始まりは唐突に そ、そ、そ、 「そんなバカなーー!!!!」 な、何これ何これどういうこと?! 体に強く吹き付ける風は、今の状況を嫌というほどはっきり表していた。 目の前に広がる大自然 目の高さに合う山 地の感覚がない足元 これってどう考えても…… 「落ちてるよねええええ??!!」 何いろいろとレベル超えたお散歩しちゃってんの私ぃ?! 待て待て落ちつけ、どうして今こんな状況なのか、もう一度よく思い出せ。 そう。確か私はいつも通りに学校から帰って、楽しみにしていたメタベイの最終回を見ようとしたんだよな。これで終わってしまうって最終回は辛かったけれど、二期に続くと聞いたらすぐに手のひら返したよね。秒で見なくちゃと思ったよ。 そんで、オープニングが流れて、いざタイトルは…ってところで、今まで見たことのないベイが出てきたんだ。最終回に新ベイ出すのか、やるじゃん。ってひとりでワクワクしてたら、そこから画面が進まないもんだから、つい、テレビをこう、ね、かるーくね?叩いてみちゃったりしたら……急に視界が強い光で埋め尽くされて…… 「こうなってた…と」 冷静に思い出してるうちも、確実に地面との距離を縮めてる私。 「なっるほど!納得納得!」 はっはっはっ。 「できるわけねぇええええ!!!」 なに現実逃避してるんだ自分!訳がわからないよ、どんな状況だこれ。テレビ?!テレビなの?!ごめんなさい、本当にごめんなさい!!! ああ、そんなことをしている間にも確実に地面が近づいてくる。すると、近づくことによって、恐らく私が落ちるであろう場所が少しずつ見えてきた。 「…川っ?!」 いや、あれは…湖?!た、助かった!!……ん?いや助かったのか?この高さだよ?普通に… 「駄目じゃん!!」 ああ、もう残り時間は僅かだ。 流石に笑えない状況に、不意に涙が溢れてきた。夢ならすぐに醒めてほしいが、こんなリアルに打ち付ける風も、痛む目元も、夢にしてはあまりに強烈だ。 そういえば、走馬灯って直面した危機を回避する方法をこれまでの人生から探してるっていうよね?なんにも見えないってことは、もう助かる道はないってことなのかな、じ、人生は非情だ…!! そう思って、私はこれから来るであろう痛みに目をきつく閉じた。 まだ、夢落ちの可能性は捨てないぞ ◇◇◇ 何だかものすごく体が軽く感じる 「……も…」 暖かい何かに包まれたような、そんな 「もしもし。もしもーし」 「……んっ」 重い瞼を上げれば、視界いっぱいに広がる光。そして、背中に感じる地の感覚。 …あれ?私何してたんだっけ。状況が掴めないまま、ぼんやりと高い空を視界に収める。冷たい風が吹き抜け、体がぞくりと震えた。張り付いた服の感覚が、なんとも気持ち悪い。 …ん?私、本当に何してたんだ。 記憶を糸を何とか手繰り寄せ、辿り着いた光景。思わず短い情けない声を上げてしまった。 落ちてたよね?絶対落ちてたよ?無事なの私?!試しに指先に力を入れてみると、ゆっくりだが、しっかりと拳を作ることができた。い、生きてる…良かった…。 「良かった…気がつきましたね」 ふと、やわらかい声が響く。声の方向を見れば、男の人だろうか、逆光でうまく見ることができない。 「大丈夫ですか?」 少しずつ見えてきた少年の顔。 少したれ目に、優しそうな太い眉。なかなかお目にはかかれそうもない、綺麗な水色の天然パーマ。 ……ん?水色天パ? 「ひょ、氷魔?!」 「!!」 勢いよく起き上がり、目の前の少年をがん見すれば、明らかにそこにいるのは、あ、あの爽やかで胡散臭くてでもどこか憎めない…あの氷魔…?! 目見開いてこっちを見てる。か、可愛いかも…って違うそうじゃなくて! 「な、…はっ…!?」 な、なぜ、なぜ?! そ、そうか、夢か!!夢なのかこれは!! だ、だって目の前に氷魔がいるんだよ?大好きなキャラクターがそこにいるんだよ?!ありえないだろ……うん。ありえない。いやでも、いるよ?! 彼、氷魔(仮)を目の前にし、あまりにも情緒が不安定すぎる百面相を繰り広げてしまっているが、そんなことは問題ではない。ああまずい、なんだかとてもぐらぐらしてきた。この気持ち悪さは、あれだ、起きたくても起きられない、眠たくても眠れない、お布団で経験するあの気持ち悪さに似ている。 ってことは、だ。 「そうかそうか、夢かあー…はっはっ…」 「え、あ」 夢ならば仕様がない。めちゃくちゃ怖かったけど、大目に見てやろう。私は体の信号を素直に受け取り、もう一度瞼を下ろしてその場に倒れた。 「何故…僕の名前を…?」 訳の分からない状況、夢のような出会い。 こうしてあまりにも唐突に、始まりは訪れたのだった。 20100428 ← ×
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