勝負を決めるのは 「君は?」 目の前の二人は視線だけをこちらへ向け、不思議そうに首を傾げた。 「ごめんごめん、何だか楽しそうだったから、何してるのかなーと思って」 「あーなるほど!」 柵を飛び越えて二人、銀河とケンタの横へ行けば、暗がりの中、起き上がった二人の顔を間近に見ることができた。 「星を見てたんだ、お前も一緒に見てみないか?えっと…」 「美羅、中田美羅っていうんだ。よろしく」 視線に合うよう私も屈めば、ケンタがにっこりと微笑んでくれた。ほ、ほ、本当に小さい…! 「僕は湯宮ケンタ。よろしくね、美羅」 可愛い…、いや、変態発言に取られるのが怖いから言わないけど…、ケンタ可愛いよケンタアア!! その隣に視線をずらせば、本当に燃えるような髪色をした銀河と、バッチリ目が合う。 「俺は、「鋼銀河」え?」 喜びが抑えられなくて、思わずその言葉を遮ってしまった。当然、二人とも驚いた顔をしている。 「噂で聞いたんだ。鋼銀河っていうすごいブレーダーがいるって」 そう、いろんな街をまわったけど、その中で銀河の話をたくさん聞いた。偶に大会の中継で映ってたりもしたし。…漸く本人に出会えたんだ! 「やっぱり、銀河ってそんなにすごいんだ」 「いやあ、そんな…あれ、てことは美羅もブレーダーなのか?」 照れて頬を掻いた後、きらきらとした目で聞いてくるもんだから、こっちも思わず口元が上がってしまう。勢い良く返事を返し、ケアトスを手にすれば、二人から「おお、」なんて歓声が漏れた。 「ずっとバトルしてみたかったんだ、鋼銀河と!」 星の光に照らされた銀河の表情が、一瞬きょとんとなる。(あ、可愛い) それからすぐに、夜だというのに、銀河はまるで太陽みたいに輝くあの笑顔を浮かべていた。 「そんなこと言われて断るわけねえよ!やろうぜ、ベイバトル!」 勢い良く立ち上がった銀河につられて、私も思わず立ち上がった。銀河とバトれる!ペガシスとバトれる!、考えただけで、全身にぐるぐる血が巡っていくような感覚だった。 「よっしゃあ!!やろう!!」 そんな私達の様子を、ケンタは少し呆気に取られたように見ていた。しかし、ケンタもハッとしてすぐに立ち上がる。 「って、こんな遅くにやるの?!」 「問題」 「なしってやつ!」 ニッと笑って草の斜面を降り、少し広けた場所まで足を進めた。むしろ夜だからこそ、人通りが少なくて思いっきりバトれるってもんだ。 すっかり暗い空間で、向かい合った銀河の表情も読めない。ベイまで見失っちゃいそうな気がするけど、大丈夫、まだ大丈夫。 静かに光を写す水面に、風が波紋を作った。 「俺の相棒は…って、知ってるのか。行くぜペガシス!」 「……。」 その時確かに、白銀の翼が見えたような気がしたんだ。 鳥肌にも似た何かが、自分の感覚を一瞬にして奪い去った。 あれが、ペガシスか。熱くなる顔をなんとか風で冷まして、もう一度それを見つめる。連戦続きでごめんね、でもお前も楽しみだろ、ケアトス。 「私の相棒はケアトス、いつでもOKだよ!」 「よし、行くぜ!」 「おう!」 「「3」」 「「2」」 「「1」」 「「ゴーシュート!!」」 巻き起こった風に草が揺れ、水面が光を拡散した。 「すごい…」 目を見張った。目の前で起るバトルに。こんなバトル、今まで見たことなかったんだ。 激しいぶつかり合いに、まるで空気まで震えてるような感じがした。激しい金属音を響かせながら、ぶつかって、ぶつかって。見ている方からすれば、少し恐怖も覚えてしまうような。 でも何より、二人とも、すごく楽しそうだ。 (ねえ、サジタリオ) 手の平の中にある、大事なパートナーに語りかけてみる。僕もあんな風に、強くなれるのかな。希望を持って握りしめれば、それに答えるように大きな風が吹いた。 「やるな美羅!」 「そっちこそ!」 さすが銀河…、キョウヤもそうだったけど、やっぱり強い。そして、うわあ!!楽しい!! こんな風にバトルできることが、本当に幸せだと改めて実感する。勝ち負けとか関係ないんだって、思わずにはいられない。 「必殺転技!ディフュージョン・リップル!」 雨が降る如く波紋が浮かび、次々に波ができていく。 一瞬驚いた様子の銀河だけど、すぐにその顔は、挑戦的ものに変わっていた。 「おもしれえ!受けてたつぜ!!」 迫りくるペガシスを波が攫い、真っ直ぐに上空へと吹き飛ばす。 「あっ!」 「よし、決めた!」 「まだだ!」 ペガシスは大きく吹き飛んだ。勝ちを確信するにはまだ早いって分かるけど、まだ… まだ?、まだって……あ"?! 「ッあ…しまっ!!」 翼が、翻った。 「必殺転技!ペガシス、シューティングスターアタック!!」 