ここで会ったが百年目 「銀河の勝ちだ!」 そのケンタの声を合図に、皆で一斉に喜び合う。え、嬉しくて思わずまどかと抱き合っちゃったんだけど、え、なんか今すごく貴重な経験してね?え?? 「…負けた。でも、…俺は一人じゃなかった」 そう呟いてレオーネを拾い上げたキョウヤは、もう心配いらずだ。こっちまで笑顔になるくらい、穏やかな目をしている。 そんな二人のバトルを讃えるかのように、会場全体に拍手が巻き起こった。 キョウヤアアー!!!と叫びたい衝動を抑え、ベンケイの泣き声を背中に、嬉しさのまま塀を飛び越える。二人の元へ駆け寄ろうと数歩進んだ先、ふとキョウヤと目が合った。 しかし、その瞬間に足は止まった。。 静まり返る会場。全員の視線が上空へと持っていかれる。 雰囲気をぶち壊すのにはもってこいな、あの音が響いた。 「ああっ!!」 「!、あのヘリは…!!」 「うーわ最悪!!」 げッッ!!そうだ、こいつ来るんだ!! 躊躇無く会場へと着陸するヘリを指差せば、ハッとして振り返ったキョウヤの強い瞳がこちらへと向いた。は、舌打ちまでされたんだけど。え、なんかごめんなさい。 「おい美羅!」 「はい?!」 「何してんだ!!てめえは早くど…」 吃驚したあまり、思わず戦いの構えを取り元気良く返事をしてしまった。いや、シュールでしょうよこの光景。 キョウヤの言葉の続きは気になるけど、それ所ではなくなってしまったようだ。キョウヤの言葉に重なった、手の叩く音。所謂拍手。 その音の主は、一歩一歩と近づいてくる。 「素晴らしいディナーでしたよ。…勝利に乾杯、鋼銀河君」 「お前は…大道寺!!」 ムカツク奴が、ムカツク登場してきたあー!!! 「アイツじゃ!アイツがキョウヤさん連れ去り俺たちに銀河を狙わせたんじゃ!!」 「ええ?!」 「アイツが…?!」 「ああ……ってああ!美羅!」 慌てるベンケイの声に、ぐっと拳に力を入れる。 大丈夫だ、落ち着け。倉庫でのことを思い出すと、今でもすっげー腹が立つけど、ここで前みたいに暴れて何になる。 そっか、そういやあの時も私を止めてくれたのはベンケイだっけ。心配しなくても大丈夫、もう大丈夫だよ。その意味を込めて、振り返り小さく笑って見せた。 「フフ、そして御機嫌よう。元気そうで何よりですよ中田美羅さん」 「ああ?」 「いかーーん!!!」 あ、ごめんやっぱちょっとイラッときちゃった。 あれ?なんだろうこの苛立たしさ、おっかしーなー大丈夫じゃないかもしれない。いや大丈夫じゃないわ。 もう一度振り向き笑って見せるが、自分でも分かるくらいに悪い笑みを浮かべてしまった。そんなお前、肩震わすなって。 よし、行くぜ私。 そう思って歩き出そうと、むしろ走り出そうとした瞬間。目の前の光景に、思わず目を疑ってしまった。 勘違いだろうか、それなりに距離は開いてるものの、キョウヤがスタジアムから飛び降り、まるで私を庇うかのように体をずらしたのだ。 「お前だけは、絶対に許さない…!!」 「おっと、今貴方をやる気はありませんよ」 いや、勘違いだなきっと。 銀河と大道寺が言葉を交わす中、うん、と一人で結論を出す。しかし、再度向けられるキョウヤの視線が妙に引っかかる。え、何、勘違いじゃないの?その行動の意図が分からず、なんだか変に焦ってしまい、銀河たちの会話も耳に入らない。 尚もキョウヤは眉間に皺を寄せ、私と大道寺それぞれに視線を送る。何かを伝えようとしている?先ほどキョウヤが何か言いかけていたのは分かるが、その内容は分からない。 …ああもういっそ聞くか!!と、口を開こうとした瞬間、大道寺の攻撃の矛先がキョウヤへと移った。いやタイミングよ。許さんぞマジで。 「…残念ながら、盾神君はまだまだ修行が足りなかったようです」 「何だと?!貴様!!」 「ですが、お陰で貴重なデータが取れました。…これは、心ばかりのお礼です!」 「チッ!」 そう言って、二人は互いのベイ、レオーネとヴォルフを放った。