激闘!銀河vsキョウヤ



街中にある、大きなベイスタジアム。風が吹き荒れる中、キョウヤはそこで待っていた。銀河を倒すために。

「いよいよなんだ…」
「銀河…」

観客席とスタジアムの境になっている小さな塀に腰掛け、その様子をじっと眺めた。キョウヤは相変わらず、あの目をしたままだ。

私達四人がこのスタジアムへと入ったとき、まるで勝負の行方を暗示するかのように、大きな雷が鳴り響いた。
すごいバトルになるのは、皆分かりきってることだ。


「3」
「2」

「「1」」

「「ゴーシュート!!!」」


始まった。













「レオーネ!!」

ぶつかり合いながら、互いに様子を探っている。止むことのない金属音。勝負は、まだこれからといったところだ。

「なんでベンケイをあんな目に合わせた!仲間だったんだろ?!」
「ベンケイ?仲間?」
「それに、美羅にまであんな…!」

銀河の口から出た自分の名前に、どきりとした。もう痛くはないけれど、思わず頬の絆創膏を触ってしまう。


まだ耳に響く、あの時の銀河の言葉。


ぽっかりと空いた部分から、なんだかじわじわと温まっていくみたいな感覚。自然と下がった目尻とか、無意識に上がった口元とか、言葉では何も言えなかった。

怪我してこんなこと言うのはあれだけど、

(嬉しいなあ…)

不謹慎だけど、そう思った。


そんな時、キョウヤと視線が合ったような気がした。その目がどこか、困ったような怒ってるような。そんな風に見えたのは、私の気のせいなんだろうか。
しかしそれは、確認する間もなく逸らされてしまった。


「…知らねえな。弱い奴等なら叩きのめしてやったけどな!ハハハ!!」

「あいつ…!!」
「いいよ、まどか」
「でも…!!」
「いいから」

身を乗り出して言うまどかを止め、ニカッと笑って見せた。うん、やっぱ自然に笑えるのが一番良い。

「はあ…なんでそう笑ってられるかな」
「にひひっ!」

まどかに向き直れば、困ったように眉を吊り上げ、口を突き出していた。ケンタもどこか、苦い表情をしている。塀に座ってる分高い位置から見下ろすわけだけど、そのせいで怖いどころか可愛く見えて、また笑ってしまった。

「美羅!」
「あはは!あー…ごめんごめん」

ちらりとスタジアム見れば、大きな竜巻が伸びている。



「だってさ」



それを見ても、不安になんかならないんだ。



「銀河がなんとかしてくれるんだろ?」



キョウヤは、銀河がなんとかしてくれる。絶対そうだ、未来とか決定事項とか、関係ない。今はなんか、きっぱりとそう思える。魔法にでもかかったみたいだ。って、ちょっと綺麗にまとめすぎちゃったけど。

「…それもそうね」
「…そうだよね。うん、完敗」
「にっしっし!」

夜のライトアップに照らされながら、肩を竦めた二人と静かに笑い合った。









「どうした?俺に本当のベイバトルを見せてくれるんじゃなかったのか?」


雨が降ってきた。
激闘が続く中、銀河は苦戦を強いられている。キョウヤの新しい技、獅子風牙乱舞をもろに食らい、ペガシスもふらふらだ。

それでも、

負けない、絶対。


「それじゃあ最後の仕上げといくかあッ!!」

「銀河…」
「強すぎるわよ…キョウヤ…!!」

銀河の勝利は信じてる。でも、不安になるのも分かる。だって、キョウヤはあまりにも強い。強すぎるってくらい強い。
キョウヤが声を上げると、竜巻が一気に威力を増す。巻き起こる風の強さに、思わず顔を顰めた。雨に濡れて顔に張り付く髪が、嫌に気持ち悪い。


絶体絶命の状況。


「ああ…」
「…銀河!」


不安な空気を引き裂く、一声。


「しっかりせんかいお前等!!お前らがそんなんでどうする!!友のピンチこそ、声を出さんかい!!」

「ベンケイ…」
「ベンケイ…!」

「その通り!!」

塀の上に立ち上がって、大きくジャンプで観客席に飛び降りた。良かった、勢いで飛んだはいいけど、滑ったらどうしようとかちょっと思った。セーッフ。
弾いた足元の水も気にせず、そのままケンタとまどかの肩をがしっと掴んで引き寄せた。