真っ直ぐに舞い降りたペガシスが、ケアトスへ鋭いアタックを決める。 巻き起こった風に顔を覆えば、 「あっ…」 かつんと音をたてて、足元には回転を止めたケアトスが身を寄せていた。 「っしゃあ、俺の勝ち!!」 呆気にとられながら、満足に微笑む銀河と目が合った。負けた、けど。 「すっっげえ!!!」 キラキラが止まらない…!!!! 抑えることも、できなかった。 ◇◇◇ 「それじゃあ美羅も、銀河と同じで全国を旅してるってこと?」 「ま、そゆこと!」 「へえー、通りで強いわけだぜ」 「負かされた相手に言われてもなー」 静かに響く笑い声を、星空が照らしていた。こんな風に誰かと夜までお喋りなんて、村にいた時以来かもしれない。 「ちなみに、美羅はどこから来たの?」 「え"ッ?!えっとなー…」 「いいですか美羅さん」 「え、何が?」 「少しは聞いてください。貴女の素性は、明かさないようにしましょう」 「記憶喪失、ってこと?」 「それもありますけど、古馬村のことも。特に空から…いえ記憶喪失云々は、よくない人に利用されてしまうかもしれませんからね」 「なんか保護者みたいだな。うん、分かった」 「…シークレットで」 「「?」」 おそらく心配して言ってくれた氷魔の言葉がふと蘇る。うん、約束、守るよ。 ニッと笑ってみせると、二人から疑問の声はあったもののそれ以上の追及はなかった。 「じゃあ、美羅もどこかに泊まるの?」 「うん、そのつもり」 「だったらここでいいんじゃないか?地面はふかふかだし、最高だぜ?」 ごろんと寝転んだ銀河に続いて、私も草原に寝転んでみた。なるほど、確かにふかふかだ…。 「じゃあお邪魔しちゃおうかな」 「おう!」 大きく伸びをすれば、視界いっぱいに夜の闇。輝く星が飛び込んできた。 景色も、最高。 「ねえ、二人とも」 「二人は、すぐまたどこかへ行ってしまうの?」 「ねえ、もし良かったらしばらくこの街に…!」 ケンタへと向けた視線を逆方向、つまり銀河へと向ければ、どうやらケンタもその意図に気づいたらしい。苦笑いで指を差せば、ケンタも開いた口が塞がらないといった感じだ。…お、おやすみ三秒。 がくっと肩を落とすケンタに思わず笑ってしまうと、溜息混じりなその目と合った。 「大丈夫、出発がどうなるかは分からないけど、暫くはこの街にいるつもりだから」 「本当?!」 打って変わりニコっと微笑むケンタが、か、可愛い…。(はっ!いかんいかん) 光を散らすその様子に、私も思わず笑顔になる。 そんなことを思っていたら、その輝きが笑いかけた。 「僕、美羅のバトルを見てて、すっごく楽しかったんだ。だって美羅本人がすごく楽しそうだったから!明日、僕ともバトってね!」 真っ直ぐにっ向けられた視線に、何だか嬉しくなってしまった。暖かいなあ。 「おう!もちろん!」 えへへと笑い合ってから、ケンタは家へと戻っていった。隣の銀河は、そのまま爆睡中だ。 腕を頭の後ろで組んで、もう一度夜空を見上げる。 始まったんだなあ、いよいよ。 時折漏れる寝言と一緒に、通り過ぎる風が耳をくすぐった。こうしていると、何だか不思議な気持ちになってくる。嬉しさのようであって、何かが胸を満たしていくのに、どこか喪失感。 それでも、なんだか、 「届きそうな気がするなー…」 あの時は届かなかった何かに、少しだけ届きそうな気がしてる。 変なの。 でも嫌じゃない。 明日はケンタともバトれる。楽しみだなー! …あれ、でも明日は何かあったような… 何だっけ…えっと…えー… フル活動させる頭をよそに、瞼がどんどんと下がっていく。ああ、眠い。 閉じかけた意識の中、夜空を横切る流れ星を見た気がした。 ◇◇◇ 「おい、いたぞ昨日の女!」 「隣のこいつ誰だ?」 「…あっ、あれじゃないか、ベンケイさんが探してた…」 「あー!!報告、入れとくか?」 「ああ」 「とりあえず、キョウヤさん怒らせないうちにこの女だけでも連れてこうぜ」 「おう」 「……カー」 影が、かかった。 「…っ?」 「探したぞ」 こいつ、確か昨日の…。起き上がってみれば、昨日ケンタを襲っていた首狩団とかいう奴らが、俺を取り囲んでいた。 「ちょっと顔貸してもらおうか」 「隣にいた女ダチなんだろ?こなけりゃどうなるか…分かるよな?」 ハッとして隣を見れば、そこには昨日いたはずの美羅の姿がなかった。 こいつらッ…!! ◇◇◇ 「…い、…おい」 何か、ふわふわしてる。 気持ちがいいっつーかなんつーか…、地面がゆらゆら揺れて、気持ち悪っ…。 「…っ」 「ようやくお目覚めか」 「……え、あっれー…うわっ!」 目が覚めたら、何故かそこは、薄暗い無機質な色をした空間。 