曲がり角その先


暇だ。

そう思い始めてから、街をぶらぶらすること早数十分。特に興味を引くものもなく、結局いろんなお店のショーウィンドをぐるぐる見ているだけだった。

ぽかぽかとした日差しに、ふと眠気が襲ってくる。
ああなんかこう、のんびり釣りでもしたい気分だ。想像できた柔らかい日差しと穏やかな時間。いいねそれ、偶にはぼおっとするのも大切。

そんなことを思って欠伸をかみ締めた瞬間、思わず足を止めた。

「なんか…なっつかしいなー」

ガラス越しに展示されていたのは、学生服。いや、なんちゃって制服というやつだろうか。
顎に手を当てじっとそれを眺めれば、重なるように自分の姿が映った。学生服自体は簡単に思い出せる。だけど、それを着た自分自身を思い出すのは難しかった。


そうだ、気分転換に服……いや帽子、いいな帽子!帽子は好きよ帽子。なるべく派手じゃなくてさ、シンプルなやつ。
そう思い店内へと足を進める。入り口すぐの場所に展示されていたマネキンは、ラフなパーカーと一緒に、格好良いキャップを着こなしていた。

「……。」

うん、格好良いんじゃないか。



◇◇◇



「学生服と言えば…」

早速帽子を被ってみると、意外と似合ってた。
被り心地も最高だ、全俺が泣いた、正にそんな感じだ。

この間の大会の賞金、少し残しといてよかった!金は大事に使えと厳しく注意してくれた、彼のおかげかもしれない。ありがとう北斗。良い掘り出し物にも出会えました。


にんまり気分で再度歩き始め、ふと思った。


学生服といえば、あれだよね、学園スクールライフ。転校初日で遅刻とかさ、曲がり角でやたら格好良いクラス一の問題児とぶつかる…みたいな。

「ハハッ、いやそれはないなー」

まあ、そんなのはどうでもいいや。折角近くまで来たし、B-pitにでも行こう。
目的地が決まり、目の前の道が示す曲がり角を、逆らうことなく、右へ。

続く、衝撃。


「わっ」
「なっ」



嘘っ。




◇◇◇




「すまない、大丈夫か?」
「……(開いた口が塞がらない)」
「ど、どこか怪我したか?」
「あ、いやすいません。いくらそんな展開でもまさかこんな美少女とぶつかることは想像していなくて…」
「は?」

目を丸くした彼女。
いや、ちょっと待って。とりあえずなんか変なこと口走った気もするけど、まあそれは置いといて私。

光が反射する、綺麗な水色。
透き通るような、青い瞳。
そして褐色肌。

ヒ、ヒカルさんっ…!!!

そこらへんの学園コメディよりおいしい展開なんですけど…!!

「あ、あの…?」
「あ、はい!すみません見惚れてました!」
「だ、大丈夫か…?(主に頭が)」
「大丈夫!こっちこそごめん。…っあれ?帽子帽子…」

ハッとした時には既に遅し、先ほどまで良い感じに頭を包んでいた温もりがないことに気がついた。
すると、ヒカルが何かに気づいたように小さく声をあげる。つられて視線をずらせば、少し離れた位置まで転がっている帽子。…随分寂し気じゃないか、待ってろ、今行くぞハニー!!


「「あっ」」


二度目の呟きは、見事にハモった。


ちょっと待てよおい…!!
見事に通行人によって踏まれてしまった、それ。チャリだからってさあ…普通気づかないかなあ?!
出会って間もないんですよ私達…、縁を切るにはまだ早いでしょう!!余りも早い別れに怒りすら湧いてこなかった。

「す、すまない…」
「あ、いや、いいんだ。つまり運命の相手じゃなかっただけってことさ…」
「あ、ああ…?」

地味にショックは受けたけど、そんなヒカルまで気にしちゃうのは申し訳ない。実際全く持ってヒカルのせいではない。
気にしないでともう一度伝えると、目の前の彼女は汚れを払いながら立ち上がった。

「いや、そういうわけにはいかないだろ。余所見をしていた私にも責任がある。…とりあえず、立てるか?」

そう言って手を差し伸べてくれたヒカル。え、何この素敵な子…!!避けることもなくその手に甘えさせてもらい、お礼を言ってから私もよっと立ち上がった。


「私は波左間ヒカル。お前は?」
「美羅。中田美羅だよ。よろしく!」
「美羅か。悪かった、ちょっと考え事をしててな」
「いや、こっちこそ。すんませんッス」


改めて頭を下げて謝罪をすれば、堅いぞなんて静かに笑い声が響く。その笑顔があまりに綺麗で、出かけた溜息はなんとか堪えた。

「とにかく、この帽子は私がなんとかするよ。いや、というよりさせてくれ」
「いや本当気にしないで、お互い様だし。大体そこまで汚れたらもう流石に…」

いや、性格には汚れるよいうか擦り切れたような。どんだけ早いスピードでこいでたんだよチャリの人。そっちに吃驚だよ。
話しながら帽子を手に取っていたヒカルは、既にそれの形を直し、手の中で弄んでいた。

「まあ、そう言うな。任せておけ」

いい笑顔で言われてしまった。
ああ、こりゃ何を言ってもあれだな。直感的にそう感じたので、少し悪い気はしながらも、私が折れた。


「じゃあ、また明日この場所でもいいか?」
「あ、うん。本当ごめんな。ありがと!」


他愛のない話を少し交わしてから、ヒカルは「ああ」とだけ返事をして、この場を後にしてしまった。

この街に住んでるのか、とか、この帽子素敵だな、とかそんな言葉を交わしたけど、一度もベイの話が出なかった。ブレーダーには見られなかったのかもしれない。…嬉しいような、悲しいような。

ちょっと後悔したと思った。言えば良かったかなー、バトルしたかったなー…。


「ま、いいや。明日会えるし!」


そうだ、明日会えるんだから、その時にいろいろ話してみよう。それにしてもヒカル美人だった。なんか感動してしまった。


緩む口元のまま動き出した足は、結局B-pitには向かわず、また適当にぶらぶらし始めていたのだった。





















「…まどか何してんの?新しい遊び?」
「捕まってんのよ助けてよ!!」
「いやごめん。私カニ食べれないんだ…」
「食として見ろとは言ってないでしょ!!」


適当に辿り着いた海辺で、何だか不思議なことしてるまどかに出会った。
何故穴に落ちてる。そしてなんだこのカニ。

「早く助けてよお!!」

そういえばこのへんの記憶薄いや、マジ何があったんだしまどか。



20101212








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