潜入開始!


「嘘だー…こんなの。目でも瞑ってみる?」
「冗談言ってないでしっかりしてよ美羅!!」


だってさあケンタ君。これどうなのよこれ。


目の前を飛び交う無数のベイ。
そんな光景に、嫌でも口元が引き攣ってしまう。折角キョウヤから情報をもらって、目的の暗黒星雲本部まで辿り着いたというのに。


「邪魔だなーこいつら」
「お、珍しく美羅も不満か?」
「ちょっとおもしろいけど!」
「…ですよねー」


銀河、ケンタ、まどか、ベンケイ、そして私が辿り着いたその場所は、ハイテクながらもどこか不気味さを…いや、どちらかと言えば冷たさを感じさせる大きな建物。

そして、入り口であろう扉は開かず。

暗黒星雲の奴らも、随分と素敵なお出迎えをしてくれたもんだ。建物の壁からベイが放たれ、小型のヘリからベイが放たれ。いくら好きでもこの数はちょっとってレベルだ。兎にも角にもベイのラブコール。

もう既にお出迎えってレベルじゃなくね?本当は来てほしくないんじゃね?

「…ツンデレにもほどがある」

ぼそっとそう呟けば、まるでそれに返すかのように迫ってくるベイ。ケアトスはそれを弾き、再度地面を駆け抜けた。


「くっそー!必殺転技も封じられちまってどうすりゃいいんだよ!」
「踊っとく?」
「美羅!!」


冗談だってー。
あっははーと笑えば、ご立腹な様子のまどか。しかし冗談でも言いたくなる程、困った状況だ。さて、本当にどうしたもんかな。銀河の必殺転技も、空中からの攻撃で封じられちゃったし。


そんなどうしようもない状況の私たちの元へ、
一機のベイが舞い降りた。


「うえっ?!」
「これは…!」

銀河とベンケイが声を上げる中、ベイに続いて下りてくる人影。


「必殺転技、獅子王爆風波!!」


突如巻き起こった竜巻が、周りのベイを蹴散らしていく。一気にクリアになった視界に現れた人物は、最早見慣れたものだった。

「キョウヤ!」
「ったく、世話の焼ける奴等だぜ。もたもたしてねえで、こいつで決めろ!」
「そうか…ケンタ、美羅、ベンケイ!俺たちのベイを、竜巻に乗せるんだ!」

なるほど。
皆の力を合わせれば、扉も打ち砕けるってそういうことか。いいねえ、強行突破!!


「はいよーリーダー!」
「おお、分かった!!」
「うん!」


竜巻に乗ったそれぞれの必殺転技は、光の如く真っ直ぐに進み、

「「「いやったあー!!」」」

その扉を打ち砕いた。






「キョウヤ…!」
「来てくれたんですね!キョウヤさん!」
「でもどうして?借りは返したんじゃなかったの?」

ここに来る前、キョウヤは借りを返すという形で、私達に暗黒星雲の情報をくれた。そして、すっと姿を消した訳だが。
まさか来てくれるとは思っていなかったのだろう。皆は目を丸くして、キョウヤのことを見つめていた。それを横目にキョウヤと目が合えば、思わず口元がにやけてしまった。


