鐘 とある人物に会ってほしいと、大道寺に言われた。いや、正確には会って話をしてほしいとのことだが。どんな話でもいいらしい。そうやって顔を合わせることに意味があるとでも言いたげだ。只、会った人物のことは他言無用というのが約束だそうで。 なんとなく予想がつくような、つかないような。 そんな少しもやもやとした感覚を抱きながら、薄暗い道を進んでいく。教えてもらわなきゃ、こんな場所来る奴ってそういないだろう。 普段生活している暗黒星雲本部の階層よりも、ずっと離れていてさらに薄暗い。こんな場所から連想されるのは、一人だけだ。 そして、半信半疑だった人物像が扉を開けて確実なものへと変わった。 「……誰?」 「やっほー…」 どんな機能を果たすのかも分からない機械が並び、僅かに音を発している。暗い室内にはその機械の明かりがよく目立っていて、当の本人よりも先に目がいってしまった。 うん、やっぱそうだよな。私に何しろっちゅーねん。体育座りでこちらを見る彼に、後ろ手で頭を掻いた。 「えーっと…君が水地?」 「うん」 「なるほど。…私のこと、なんか聞いた?」 「何も」 「マジすか」 「アンタ誰?」 「ああ、私は美羅」 「そう」 「……。」 「……。」 やっべ会話もたねえ…!!! 興味なさげに逸らされた視線に釣られ、私も改めて部屋を見回す。無機質で、色のない世界だ。いつから、彼はここにいるのだろう。聞いてもいいんだろうか。なんとなく聞きづらいような気がしてしまうけど、聞かずにはいられなかった。 「聞いてもいいかな」 「なに」 「水地って、いつからここにいんの?」 「さあ…。覚えてない」 「、そっか」 この答えを、良い意味に捕らえることはできないけど、まあ、今は何を聞いたって中途半端にしか分からないだろう。 大道寺は、何を思って私と水地を会わせたんだ? 考えを巡らせたところで、水地の「あ」という言葉に顔を向けた。体制を変えず、水地はその視線だけをこちらへと投げた。 「アンタ、美羅って言ったっけ」 「うん」 「じゃあ、アンタとはバトルしないよ」 「え?」 「大道寺が言った」 「それは…助かった、かな」 なるほど。本当にアイツは、会いに来て話すことだけを望んでたわけだ。まあ、ある意味助かったのかもしれない。さすがにボロボロにされたくはないし。引き攣る口元から、思わず乾いた笑い声が零れた。 それにしても、本当に自分は何をすればいいんだろうか。立ち話もなんだし(いや、既に会話は皆無だが)適当な場所に腰掛けても、特に水地が気にする様子はなかった。 …気まずい。でもまあ、それほどここから離れたいと思わないのは、思ったより水地が怖くなかったからかもしれない。 思いついた言葉を思いついただけ零し、そうして時間が経った頃、漸く部屋を後にした。これからもここに通うのかと思うと、嫌ではないが妙な疲労感が襲ってくる。 エンターテイナーに憧れると翼に伝えると、十分だろと微妙な顔をされた。 20120824 ← ×
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