君の手を握る


最近、ミラランとのバトルがつまらない。

前よりもバトルしてくれるようにはなったんだけど、バトル中ずっとどこか上の空で、全然勝負にならなかった。
もう、しばらくミラランとはバトルしてやんない!と僕が言うと、ミラランがあんまりにも申し訳なさそうに笑うものだから、それ以上は怒らなかった。ううん、怒れなかった。だから、気晴らしに一緒にお菓子でも食べようと思って、今日はいつもよりちょっと贅沢なのを選んじゃったわけ。



翼にミラランの場所を聞くと、どうやらおじさんのところにいるようだ。ミララン可哀想に。暗黒星雲で、ミラランほどおじさんを嫌ってる人はいないと思う。ま、そんなことよりまずはミラランを捕獲しなくちゃ!



「ミラランいるー?」


大きな扉を勢いよく開けてそう言うと、窓際のサボテンをいじっていたおじさんは驚いた様子で振り向いた。なんだか誰かと喋っていたような気もしたんだけど、気のせいかな?


「天童君…、もう少し静かに入ってくることはできないんですか?」
「はいはいごめんなさーい。それで、ミラランいる?」
「美羅さんなら先ほど出て行きましたが」
「えー!行き違いー!?もー、だったらこんなとこ来た意味ないじゃーん!」
「こんなとこってあなた…」


タイミング悪すぎ、あーショック。


おじさんが何か文句を言ってたけど、正直全然興味もないからすぐに部屋を出た。

ミラランは部屋に戻ったのかな、だったらこっちから行けばいいかな。なんて思いながら一歩踏み出そうとしたところで、おじさんの話し声が聞こえた。あれ?やっぱり勘違いじゃなかったんだ。

…!、もしかしてミララン!?

締め切ってないドアの隙間から中を覗くと、そこにはやっぱりおじさんひとりしかいない。ただ、話し相手は声を聞いてすぐ分かってしまった。



「全く、天童君には困ったものです…」
{子供はあれくらい元気でなくては}

「なーんだ、メルシーか」


期待を裏切る結果に、思わずガクッと肩が落ちた。子供扱いされてることにはちょっとカチンときたけど、今出て行ったら覗いてたのバレちゃうし。我慢我慢。


{ところでご主人様、先ほどの話の続きなんですが…}
「ああ、どうしました?」
{その…、彼を、彼女に任せて本当に大丈夫なのでしょうか?}


珍しく口篭るメルシーに、続きが気になって覗き見を続けることにした。彼って、誰のことだろう。それに彼女も。暗黒星雲って女の子少ないから、ミラランのことかな。でも、全然いないわけでもないし。


「おや、メルシーは心配ですか?」
{…心配といいますか…}
「なぁに、大丈夫ですよ。意外と気が合ったりするかもしれませんし」
{そうですか?}
「ええ。…所詮彼らは、一線外の人達ですから。冗談抜きに、本当に気が合うかもしれませんね」



「……。」



扉を静かに閉めて、僕はそのまま走り出した。






















「ミラランー!」
「ん、あ、遊じゃん」


やっぱりこっちで正解だったみたいだ。のんびり歩く背中に声をかけると、やっぱりのんびりとミラランは振り向いた。


「良かったー、やっと会えた」
「?、なんか探してた?」
「うん!あのね、一緒にお菓子食べようよー」
「お、いいねえ」
「じゃあ僕の部屋行こう!」


綺麗に笑ったミラランの横に並んで、僕の部屋へと向かう。

遊の選ぶお菓子は美味しいからねーなんて言うミラランが今、どんなことを考えてるかは分からない。ただ、やっぱりどこか上の空で、きっとミラランの頭の中には美味しいお菓子の他に、何か別なものがあるんだろうなと思った。

だからなのか、自分でもよく分からないけど、歩くたびに横で小さく揺れるミラランの手をぎゅっと握った。


「…遊?」
「んー?」
「いや、なんか珍しいな。なんかあったか?」
「これー?」
「うん」
「ミラランが、線の外に行っちゃわないように」


うーん、なんかあったのは僕の方なのかな。ちょっと違うような気もするけど。
ああ、でも、ちゃんとこんな風に理由はあるんだよ。首を傾げるミラランに、僕は思い切っり笑ってみせた。


ちょっとポカンとした後、ミラランは何か考える仕草をした。途端、何かに気づいたようで小さく苦笑いを浮かべている。



「遊、いくらなんでも歩道はちゃんと歩くよ」
「ミラランってさ、意外とボケてるよね」
「なっ?!」


仕様がないから翼も誘ってあげようかなーなんて思ってたけど、今日はやっぱりダメ。
もうちょっとだけ、ミラランと二人でいたいなーって思ったから。




20120821








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