点と点



「てめえよくも…」
「事故!!」


暗黒星雲に乗り込み、駆け抜ける廊下。

最上階で待つと告げた大道寺の元へ、数々のトラップを抜けながら進んでいく。先ほどのトラップは、動く床。トレーニングマシーンのようにすごいスピードで動き続ける床に、全員見事に翻弄されていた。

結局バランスを崩し、銀河以外の皆はスタート地点へ戻されてしまった訳だが、私の崩れ方がなんともまあ…ねえ…?

「…避けようがあったんじゃねえか…?」
「無理でしたー」

転んだベンケイに引っ張られ、釣られてバランスを崩したキョウヤ。二人の後ろを走っていた私は、急なそれに対応できず、思わずキョウヤの背中を踏んづけそのまま一緒に流されてしまった。悲劇のスパイラルである。断じて喜劇ではない。

手を合わせて謝るも、キョウヤは舌打ちをしてから今度はベンケイを睨み始めてしまった。(ははー…ごめんごめん。)



「ところで美羅」
「ん?」
「聞きそびれてたんだけど…美羅と大道寺は、知り合いなの?」


ケンタの質問に、ふと皆が黙り込んだ。そういえば、大道寺に関しては何も言ってなかった。
どこか険しい顔をする、キョウヤとベンケイ。前方では、銀河も気になるのかじっとこちらを見ていた。


「…ま、少しな」


ニヤっとして言えば、ケンタは不思議そうに首を傾げた。


「…美羅は、アイツと一体どういう関係なの?」
「他人以上知り合い未満」
「(他人とどう違うのかしら…)」


とにかく、今は私のことはいいのだ。話したって長くなるし、第一なんて言っていいのかも微妙なところだ。そして、ある意味それを確かめに来たという部分もあるのだから。

「ま、そんなのいいからさ。急いで先に進もう!」

ハッとして、真剣な顔で頷く姿。
皆は前を向き、動く足を加速させていった。





「……。」


一歩一歩進むごとに、じんわりと思い出すこと。
これから待ち受ける未来。
銀河は、いよいよ竜牙と対戦する。

そうだ、下手したら、全部変わるかもしれないんだ。

私が余計なことをしたら、未来が変わるかもしれない。しかも今回は、単なるバトルの勝敗だけじゃ済まないかもしれない。

それが、怖い。

何かできることはあるんじゃないのか。少しでも、力になれることはないのだろうか。そう思っても、何も良い考えなんて出てこなった。逃げてるのは自覚している。
だけど今回は、今回だけは、待つ未来に頼りたい。決して良いバトルを迎えるわけじゃないけど、それは悪いようには繋がらない。

そうやって気づくんだ、最善に。

(……って。)


「…ああッ、くそ!」


誰にも聞こえない音量で、小さく吐き捨ててしまった。ダメだ、まだびびってる。だからこんなこと考えるんだ。ッあー格好悪い!!
難しいことをまとめて考えようとするからこうなるんだ。なんだ、最善って。一体誰にとってのだ。

一度大きく息を吐き出し、しっかりと前を見る。
すると、前方に会ったはずの姿がひとつなくなっていることに気づいた。


「…美羅」
「お、どしたまどか?」


その疑問は、すぐ傍で聞こえた声により解決した。いつの間に隣に来てたんだろう。そんなに呆けていたんだろうか、…全然気づかなかった。

「難しい顔してる」
「そっかー?」
「…無茶、しないでね」

心配そうな表情に、思わずどきりとしてしまった。威圧感とも違うそれ。只、効果は抜群だった。

「…大丈夫、無茶はしないさ。心配してくれる友達と…過保護な同居人のためにもね」
「?」

不思議そうな顔を向けるまどかに、ニッと笑ってその頭を撫でる。まどかは一瞬ぽかんとしてから満足そうに微笑み、そのまま前へ走り出した。


いろいろと、心配させちゃったもんな。
……無茶しない程度に、無茶しよう。それだッッ!!!
優しい後姿に、思わず苦笑いを浮かべてしまった


「なあ美羅…あのさ、」



からなのでしょうか、



「ん、どした銀…」



一瞬だけ、止まる呼吸。
目を見開いた皆の表情。
前へと進まない、視界。


「げっ……!!」


下に床、ないんですけど…??!!