「フン、俺は大道寺にも大きな借りがあってな。そいつを返しに来ただけだ」


そんなツンデレ発言に、我慢できず軽く吹き出してしまった。キョウヤさん可愛すぎるだろ!!あ、ちょ、そんな睨むなって。

「ほーんと、素直じゃないのね」
「本当にな!」

お腹を抱えて笑いに耐え、まどかの言葉に頷いた。

「キョウヤ…」
「…行くぞ」
「ああ!」

笑みを交わす二人。
なんだか自然と顔が緩んでしまった。
繋がった、そんな感じ。









「じゃあ、行くぞ」
「ああ」
「うん!」


それぞれに足を進め、壊した扉をくぐっていく。


一歩

一歩


「………。」


無言で止まった、足。
縫い付けられたように、動かない。自分でさえ不思議に思ってしまったそれに、大きく首を傾げた。

「ん?」

再び上げようとしたその足は、何故か言うことを聞いてくれない。変に落ち着いた頭で手を開いたり握ったりしてみれば、それはちゃんと意思の通り。うんうん、手は動くのな。


「んん?」


なんだ、どうした急に。
前を歩き続ける皆を眺めながら、困ったなあー…なんて頭を掻けば、ふと後ろから影が差した。

「おい、何してんだよ」
「あ、キョウヤ」

くるりと振り向けば、そこには眉間に皺を寄せて…いやあ、そんな怒るなって。私の後ろを歩いていたキョウヤは、私が止まったことにより、自然と足を止めなくてはいけなかったのだろう。余裕の歩幅で抜かされてしまい、今度はキョウヤが振り向いた。


「そういえば、来てくれたね」
「あ?」
「キョウヤなら来てくれると思ったさ、絶対!」
「…理由なんざねえよ」


その言葉に、思わずにひっと笑みを零した。


「…で、何てめえは止まってやがんだ。まさか怖気づいたわけじゃねえよな?」
「まっさかー!!いやあ、拳が唸りますなあ。あの野郎に一発食らわせられると思うと」

そう笑って、拳を手のひらに収めた。

本当にどうしたんだろう。困ったことに、今動けと言われても、なんとなく無理な気がする。浮かぶ笑顔に偽りはないのに、何故か心が落ち着かない。

いやいや、気のせい気のせい。
こうなれば、力づくでいくしかない。

「よっし、じゃあ行くぜ!!潜入敵のア「待て」ふぼお


折角勢いをつけたというのに。空しくも、突如視界を埋めた黒に別の意味で動くことができなかった。

「ホラー!!超次元!!視界が素敵に夜の闇!!」
「うるせえ」

視界を埋めたもの。がしっと顔面を掴むキョウヤの手から必死に逃れようとするも、え、な、なかなか強いぞこれ…は、外れない。

というよりも、なんでこんなことをされなくちゃいけないんだ。そう口を開こうとした瞬間。舌打ち交じりに、凛とした声が響いた。


「綺麗すぎんだよ」
「は?」
「昨日のバカ面はどこいった」
「おいこら」
「びびってんじゃねーよ」


ぱっと手が離され、明るさを取り戻した視界。不機嫌とも上機嫌とも言えない、その表情。


「おいおい、びびってんなんか…」
「てめえが決めたことだ。てめえが進まないで、どうする気だ」


その言葉の真っすぐさは、なんだか覚えがある。
…そうだ、私。私が言ったんだ、私自身で確かめるんだって、進まなくちゃいけないんだって。
射貫かれたように、なんだか胸がちくりと痛い。うっ、と表情を歪めてみても、目の前にある表情が再度射貫いてくる。


「…びびってなんか…」


ちらりと見た掌。
自分でも吃驚するぐらい、汗ばんでいた。少しの間、唖然としてしまってから引っ張ってみた頬。うん、堅い。心なしか、口元も痛い。

「はあ……」

俯いて大きく溜息をつけば、どっと全身を重くする何か。それが何なのか、分かってしまって恥ずかしい。

「格好悪い…」

私はそんなに、堅い表情をしていたのか?

「なっさけねー…」

自分で行くとか言い出して、なんだよ今更こんな。格好悪い、情けない。しかもキョウヤに気づかれたのが、一番恥ずかしい。格好つけてたつもりはないんだぞ決して。

「行くんだろ」
「…ああ、行くよ」

振り払え私。びびんな。何があるか分からないなら、考えたって逆に不安になるだけだ。

大丈夫、大丈夫だ。


「一人じゃねえんだろ。…それなら、なんとかなんじゃねえか」
「…そうだな!」


すっと前を見た。

進みだすその横で、笑顔。

一歩、一歩。



確かめてやろうじゃん。

潜入、開始!




20110109








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