小さな光


「はい、じゃーんけーん…」

「ぽんっ」「……。」

「お、勝った」
「…何がしたいの?」


握られた自分の拳から視線を移すと、そこには呆れ顔の水地がいた。特に何かがしたかったというわけではないんだけれど、そう、強いていうなら暇だったからだ。

ここに通うようになってから、それなりに日は経つ。最近では、言葉のキャッチボールができているのかと聞かれれば疑問だが、少なくとも聞けば答えてくれる。今だってそうだ。それが素直に嬉しい。

まあ、多分仲が良いには全然ほど遠いのだけど。

呆れ顔の水地に持参したポッキーを勧めると、どうやら甘すぎたようでさらに顔を顰めていた。




こうして一緒に話している分には、水地は本当に只の少年だ。正直、バトルブレーダーズでのあんな姿は想像もできない。気だるげなその姿からは、狂気なんて言葉は出てこなかった。影というのか、不思議なところがあることに間違いはないが。


「じろじろ見るな」
「あ、ごめん。いやさぁ、ここって暗いからどうにもね…元々そんな視力良くないし」
「ふーん」
「ここまで来る道も本当暗くってさ、結構びくびくしてるよ」
「暗いのダメなんだ?」
「ん?まあ、真っ暗はちょっと……」


ん?


あれ?待てよ。自然にぱちりと開いた目。
水地は今、なんて言った?もし私の間違いでなければ、なんだかとっても嬉しいことのような気がする。口元が緩んでいく感覚。当然だが、水地が怪訝そうな表情を浮かべる。


「ニヤニヤして何…?」
「いや、水地が関心もってくれたのって、初めてだなって思って」
「ハァ?」


水地が私に何か質問してくれたなんて、実は初めてだったりするのだ。うわー、なんか嬉しいな。これは少し、気を許してくれたと受け取ってもいいんだろうか、どうしようにやにやする。

心底面倒くさいと言わんばかりに顔を逸した、水地の前髪がふわりと揺れた。


「前髪邪魔そうだね」
「別に」




◇◇◇




次の日、単純かもしれないが買ってきてしまった。ヘアピンを。
暗黒星雲って何気に万能だし、ヘアピンくらいあるかと思ったけど、女の子少ないこともあってか全然なかったよ、吃驚だよ。意図せずプレゼント大作戦みたいになってしまった。

いきなり前髪切れとは言えるはずもなく、でも無視もできないあの長さには、やっぱり必要だと思う。視力悪くなるしな!それは大変だ。大丈夫だよね、普通に男の子でも使えそうだよね。ラッピングまでしてもらったその中身を思い出し、気合を入れた。


そうしていつも通り、水地の元へと向かおうとした時、前から小さな橙がこちらへと駆けてくる。見慣れたその姿に、軽く手を上げた。


「お、遊。どうかしたのか、え?!」


スピードを落とすことなく駆けて来る遊が目の前に来たかと思えば、次の瞬間には手を引かれ、そのままその全力疾走に巻き込まれる。


「なになになに?!なんでなんでなんで?!」


唐突すぎるそれに、回らない口を必死に動かす。

目の前を走る遊は、振り向くこともなくいいから!とだけ言った。その後、「すっごく楽しいこと。かも!」なんて笑みを混じえた言葉にほんの少し黒いものを感じたが、転ばないよう必死な状況ではとても言えはしなかった。



それにしても遊、足はっっやいな?!




20121028








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