短すぎす時間でも、全てを理解してしまった。その一瞬が異様に長く感じられた。どう考えたってこの展開は…!!

「美羅ッ!!」
「ぎッ…!!」

差し伸べられた手には届かず。
私には、重力に身を任せるという選択肢しかなかった。














「ッー…聞いてないぞおい!!」


痛い…地味に痛い。
見事に間抜けな着地を決め、上に向かって大きく叫んでみた。しかし、無情にも声が響くだけであって、目の前に伸びる通路には沈黙が続いている。

先ほどとあまり雰囲気が変わらないところを見ると、恐らく下の階にでも落ちたのだろうか。いや、どんな構造してんのこの建物。

よっと立ち上がれば、うっ…腰が痛い。落とし穴とか地味に痛いからさあ、ちゃんと下に何か敷いててもらわないと困るんだけど。あ、いや落とし穴じゃないかこれ。穴じゃないから…落とし床?じゃあ仕様がないか。


……。


いーや仕様がなくねええしいッッ!!


……。


「…いやもうどーでもいいわ。…とにかく、早く追いつかないと」


急に一人になってしまって、思わずノリツッコミをしてみたが空しさが増すだけだった。作戦ミスだ。

このままいても仕様がないため、当初の目的通り上を目指すことにする。右と左どっちに進もうか考えた末、左。なんとなく響きが格好良いから。

そして、足を進めようとした瞬間。段々と近づいてくる多数の足音。


「…あーらら…」


曲がり角から現れ、ベイを構えてきた暗黒星雲のブレーダー達。
へえ、上等じゃん。むしろちょっとイラっとして暴れたい気分だったので、丁度良いぐらいだ。よし、やってやる。

ランチャーに手をかけようした、瞬間。


「…え、いや…おいおいおい!!」


止むことの無い足音。彼らの後ろにもまた、ずらりと並ぶ集団。
流石に、ドン引きの数だ。思わず、口から乾いた笑いが零れてしまった。

よし、逃げよう。

引き攣る口元に忠実に従い、そのままもう一つの道へ逃走した。いくらなんでも数が多すぎるって!!相手してたら日が暮れる!!

「うわちょ、打つなよあっぶなッ!!」

間違った使い方!!ダメ!!絶対!!


















「ここまで来ればなんとか…」


手のひらのケアトスを見つめ、思わず溜息をついてしまった。どうしようもない状況では戦わざるを得なかったけど、やっぱ数が多すぎる。逃げ回っていたせいで、最早頭の中の地図もぐじゃぐじゃだった。

壁に手をつき息を整えれば、「いたか?!」なんて声が近くで聞こえ、思わず体を強張らせる。

「いーや、しつこいな…?!」

流石ににこれ以上走るのは辛いし、何よりアイツ等が離れてくれなくちゃ進めそうもない。どこか隠れる場所はないかと辺りを見渡すと、通路の奥にぽつんと扉があった。これは使えそうじゃないか。

「よし、とりあえずあそこに…」

自動で開いたその扉の中を確認してみると、人の気配はない。よし。


躊躇い無くその扉をくぐれば、見事に真っ暗だった。何を見えない。背後でスッと扉が閉まる音がした。


ちょー…っと、怖いかな。


壁際に沿って歩き、手探りで電気を探した。何か微かに音が聞こえる…もしかして、機械が結構置いてあるのかもしれない。
若干冷や汗を掻きながら動く右手。一方でケアトスを握る左手が、ひんやりとしていた。
すると、右手がパネルのような何かに触れた。

あった、これか…!

目当ての物を発見して、迷いなくそれを押した。





ぱっと明るくなった視界。




「………ッ!!」





"お前は、行くな"





全部、後の祭り。





20110112








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