宣戦布告 目を覚ますと、真っ白な天井が目に映った。 「……そ、っか」 帰ってきたんだ。 温かみのある布団も、整えられた服も、見慣れた天井も。全部、理解できた。 ぼんやりと思い出していく光景に、何故だか焦りは感じない。ああ、そういえばそうだった。なんて呑気に、天井の白を見つめた。 すると、ふいに動かした体が、ずきり。特に気にすることもなく手を伸ばしてみると、思わず口元が引き攣ってしまった。ああ、また増えてる。 おいおい、これじゃまるで怪我するのが趣味みたいじゃないか。 「……そんな趣味はありませんよ、っと」 乾いた笑いを零して起き上がれば、窓から差し込んだ光が暖かかった。 「負けたんだよ、な」 ベッドの上で胡坐を掻き、ぐっと後ろに体重をかけていくと、壁にごんとぶつかった。微妙な体制でバランスを取るが、上手くいかず、そのままズルズルと下がってしまう。 (…銀河も、今頃辛い思いをしてんのかな) 気を失ったせいなんだろうか、不思議と落ち着いている。そもそも、いろんなことがいっぺんにありすぎたんだよ。 静寂を保つ空間に、自分の息遣いはよく響いた。 「はぁー…」 つまり、あれだ。 暗黒星雲に、私がこの世界の人間じゃないってことが、バレたんだよ、な。 なんでこうなっちゃったかなー…。 こんな形で、暗黒星雲との接点ができるとは思ってもみなかった。大道寺の様子を見る限り、本気だよな、あれ。 体制を戻し足を伸ばせば、素足に薄手の布団が絡まって、なんとなく心地よかった。 「研究ねー…」 そんな対象にされる日が来るとか、誰が想像したよ。甘かったのかな、もしかして。 だからって、どうしろっていうんだ。あんな証拠品を持たれちゃ、弁解のしようもない。まあ、今更何を言ったところで何も変わらないとは思うけれど。 そういえば大道寺は、竜牙がケアトスに興味を持っていると言っていた。…どこまでが本当だろう。それは方便で、こっちが本命だったのかな。 冷静に考えても、どうしようもないよなー…。 ぼんやりと開いたままの口から、また溜息が零れてしまった。 取り敢えず、冷静に考えられるようになっただけでも良かったのかもしれない。 自分でもあまり覚えていないくらい、本当に怖かった。……あそこは。 よくよく思い出してみると、あの部屋には過去に出場した大会での自分の姿もあった。あんなに前から目をつけられていたとは。驚きだ、いや、こっっわ。 なんて、 まだ少し、夢心地だ。 あの扉を開ければ、皆がいる。その事実が、すっと不安を消していく。陽だまりの中で、忘れたふりをして、何もなかったことにして、笑うことはできるのかもしれない。 だけど分かってる。 あれは現実なんだろ。触れてしまったから、もう誤魔化せないんだろう。認めたくない事実を受け入れなくちゃいけないんだろう。最悪だ、だけどやるしかない。言葉にすれば、それは現実の問題となる。だから、口にした。 「私は、弱い」 そう。 「暗黒星雲に、目をつけられたよ」 そう。 「……、どうする?」 自分自身に切っ先を向けるのは、勇気がいる。只言葉にしただけなのに、胸にかかる重みが増したような気がした。苦しいなあ、本当。だって、その答えは分かり切っているから。 「どうしようもない」 そう、どうしようもないんだ。 逃げる場所もなければ、逃げる方法もない。その事実は、自分が一番分かっている。 だから戦うしかない、そのためにも強くなるしかない。 「逃げらんねえよ」 といよりも、よく考えてごらんよって話だ。こちとら只の学生な訳で、研究対象になんてされる要素がない。別世界なんて肩書はあるかもしれないが、それだけだ。私個人には何もないのだから。魔法なんて使えない、当然だ。使ってみたいよ。 ……強いて言うなら、未来を知っている。だけど、そんなの私が口を滑らせない限り、バレることはまずありえない。 あれ? なんか、いけそうな気がしてきたぞ。 うん、そうだよ、…大丈夫だよ私!!! 奴等が知ってるのは、なんか突然現れましたー!!ってとこだけでだろ?!一番の大事なところは知られてないんだから、いけるいける、大丈夫じゃん!! アイツが期待するような不思議要素は、一切ない。 あの好奇の目に、それを突きつけるタイミングがあるのかは分からないけれど。それが事実だ。何が研究だ。満足できるもんなら満足してみろ。要求しても何も出ないぞ。 だけど、もしそれでも、私を傷つける気なら。 絶対に、許さない。 「戦ってやるよ。もう負けねえ」 ニッと笑った。 なんだか、久しぶりかもしれない。 もう誰も傷つけさせない。大切なものを守るんだ。 強くなる、絶対に。 だから、これは最後。 もう悔やみたくもない、嘆きたくもない。 ぐっと勢いよく立ち上がった。 拳に力を、入れて。 大きく息を吸って。 「ばッッかやろおおーー!!!!」 自分の弱さを嘆くのは、どうか最後であればいい。 非常にすっきりして、思わず声を上げて笑ってしまった。すると、ばたばたと足音が響き、驚いた表情の皆が扉から雪崩れこんできた。 「ぶっ!あっははは!!」 日溜りが優しい。 一人じゃないのは何より心強いから。きょとんとした表情に、心の中で呟いた。ありがとう。 20110126 ← ×
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