拳で確かめ合いましょう





ここに来てからいろんなことがあった。

笑って、泣いて、怒って、騒いで。
楽しいことばっかりだった。


中途半端がいけなかったんだ。
私は、皆に本当のことを言えなかったよ。言いたかったよ。

だけど、怖かったんだ。勝てなかったんだ。いつか、いつかなんて言ってたけど、分かってたよ。あの日、あの時、あの瞬間。言える機会はあったはずだ。あの時それができなかったんだから、今更、言えるはずなかったんだ。


矛盾ばっかりだったけど、決めた。



「うん!」



もう、諦めよう。

そもそも、今更向き合う覚悟はないんだ。だったら、もう会うのは止めよう。未練が残る。
暗黒星雲はきっと銀河たちが潰してくれる。暗黒星雲がなくなったら、それからどうしようかな。旅に出ようかな、ああ、それも面白いかも。

割と気分は澄んでいるはずなのに、口から零れた息は予想とは違う色をしていた。口からついて出た言葉は、思ったよりも輪郭がぼやけている。



「……なりたかったなあ」



私も、仲間に。
後ろめたさなんてなく、ちゃんと。


もう、全部遅い。
あの時私は、選んでしまったのだから。
だったら、一度選んだこの道を最後まで進むしかない。



足音が響く。
駆け込んできた彼の赤は、薄暗い空間と対照的に綺麗だった。



「美羅…」



終わりにしよう。



「勝負しよっか、銀河」



これが最後だ。



「美羅」
「なに?」
「絶対勝つ」
「そうこなくっちゃ」


嘘か本当か知らないけど、一応、大事なものもかかってるわけだし。負けてらんないよね。


勝つ、絶対に。




◇◇◇




「ペガシス!」
「ケアトス!」


放った二機のベイがぶつかった瞬間、独特の金属音と共に大きく風が巻き起こった。最初からやってくれるじゃないか。最初の一撃とは思えないその威力から、銀河がこの勝負にかけてくれている気持ちが分かる。負けてもいいなんて思えないよね。できるかな、いや、できなくたってやる。


(だってこっちも、嘗てないほど勝つ気満々だっての!!)


殴り合う様にぶつかり合うペガシスとケアトスは、正にノーガードというそれだ。
吹っ飛ばされたケアトスが内部の壁にぶつかり、鋭い音を立てる。パワーだけじゃ敵わないのは分かってたこと、勝負はまだまだこれからだ。


進行方向を変え、ペガシスと距離を取る。無造作に重なる鉄骨に乗り上げ、上へと登っていく。
追いついたペガシスがスピードを増したところで、ケアトスが急停止。あとほんの僅かまで距離を縮めていたペガシスをひらりと躱し、後ろに回り込んでのアタック。派手に壁にぶつかった様子を見て、お返しできたことに満足だ。


「やるな!」
「ま、ここ数週間何もしてなかったわけじゃないからね!」
「俺だってそうさ、まだまだこっからだぜ!」


楽しいな。
こんなに楽しい気持ちになったのいつ以来だっけ。

不意に上がる口元に手を当てる。同じだ、銀河も笑ってる。忘れてたなあ、皆とバトルするのって、こんなに楽しかったんだ。



初めてのバトルは、氷魔とだった。次は古馬村の皆と。村を出て、いろんな人とバトルして、次はキョウヤ。その次は銀河と、ケンタ。それから、ベンケイ、ヒカル、遊、翼…。



じんわりと、目元が熱くなった。だけどやっぱり口元は笑ったままで、なんの涙か分かりもしない。
……この世界で、本当に沢山のことがあった。ずっと大事にしていこう。

零れる前に腕で擦って、顔を上げる。

二機のベイが何度も何度も殴り合う。きっとここが、勝負どころだ。合った視線に、お互いにやりと笑った。





「ペガシス、ストームブリンガー!」
「ケアトス、ディフュージョン・リップル!」





大きな衝撃音に続き、顔の横を勢いよく過ぎる風。



ガンッと音を立てた後、小さく響いた金属音。振り返ると、めり込んだ壁の下には寝転んだ相棒の姿があった。四肢を投げ出したように、でも、満足そうに。


負けちゃった。


「ふー…」


肩の力が抜けて、大きく息をついた。
楽しかった。すっごい楽しかった。なんかもう、何も考えらんないわ。只、なんだかいつになく清々しい気持ちでいた。


「美羅」


煩いほどの音が消えた空間に、銀河の声が響いた。



「帰ってこいよ。皆待ってる」



最後なんだよね。そうと決めたら、なんだか肩の荷が降りたような気分だ。言えるかもしれない。もう、言っちゃってもいいのかもしれない。



なんか、いいのかな。


いいのかもしれない。




「銀河、私ね」




途端、開きかけた口が地響きのような音で動きを止める。驚いて顔を見合わせると、鈍い音がした。



「ッえ?!」
「なんだ?!」



もしかして、バトルの衝撃でこの建物崩れようとしてるか?!え、冗談だろ?!

逃げようと言いたかった言葉は、喉に逆戻り。止まない鈍い音は、銀河の真上で鳴り響いた。

それは、ダメだ、絶対に。



「ッ銀河!!!」



走り出して、その手が届いたのかどうか。背中の衝撃と同時に、きつく目を閉じる。

沢山の音が混ざり合った。




20120211








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