え、なにこれどういう状況…?!鉄骨だらけだ。 鎖で吊るされた厚めの鉄骨の上に、私はいた。いや高いよビビるよなんだこれ!!思わず身を動かせば、その足場がぐらりと揺れたので、何とか鎖を掴んで持ち堪えた。 「チッ、何してやがる…」 そして、なんで、 「なんでキョウヤが…」 おかしい、いや、おかしい。 昨日私は確かに、あの河原で寝たはずなのに…銀河は?ケンタは? そんな私の様子を無視し、隣のキョウヤは余裕そうな表情で口を開いた。 「あのまま、俺が大人しく帰すとでも思ったか?」 ポカンとして周りを見れば、どうやらここは、どこかの建築現場のようだ。 首狩団もたくさんいる。何故か冷や汗流しながらこっち見てるんだが。 「もう一度勝負しろ、あんなことは絶対ありえねえんだよ。今度こそてめえを、レオーネの牙でぶっ潰してやる」 「あ…」 だんだんと頭が覚醒してきた。そっか…、どうやってかは分かんないけど、連れてこられたんだな多分。んで、この場所はあそこか…百機バトルか。 連れてこられた訳も分かったし、なるほどな。 でも、多分そんな暇はないはずだ。 「さあ、てめえのベイを構えやがれ!」 「てめえじゃない。中田美羅。それにさ…」 静かに足音が響いた。 「先客が来たみたいだし?」 ニッと笑って視線を向ければ、そこにはこれからキョウヤの永遠のライバルになるであろう彼の姿が。 「チッ…まあいい。まずはあいつら譲ってやる。だが、あいつを倒して、次はてめえの番だ」 「ああ、受けて立つよ」 そんな言葉を繋いで、ほぼ同時。 「美羅!無事か?!」 「大丈夫、全然元気!」 視線を落とし手を振ると、どうやら銀河もホッとしてくれたのか、少しだけ表情が緩んだように見えた。 それを遮るかのように、ベンケイの声が響き渡る。 「さあ、パーティーの始まりじゃい!」 キョウヤと共にその様子を見つめる。 銀河を呼ぶケンタの声と混じり、百機バトルが始まった。 跳ね返り襲う無数のベイに、銀河は一歩も動こうとしない。それを馬鹿にする首狩団の笑い声が、嫌に反射した。 「助けに行かないのか?」 「あれ、行っていいの?」 「ハッ、そう思えるならたいしたもんだな」 行かせてくれる気なんかないくせに、よく言うよ本当。 「必要ないよ。あいつ等もバカだなあ、こんなことで銀河がやられるわけないじゃん」 「随分と評価してるんだな」 「当然」 視線はそのままに言葉を交わせば、襲い来るベイが銀河のバンダナに切り込みを作っていた。 「ケンタ」 でも、それはピンチでもなんでもない。 「俺は、逃げたりしない」 真っ直ぐな視線に、思わず笑顔になった。 「銀河…」 「良く見てろよ、ベイの強さは攻撃力や持久力じゃない」 「何?!」 熱気のような何かが、銀河を包む。 「まして、数なんかじゃない!」 その姿に、横でキョウヤが反応したのが分かった。昨日は無我夢中だったからあれだけど、今度はちゃんと見れる、ペガシスを強さを間近で。 「ゴーシュート!!」 誰もが息を呑む中、銀河はペガシスを放った。 光の如くそれは真っ直ぐに進み、次々にベイを吹き飛ばしていく。感動すら覚える光景だ。目が、逸らせない。 「おい」 「ん?」 「あいつとお前、どっちが強いんだ?」 「今のところ銀河」 「へえ…」 楽しそうに、キョウヤは口元に笑みを映した。そう、今のところは、だ。私も負けてられない。もっと強くなって、銀河に勝ちたい。もっと楽しいバトルがしたい。 ペガシスが巻き起こした風に巻き込まれたベイが、逃げる首狩団の元に豪雨のように落ちてくる。勝負、ありだ。 「あ」 じんわりと勝負の余韻に浸っていると、ヒュと風を切る音が響く。すると、真っすぐにこちらへ飛んでくるベイ。 やべ、夢中になって気づかなかった。 反射的に目を瞑り、手を突き出した瞬間。それは金属音と共に地面へ落ちていった。不思議に思って顔を上げれば、どうやらキョウヤが自分のランチャーでそれを弾いてくれたようだ。 「え、あ、ありがと」 「おい、美羅」 意外なことの続き具合に、なんだか置いていかれそうだ。 「お前とのバトル、あいつに勝ったあとまで持ち越しだ。…てめえには、俺の強さをしっかり見せつけてやるから、よく見ておけ」 妖しく笑うその表情は、どこか楽しげだった。 …今から二人のバトル、楽しみだ。 「言ったろ」 金属音が止み、銀河はその手へとペガシスを戻す。 (うん、そうだ。大事なのは、) 「バトルで最後に勝負を決めるのは、ブレーダーの魂だ!」 20100911 ← ×
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