ただいま 「え、まだ話せない?」 疑問の声と一緒に、顔を覗き込まれる。なんだか申し訳ないような気がして、誤魔化すように無駄に大きく頷いた。 いろんなことがあったけど、結局またこうして戻ってきてしまった。なんて、こんな言い方をしたら誤解を受けてしまいそうだけれど、本当に嬉しい。罪悪感とか、自分の間抜けさが嫌にもなるが、なによりまたこうして皆の元に戻ってこれたことが本当に嬉しい。 懐かしのB-pitで皆に温かく迎え入れてもらい、再びぼろぼろと涙が零れてしまったのは少し前の話。 ここに来る前に別れてしまった翼とヒカルを除き、銀河、ケンタ、まどか、キョウヤ、ベンケイ、氷魔といういつもの皆が揃っていた。 無事が分かればそれでいいと、詳しいことは聞かずに頭を撫でていってくれた翼とヒカルには、心の中で一生推すことを誓った。 改めて再会を果たし、漸く涙が治まって一息ついたところで、これまでの事情を話すこととなった。もちろん、ここに来てやっぱり言うのは怖いです止めますなんてことは言わない。 話したいことが、ある。 確かに、そう言った。だけど、今全てを話すわけにはいかない。今までのように、怖いからというのが理由ではなく、単純にバトルブレーダーズを控えた今、これ以上皆の心に負担をかけたくないからだ。 なんて!!ここまで迷惑かけといて今さらだけどな!!ッッな!! 「正座」 「あ、はい」 まどかからの指示に従い、大人しく背筋を伸ばす。 同じように向かい合って正座をするまどかは、くしゃりと表情を崩し、溜息をついた。 「理由を聞いてもいい?」 「こんなに皆を巻き込んでおいて、こんなこと言うと殴られそうだけどさ、主にキョウヤとかに痛っ!!本当に殴ることねーだろ!!」 「真面目に話せ」 「真面目だよ真面目!!つーかそういやキョウヤあっちで人のこと悲劇がどうとかそのたとえは失礼じゃ「美羅?」あい、すいません」 きりっと効果音がつく勢いで表情を整えると、不意に後から笑い声が漏れる。振り向くと、ケンタが口元を押さえ小さく肩を揺らしていた。 皆の視線に気づくや否や、ケンタは頬を緩ませ「いや、あのね」と言葉を繋いだ。 「本当に、美羅が帰ってきたんだなーって」 そんな言葉に、私まで頬がだらしく緩んでしまった。手招きで呼び、疑いなく近づいてきたケンタをがっしりとホールドし、頭をわしゃわしゃと撫で回す。無駄に抵抗されたが、残念だったな、まだケンタに力で負けることはない!! 「それで、理由って?」 銀河に再び問いかけられ、ハッとして手を離す。いけない、久々に皆と一緒で、テンションがあらぬ方向へいってしまっている。 一度咳払いをし、正直な気持ちを述べた。 「まだ言葉がまとまってないんだ。正直、自分でもなんと言ったらいいか分からなくて。だから皆がバトルブレーダーに集中してる間に、ちゃんと気持ちに整理をつけたいというのか…。それに、大会中は、皆にもそっちに集中してほしいし」 それなのに、こんなに迷惑かけてごめんなさい。 そう言って頭を下げるくらいしか、できないことが申し訳ない。どう足掻いたって時間は戻ってくれないから、こんなことしかできない。 「だけど、もう今さら誤魔化さないよ。本当のこと皆に聞いてほしい。私がどこから来たのか。どうして、こんなことになっちゃったのか」 本当に、なんて単純。 私がずっと持っていた不安なんて、もう消えてしまっていた。いや、あるのかもしれないけど。あの時皆の手を取って、きっと私は吹っ切れてしまったんだ。気持ちの落としどころを見つけたとでもいうのだろうか。 しかし、罪悪感。羞恥心。心の扱いは難しい。 すっと息を吸うと、肩にどんっと見えない重みが圧し掛かる。 「本当にごべん"な"ざい…」 「かつてないほど美羅が落ち込んでる!」 「きのことか栽培できそうですね」 「元気出して美羅っ!ほら、飴!飴あげるから!!」 最終的に、何故か皆にあやされる始末だ、情けない。 怪我の痛みだけではない体を蝕む重さに、思わずうな垂れる。ベンケイがケアトスを手にアテレコで慰めてくれるけど、ケアトス女言葉使わねーよ。 …………多分。 もう何度目かも分からない、ぐるぐるな感情が胸を埋め尽くした時、ふと名前を呼ばれた。 ぎぎぎっと効果音でもつきそうな勢いで顔を上げると、そこにあったまどかの表情は、緩やかに弧を描いていた。 「待ってる」 「え」 「待ってるから」 私も、ちゃんと伝えるから。 どんな結果でも。 その笑顔に、大きく頷いた。 「じゃあ、あとは好きにしていいわよ」 「よし、行くぞ美羅」 「ランチャー持って来いよ」 「バトルブレーダーズの前に前哨戦じゃい!」 「誰から行く?」 「全員でしょう。一対五」 「なんてこった」 ぼこぼこにされました。 いよいよ、バトルブレーダーズ開幕です。 . ← ×
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