全力右ストレート 前方には銀河たち、後方には大道寺という謎のポジションに立つことを余儀なくされた私はどうしたらいいのだろう。今すぐ銀河たちの元へ走って行きたいのは山々だけれど、アイツに背を向けるのが非常に不安で動けずにいるのだ。 「どこに行くつもりなんですか?貴女がいるべき場所はここでしょう?だって我々は、仲間なんですから」 「ふざけたこと抜かしてんじゃねーよ!!その気もないくせに、人の足元見て好き勝手言いやがって!!」 だけど、どんな私でも認めてくれるってのはやっぱり嬉しかった。それが聞きたかったがために、こんなことになっちゃってるのは分かってるんだけど。 今更逃げるのは止めよう。 この世界に来た時点で、私は戦うしかなかったんだから。どんなにひどい結末が待っていようと、私にそれを止める術はない。なら、今ここにいる一瞬一秒を少しも無駄にしちゃいけなかったんだ。 「私が認めてもらいたいのは、お前じゃない」 今更なのかもしれない。 だけど、迷うな、信じろ。 「お前じゃない、ねぇ」と、眼鏡を押し上げ鼻で笑った大道寺が見下すようにこちらを見た。負けじとこちらも睨みを効かせるが、あまり効果はないようだ。 直後、あんまりにも可笑しそうにコイツが口元を歪ませるものだから、思わず一歩下がった。 「何を言い出すのかと思えば、まだそんなことを。貴女は信じられなかったんでしょう?彼らを信用していないんでしょう?だから、こうしてここにいたわけですよね?」 何ひとつ偽りのない大道寺の言葉に、何も言えなくなる。今更なんて分かっている。だけど、もうここで引き下がるなんで駄目だ。 反論できない私を良しとしたのか、大道寺の視線が銀河たちへと移る。一瞬身構えた彼らは、なんだよと声を張り上げた。 「貴方たちも哀れですよねえ。仲間だと思ってた人物が、実は貴方方のことを全く信用していなかったなんて」 それ以上言わないでくれ、なんて虫のいいことを思ってしまう。ずっと感じていたあの痛みが、また深く胸に突き刺さる。 だけど、下を向くな。分かっていたじゃないか、皆に言うことはひとつだ。 大道寺の言葉が延々と響く室内で、大きく息を吸った。 「ごめん記憶喪失って嘘なんだ!!!」 言 っ て し ま っ た … ! しん、と静まり返った場。 自分の声が反響して耳に届き、皆が目を丸くしてこちらを見ているのが分かる。 何か、何か言わなくちゃ!これだけじゃ足りない。ああ、ずっと考えていたはずなのに、いざ口に出そうとすると何も浮かんでこないじゃないか。 「っ私は、ここじゃない別のところから来たんだ!だけど、その、帰れない…というか帰る方法がわ、分からなくて…!いやっ、帰りたかったわけではないんだけど…その…!隠してることがあるんだ!っだけど、それを言ったらもう皆と!一緒にいれない気がして…」 ああああもう!何言ってるんだ自分! まとまらない自分の言葉に、未だ皆は目を丸くしている。本当はもっと上手く伝えたかったのに、これじゃあ台無しだ。落ち着こうと思い吸った息は、ひゅっと音を立てただけで全く意味がなかった。だけど、一度零れだした言葉は止まらない。 「もう一度だけ、チャンスが欲しいんだ!皆に話したいことがあるの。だから、もし、もし許してもらえるんだったら…」 これからも、ずっと、 「これからも皆の側にいさせてください!!」 音を立てて煩い心臓を他所に、深く下げた頭はとても冷静だった。先ほどまでぐるぐると回っていた思考はすっかり晴れ、達成感のような、緊張感のような、そんな形容しがたい感情で埋め尽くされている。 誰の声も聞こえず、自分の呼吸ばかりが嫌に耳に響く。頭を上げることができない。何倍もの速さで時間が過ぎていくような、そんな感覚だ。もし、皆に何も言われなかったどうしようと不安に思い始めた頃、名前を呼ばれた。 ゆっくり、顔を上げる。 「実はさ、記憶喪失が嘘ってなんとなく気づいてた」 「え"えッ?!」 なにそれ!やだなちょっとバレバレだったんじゃないですか!!うんうんと頷く皆の様子に、後ろめたさと同時に恥ずかしさもこみ上げてくる。えええええ皆そう思ってたんだ。 「確かにさ、隠し事されてたってのは、ちょっとショック」 「…ごめん」 そう告げると、銀河は小さく首を振りあの笑顔を浮かべていた。 「でもさ、それでも皆、美羅のことが好きだから、美羅と一緒にいたいからここまで来たんだ」 ぽつり、ぽつりと。 「ひとりで抱え込んだっていいことなんかないわい!」 「頼りないかもしれないけどさ、僕たちのこともっと信じてよ!」 「これからで、いいですから」 込み上げて来る何かを、止められなかった。 じんわりと滲む先にいる皆は、あんなにも笑ってくれている。 「一緒に帰りましょう、美羅」 こんなに幸せで、いいんだろうか 「ッうん!!」 腕で涙を拭い、大道寺へと振り返る。予想通り、その表情は不機嫌に歪められていた。だけど、もう何も恐れることはない。 「…実に不愉快です。だから言ってるでしょう、このまま帰すはずないと」 突然指を鳴らしたかと思うと、ぞろぞろと現れる暗黒星雲のブレーダー。え、なにずっと待機してたのこの子たち。いつの間にか取り囲まれ、全員で身構えたその瞬間、衝撃音と共に「うわぁ!」と悲鳴が上がった。 「ぼさっとするな!」 「キョウヤさん!!」という声と重なり、再び衝撃音が響く。銀河たちが同じようにベイを放ち、次々に暗黒星雲を蹴散らしていく中、その目が合った。状況を把握したのか、ニヤリと笑うキョウヤに私の目元も緩んだ。遊はどうしたのかと聞きたかったが、そんなの、外に出れば分かることだ。 不意を突くつもりが、逆に奇襲をくらった暗黒星雲側の状況は不利だ。描いていた展開にならなかったのか、ここで初めて大道寺の声に焦りが見えた。 「じゃあ!古馬村はどうするんです?!守るのでしょう?!」 ふざけんな馬鹿野郎!当然守ってやるわ!! と、開くはずだった口は、両脇を過ぎ真っ直ぐ大道寺の元へ飛んでいった二機のベイにより開くことができなかった。び、吃驚した…。 あたりのベイを蹴散らし、持ち主の手へ戻るベイを目で追うと、そこにいた人物に笑みが隠せなかった。 「「古馬村をなめるな」」 背中からの声は、とても頼もしくて、力強い。 「行こう、美羅!」 皆が待ってる、手を伸ばしてくれている。 だけど、まず一歩を踏み出すのは別方向だ。駆け足で目の前に行き、呆気に取られた様子の大道寺に、一言。 「お世話になりました。そしてありがとう!」 本心からの言葉を述べ、振りかぶって。 「−−−ッ!!」 ちゃんと一発、殴った。 これでもう思い残すことは無い! 駆け足で、進む。 一歩一歩が軽い。 伸ばされたその手を掴んだ。 20141126 ← ×
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