「負けねえよ、銀河は!」

きょとんとした顔を二人に、ほら、と声をかければ、続くように聞こえてきた沢山の声。


「頑張れ、銀河ー!」
「負けるな、ファイトー!」
「銀河のバトル、放っておけないからな!」
「俺たちのキョウヤさんを取り戻してくれ!」
「銀河には、俺たちがついてるぜ!」


銀河とベイで繋がった皆が、観客席の向こう側に集まったいた。こんな風に、誰かが誰かを支えてる。

銀河にはさ、

「私達全員の力が加わってる。だから銀河は、絶対負けねえ!!」

我ながら随分な解釈だとは思うけど、不思議と確信していた。だって、肩を組んだ二人がこんなにも笑顔だ。

「そうだよ…、頑張れ、銀河!」
「私達、銀河を信じてるわ!」
「お前のバトルを見せてやれ!」


雨音に混じるように、沢山の声が重なっていった。


「…大事なことを忘れていたよ」


そう言って周りを見回した銀河。そうだよ、すっごい大事なことだ。

一人じゃない。

それはキョウヤだって同じはずだ。なあ、早く目覚ませよ馬鹿野郎。
皆に聞こえる、レオーネの泣き声。でもそれは、一番届くべき相手に届かない。そんなの、悲しすぎるじゃないか。



「何をやっても無駄だ。貴様など、くだらない声援や仲間の期待諸共、空の彼方までふとばしてやる!!……そのためだけに作り上げた、渾身の必殺転義でな!!」


「来る!!」
「え?!」
「まだあるの?風牙乱舞であれだけの威力なのに?!」
「吹き飛ばされんなよ皆!!」

「必殺転義!!獅子王爆風波!!!」


空まで伸びた竜巻が、一気に三本に割れスタジアムで巻き起こった。その風の流れに、ペガシスが弄ばれるかのように弾かれていく。

そのピンチをかき消すように、響く声援。

その様子に無駄だと吐き捨てるキョウヤ。しかし銀河はハッキリと口にする。「無駄じゃない」と。


「相手を叩き潰すことがベイバトルじゃない。そう言いながら俺は、力だけでお前に立ち向かおうとしていた」

「勝つことだけを考えていた。でも、それじゃあダメなんだって、皆の声が思い出させてくれた!」


続く銀河の言葉に、皆で顔を合わせて微笑み合った。彼が言うベイバトルは、相手を叩きのめすものじゃない。それに、一人で強くなれるものじゃない。ありのままの自分をぶつけ、相手の全てを受け止め、ベイにかける思いを高め合うことで初めて強くなれる。


うん、大賛成だ。


「全て受け止めて見せるさ、お前の執念も、怒りも、レオーネの思いも!」
「レオーネだと?!」


銀河がそう言うと、今まで苦しい状況だったペガシスが、嘘のように嵐の中を飛び回った。風に乗るように。

「だったら、貴様にこれが受け止められるか?!」

別れていた竜巻が一つに戻り、今までで一番の威力に変わる。空まで続くその竜巻にペガシスは巻き込まれ、ペガシスの姿は見えなくなってしまった。勝利を確信したキョウヤが、銀河へと言葉を投げつける。

だけど、続く言葉はお約束のあれだ。


「まだだ」


この言葉、すっごい安心する。
その気持ちを映すかのように、厚い曇に覆われていた空が晴れ、そこから舞い降りてくる、天馬。


「ベイバトルは、仲間との絆を結ぶものだ!…荒野に置いてきたブレーダー魂を取り戻せ!キョウヤ!!」


レオーネを中心とした竜巻へと進む、一筋の光。
巻き起こした風を徐々に打ち消し、その光はレオーネ本体へと直撃した。



嵐の後の静けさ。
静かに響く金属音。



勝負、あり。




20110102








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