真っ直ぐに向かってきた狼は、レオーネに何度も何度も傷をつけていく。そして、ついにキョウヤ自身までをも吹き飛ばした。 「うわぁあああ!!」 「キョウヤ!!」 あれ、ちょっと待てよ、方向的に直撃じゃね?キョウヤすごいスピードでこっちに向かってきてね? ………。 「よし来いキョウヤ!!微力ながら支えになれればそれでよぐはっ」 微力すぎて、あんまり支えにもなれなかった。あ、つか体がなんかじーんと来た、全身に小さな痛みがぴりぴりと来た。古傷っ、古傷が痛んだ。いや対して古くも無いけど。 勢いで吹っ飛ばされた私は、そのまま後方へ、対してキョウヤは前へと倒れ込んだ。変な着地はしなかったみたいだ、良かった、キョウヤ怪我してない。 ホッとするのも束の間。痛みに顔を歪ませ、飛ばされたレオーネへと必死に手を伸ばすキョウヤの姿に、ぐしゃりと嫌な感情が溢れてきた。 「くそッ…キョウヤ!!」 「キョウヤさん!」 意識のないキョウヤに駆け寄り、皆で呼びかけるも、本人はぐったりとしたままだ。ここまですることないだろ、絶対。 「ひどい…」 「まだ銀河と戦ったダメージが残っていたのに…」 「あんにゃろうッ…!!」 振り返れば、あのムカツク表情と目が合った。 「キョウヤ君との約束も、ここまでですねえ…」 「はあ?」 「美羅さん、先日言ったこと覚えていますか?」 「知らん。忘れた」 「ハハハッ…まあ、いいでしょう。次会う時を楽しみにしていますよ。…では皆さん、また」 「なっ、待て!!」 既にヘリに乗り込んだ大道寺を追う銀河。キョウヤとの約束…ってのは知らないけど、忘れたって言いながら、先日言われたことは悔しいけど覚えてる。というより、忘れられる訳がない。嫌すぎて。 銀河を追うようにまどかとケンタが走り出すと、大道寺が最後に、会場の大きなオブジェにヴォルフを放った。それよってバランスを崩したオブジェが落ち、転がりながら二人のへと迫る。 「ちょ、まどか!!ケンタ!!!」 ヤバイぞ、あんなの当たったら…!! 駆け出そうとした瞬間、急に何かがのしかかってきた。 「キョウヤさん頼むんじゃ!!」 「うわちょ、ベンケイ?!」 その重みがキョウヤ自身だと認識した時には、既にベンケイが走り出していた。急なそれに対応できず、見事にバランスを崩しギリギリでキョウヤを抱える。ハッとして視線を向けると、もう三人の元へオブジェが迫っていた。 「避けろ!!まどか!ケンタ!ベンケイ!」 どがん、と嫌な音がして砂嵐が巻き起こった。 そんな、まさか。唖然としてその光景に動けないでいると、砂煙が晴れる。そこには三人の姿があった。どうやら、途中でオブジェが止まったようで怪我はないようだ。 「よ、良かった…っうお!」 気が抜けた瞬間、一気にバランスを崩し今度こそ倒れ込んでしまった。慌てて抱えたキョウヤを確認するが、顔面直撃だけは回避できたようだ。 それにしても、あの三人強いな。私だったら泣くぞ、絶対泣くぞ。 寝転がったまま頬杖をつき、大きく息をついた。 いよいよ、乗り込むのか。 今日、はっきりした。暗黒星雲には何かあるんだ。私が一方的に向けてる矢印じゃなく、あっちからも、私自身に何か矢印が向いている。 あのムカつく態度や発言からして、あまり良いものではないのだろう。心当たりがないからこそ、行くしかない。そしてきっと、暗黒星雲を知るチャンスでもあるはずだ。もし、また古馬村に手を出そうっていうなら、絶対に止めなくちゃいけない。 確認してやる、自分自身で。 「…おもしれえ、やってやろうじゃん」 そういえば、私と大道寺を前にしたキョウヤの様子がずっと変だった。何か知ってるのかもしれない。…起きたら聞いてみよう。 ちらりと横目でその姿を確認し、軽く頷いておいた。 20100102 ← ×
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