氏。


まあ確かに、私も途中からノッてしまった自覚はあるので強くは言えないんだけどさ!
このスタイルに決定する前、数ある変装グッズから鼻眼鏡を装着した時には、キョウヤの腹筋が崩壊したので封印した。……あんなキョウヤは初めて見た。調子に乗って何度も正面に回り込んで後頭部強打を食らったのは、後悔している。痛え。

キョウヤは、意外と笑いのツボが浅いんだな。何に使えるかは分からないけど、今後の参考にしようと思った。









大会運営委員長にあたる大道寺から、一回戦の組み合わせが発表される。
記憶と違わぬ対戦カードだ。
二回戦以降の組み合わせも、恐らく変わりはないのだろう。


いろんな思惑がある大会だ。最終的には、こんな箱じゃ収まらないバトルが繰り広げられる。
だけど、個人的には吹っ切れたものがあって、なんだか勝手だけど変に清々しい気持ちで皆を応援することができるんだ。今、自分にできることを私も精いっぱい頑張ろう。


「まどか」
「ん?」
「勝とうな、絶対」
「…ええ!」


力強く、頷き合った。


「……ふふっ」
「台無しだよまどか」





◇◇◇





「えーと、確かこっちだよな」


無駄に広いエントランスで辺りを見回すと、一回戦の開始を楽しみに待つ大勢の人がいた。少しだけ風にあたりに来たはいいけど、あまり長時間離れているとまどかを心配させてしまう。思わず苦笑いを浮かべてしまうのは、なんとも自分でも表現しにくい感情だ。こそばゆいような、申し訳ないような。



スタジアムまでの道を確認し、足を進めようとした

その時、



「え、あの、大丈夫ですか?!」



入り口付近で力尽きたのか、座り込む少年の姿が。

人に酔ったのか?うわあああ大変だ、とりあえず医務室、いやどっちか分からないけど絶対どっかにあるだろ!!
少年に駆け寄ってみると、意識はあるようで、大丈夫だと小さく答えてくれた。ん、てか待てこいつ、見たことあるぞ…?なんとなく覚えのある顔が気になって、視界を悪くするサングラスを外す。明るくなった視界では、少年も同じような表情をしていた。


「君どっかで…」
「え……あ!お前、あの時の…!」
「え…、……、あー!!君首狩団の??!!!」
「え、センスどうした…?」
「そこは触れないでいい」



そうだ、思い出した!!
コイツ、私が首狩団に度々お邪魔してた時に何故かちょっと仲良くなった奴だよ!!うわー久しぶりだー!!


「久しぶりじゃん!なになに、キョウヤ達の応援しに来たの?」
「ああ…まあな。でもこのザマさ」
「具合悪いのか?」
「いや、緊張しちまって」
「愛の大きさよ」


首狩団は解散したみたいけど、元々キョウヤの男気に惚れて集まった面々も多かったはすだ。こんな大舞台で憧れの人の試合を見れるのは、多分、いや相当心身ともに受けるものが大きいのだろう。分かるよ、少年。


「あとは寝不足だ」
「それは自己管理だわ」


遠足の前日パターンか?!
確かに彼の目の下には薄っすら隈があった。


「ここで会ったのも…何かの縁だ…」
「そ、それ以上は言っちゃダメだ!知ってるか、それはフラグってやつだ!」
「これを、お前に、託したい」
「(始まってしまった…)」
「本当はもっと配るつもりだったんだが、もうその余力はない…。だからお前にだけでも、これをひとつ…!」



そう言って、彼が差し出したもの。



「こ、これは…!!」



確かにそれは、届けなくてはならない。
愛だ。



「分かった、任せろ!!」
「お前が持っていたら、きっと…キョウヤさんも喜ぶと思う」


いや、それは絶対ねーよ。




◇◇◇




「美羅、遅かったじゃない!」
「もう始まるところだぞ」
「ごめんごめん」


一戦目のベンケイは既にスタジアムへ向かったようで、客席には皆が揃っていた。
キョウヤの隣が空いていたので、そのまま端から詰める形で私も席に着く。途端、キョウヤが私の顔を見て、その視線をずらす。…いや笑いかけたの気づいてるからな、もういーよそれは。


「頑張ってほしいね、ベンケイ!」
「ベンケイなら大丈夫でしょ」


まどかとケンタの柔らかい会話に頷きつつ、隣へと視線を向ける。


「キョウヤ」
「あ?」
「頑張ってな」
「当然だ」
「絶対絶対、頑張ってな!!」
「…なんだよ、急に」


得意げだったキョウヤの表情が、怪訝そうなものに変わる。でも、応援に力が入ってしまうのは仕様がない。だって今の私は、彼の分も想いを受け継いでいるのだから…!!!


「私、応援してるから!!!」


背中に隠していたその愛を、しっかり見せつけた。



途端、



「え?」
「はっ?」
「え、それどうしたの美羅?!」



目を見開く皆と、



「…………あ"?」



固まる表情。



キョウヤの写真が印刷された、ハート型の団扇。
こんなもの託されたら、全力で、振るしかない。しっかりと両手で握りしめ、胸の前に構えた。にしても、すごい、手作りだなんて思えないクオリティだ。彼の愛と努力を思い、ふいに涙が出そうになる。キョウヤ戦までに体調が復活することを祈るよ、マジで。


「すごい凝ってるわね」
「え、美羅それ作ったの?」
「いんや、託された」
「だ、誰に…?」
「それは、シークレットだ」


恥ずかしいから言わないでって言ってたしな。なんだアイツ乙女か!!
そして目の前の表情は、相変わらず固まったままで色がない。


「そういうわけで、キョウヤ。キョウヤの試合を、すごく楽しみにしてる奴もいるんだ。だから、がん、ば…っぷくく!」
「いや笑っちゃいましたよ」


氷魔のツッコミに、反応する余裕もない。
だ、だって、いや無理だよね?!もうダメだ、笑いが抑えられない…!!団扇?手作り団扇?もーー最高じゃん?!この際全員分欲しいからWBBAで公式発売してくれないだろうか。絶対買うぞ。


「美羅」
「ん?」


なんとか笑いを堪えていると、キョウヤからふと声がかかる。
ゆっくりと伸びた手は、真っすぐに団扇を掴み、




折られた。




ま、前田ああーーッッ!!!

「誰だよ前田」




前田君渾身の応援団扇は、お披露目から三分も保たなかった。だがお前の火は消させはせんぞ、この文化が広まることを祈る。頑張れよ前田。


「てめえは何を浮かれてやがる…」
「悪い、自覚はしていだだだだだだっ」


般若のごとく顔面を掴むキョウヤの表情は分からないが、恐らくとんでもない表情なんだろう。あとこれマジで痛いやつだ。




その後、ベンケイがスタジアムへ入場し漸くその手が離される。骨格変わってないかな、大丈夫だろうか。


全員の視線が、スタジアムへと向けられる。



浮かれてんのかどうだか、実際どうなんだろう。でも、一応地に足がついてる感覚はあるんだ。
この大会が終わったら、どうなるのかなんて分からない。


でも、これだけはハッキリ分かってるよ。




「さあ、試合開始だ!!」




私の知る、最後の三日間が始まった。




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