理由





痛い、痛い。


すっげえ痛い。


ゆらゆらゆら。何度も何度も、誰かに呼ばれている。もうすこーしだけ待って、大丈夫、今ちゃんと起きるから。あー、ちなみにどちら様?おっかしいなー、全然誰だが分かんないや。

だから、ちゃんと起きるって。大丈夫だって、そんな何度も何度も呼ばなくたって、い、ま、ちゃん、と………







「美羅!」


「…あ、銀河、だ」



あら、思ったより声が掠れてる。

視界いっぱいに映った銀河の顔が、真っ青だ。いや、真っ赤かもしれない。頭がずきずきと痛む。体中が痛い。薄く開いた口元から、浅い呼吸を繰り返していた。


なんだってこんなことになってんだっけ。銀河に覆いかぶさってるし。
ぼんやりとした頭に、目の前の景色がいつかの光景と重なった。


なんかあったな、こんなこと。


「美羅お前何してっ…!とにかく早く病院に!」
「…ああ、そっか、あの時助けられたのは、私の方だったな」


地面に弾いた赤は、なんだろう。銀河がまた真っ青になった。

ああ、そっか。やたらと背中が…というか、体が痛いのはそういうことか。まだまだだなあ。どうやら、ベンケイみたいに上手くはいかなかったみたいだ。



病院とか、手当とか、そこどけとか、いろんな言葉が耳を通り抜けていく。鳴り止んだ音から察するに、なんとか崩れるのは収まったようだ。僅かに舞う砂埃が、煙たくて仕様がない。

ぼんやりと映る、でも確かにそこにいる銀河に、大きな怪我はない。それが分かるとなんだか力が抜けてしまって、思わず下敷きにした銀河を抱きしめてしまった。

あれ、おかしいな、全然力入んないや。


「…よかったー」
「ッ!美羅、いいから早く…!!」
「よかった…」
「美羅…?!」


溜息にも近い言葉が、何度も何度も口から零れる。


できた、私にもできた。ちゃんと守ることができた。





ああ、そっか。そうだったんだ。





「…今ね、分かった気がするよ」
「!、いいからもう喋るな!」
「ずっと…知りたかったんだ、なんで、私は…ここに来たんだろうって。どうしてこの世界に来たんだろうって…」


手を伸ばしたって届かないことばかりで、ここにいる理由が分からなくって。
理由なんてなくたっていいって、今が楽しいならそれでいいって、そんな風に何度も何度も目を背けてきたけど、分かったんだ。私にしかできないこと、私じゃなきゃできないこと。それは、沢山あったんだ。ざまーみろ。イレギュラーな私にも、私にしか、できないことがあった。



「…きっと私は、皆を守るためにここに来たんだよ」



導くなんて大層なことはできないよ。でも、皆が歩く道の、お手伝いならできる。未来を知るからこそ、できることがある。しなくちゃいけないことがある。


その道に雨が降るなら傘を、道が途切れたなら橋を。
そんな風に、只、簡単なことだったんだ。


それで良かったんだ。
初めから、私に出来ることはそれだったんだ。
腕の温もりは、本物だったんだ。



「美羅……」



滲む瞳に映る自分は、笑っていた。



こんなことで実感するなんて、笑っちゃうよ。
私の一番の願いは、大切な皆が幸せであることだ。

だから私の全てで、ここにいる皆を守りたい。彼らに降りかかる危険と、全部戦いたい。


この世界を救うことが皆の役割なら、彼等を支えるのが私の役割だ。




「嘘つきで、ごめんね」




引き寄せた温もりが、暖かい。




「大丈夫、ちゃんと守るから」




やっと分かった存在理由。私がいる場所。私がするべきこと。並ぶことじゃない、先へ先へ、少しでもその道が平坦であるように。


遅すぎるんだよ、気づくのが。
残り僅かな時間で、一体何ができるだろう。

ずっと望んでいた答えに、思わず笑みが零れる。
あーあ、ひっどい理由だ。



でも、それもいいなと思った。






20120223








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