舞い降りた天馬 賑やかな声援。 ある一箇所を囲み、誰もがそこから視線を逸らせない。人々の表情は様々で、笑顔があれば、悔しそうな顰め面もある。そして声援に混じる、金属がぶつかり合う音。 今日も、ベイバトルは熱いです。 「WBBA主催の今大会も、いよいよ決勝戦だ!両者共一歩も引かないぞ!」 目の前で激しいぶつかり合いを見せるベイ。もう何度も経験した光景。だけど、その楽しさは変わることはない。 相手の掛け声と共に、真っ直ぐに迫り来るベイ。避けることなく弾き返すと、少年の表情は驚きの色を隠さずにいた。 盛り上がるバトルに、誰もが胸を高鳴らせているようだ。もちろん、私も。 「決めるよ、ケアトス!」 相手のベイを場外へ弾き出すのと、観客の盛り上がりが最高潮になるのは、ほぼ同時だった。 ◇◇◇ 「お疲れーケアトス」 大会を無事に優勝という形で終わらせ、ふわふわと余韻に浸りながら街を歩く。 (優勝…、かあ) 思わず緩む口元を隠すことなく腰のケースを見つめれば、ケアトスも喜んでいるような気がした。 赤く染まる夕日に、ぶわっと涼しい風が吹く。 古馬村を出て、もうどれくらい経ったんだろう。結構な月日が経ったのは間違いないはず。ケアトスと一緒に旅をして、全国各地を回った。始めはどうなることかと思ったけど、実際始めてしまえば意外と不安は消えていった。 気づけばポイントもそれなりに溜まり、私自身も強くなった。 「今日のバトルも楽しかったなあー!」 浮かれ気分のまま、そう言って体を伸ばせば、突如聞こえてくる金属音。路地裏から聞こえたそれに、思わずにへらりと表情が緩む。もう一戦くらい、いいだろう!どんなバトルが行われているのか、ワクワクしながら覗き込んだ、 ら、そこで足は止まった。 「さっさと構えろよ、それともポイント只でくれちゃうわけ?」 っあー…、なんだ…。全然楽しい雰囲気じゃないの、な。 数人の若者に囲まれた少年は、今にも泣き出しそうにベイを握っていた。これは世に言う… 「ポイント狩り、ってやつか?」 そう呟くと同時に、その場にいた全員が驚いたように振り返った。(おー、壮観) 「ああ?なんだよてめえ」 「なんだよ…ガッカリだよ…」 如何にもガラの悪そうな若者が、声を上げる。まさかのポイント狩りだったなんて。その視線を気にすることなく盛大に肩を落とせば、どうやらそれは相手の癇に障ってしまったらしい。 「何意味分かんねえこと言ってやがる!……ああそうか、助けにでも来たのか?」 いきなり指差された少年は、涙目で大きく肩を揺らした。ああ、前の街でもあったけど、本当どこにでもいるんだ、こういう奴ら。そういえば、銀河も同じこと言ってたような気がする。今なら分かるな、その気持ち。 「何とか言ったらどうだよ!」 「るっさいなー。別に私は人助けでベイしてるわけじゃないんだから、そうじゃねえよ」 そこまで言うと、少年は一瞬呆気に取られたような表情をして、またその目に涙を溜めた。 あ、いや、そういうつもりじゃなかったんだけど…、言い方が悪かったかもしれない。 「なんだよ、ただの腰抜けか!」 馬鹿にしたような笑い声が、次々に響く。 へぇ、随分と聞き捨てならないことを言ってくれるじゃないか。 「腰抜け?冗談!ただ私は人助けでベイをしてるわけじゃないって言っただけだ。この状況を見過ごすほど、弱くはないよ」 「はあ?」 いいじゃん。やってやろう、相手は六人。いけないことはない。 「ちなみに、なんでこの子一人に寄ってたかってんの?」 「ぼ、僕にも分からないよ!」 「大した腕もないくせに、ポイントだけは持ってるみたいだからなあ?」 「あらー。モテる男はつらいね?」 「そういうことなの?!」 訳がわからないよお!と、涙目ながらも必死に立ち向かおうとしている少年。うん、格好いいじゃん。全然腰抜けなんかじゃない。それに比べてさあ、と思いながら向けた視線は、さらに相手の苛立たせる要因にしかならなかった。 罵倒が増えるの聞き流して、ひらりと立候補する。 「その子の代わりに私とバトルしない?」 「てめえが?」 「もちろん、私が負けたらポイントはくれてやるよ」 少しは興味を引けたのか、若者たちが「お前のポイントは?」と嫌な笑みを浮かべる。 おお、最もなこと言われてしまった。………あれ、何ポイントだっただろう。あんまり細かく気にしてなかったから、実際分からないぞ…?! いや、でも、うん。確か結構あったはずだ、うん。 適当に誤魔化し、ケアトスを構える。 すると、若者たちがぐるりと私を取り囲む。 ふーん。なかなかおもしそうじゃん。どんな状況でも、バトルはバトルだ。 わくわくしないはずがない。 「首狩団に盾突いたこと、後悔しやがれ!」 「え、首狩団?」 え、何こいつら、首狩団なの? …ってことはもしかして、この街って。 思わず、口元が上がる。 「あのさ!六人同時でもなんでもいいからさ、私が勝ったらアンタたちのリーダーと戦わせてくれない?」 「「はあ?!」」 そっか、この街は"あの"街なんだ。 てことは、ずっと待ち望んでいた、バトルができるかもしれない。ついに、ついにできるんだ!! 「おい聞いたか?!キョウヤさんと戦いたいんだと!」 獅子暴風壁。あれ受けてみたいんだよねー、どのくらいの威力なんだろう。旅の途中で強いブレーダーにはたくさん会ったけど、やっぱり桁外れに強いのかな。 「身の程知らずにもほどがあるぜ!」 ケアトスは決して攻撃力に長けてるわけじゃないから、やっぱり突破するのは難しいかな。だったらどうしようかなー…。 「おい、お前聞いてんのかよ!」 「え、ああ、聞いてる聞いてる」 「いいぜ、お前が勝ったらキョウヤさんの所に案内してやるよ」 勝てたら、な。そうニヤリと笑う首狩団は、負ける気なんて毛頭ないのだろう。お生憎様、私も負けるつもりはない。 不安げな少年に微笑みかけてから、首狩団へと向き直る。 「「「ゴーシュート!!!」」」 彼らに向けた笑顔は、先ほどとは全く違う意味のそれだ。覚悟しろ。 「つ、つえ…」 「嘘だろ、マジかよ…」 倒されたベイの横で、彼らは座り込んだ。これに懲りてポイント狩りなんて止めればいいな、なんて思う。そんなバトルばっかじゃつまんないだろ、きっと。 「あ、そういえばポイント」 そうだ、どうせだからどれくらい溜まってるのか確認しよう。ええと… 「おお、二万」 「二万?!」 「勝てるわけねえじゃねえか!!」 自分でも吃驚だぜ。驚きだぜ。 でもまあ、これでキョウヤへの挑戦権を手に入れたわけだ、っあー!楽しみだ! 「チッ、覚えて「待った」 我ながら、なかなか必死の形相なんだろう。 「約束、は?」 冷や汗を流し続ける彼らに、ニッコリと微笑んでおいた。 ◇◇◇ 「ここかあ…」 案内されたのはどこかの倉庫。ぼんやりとした記憶だけど、確かに首狩団ってこんな場所をアジトにしていた気がする。 先を歩く彼らは、随分と肩を落として恐る恐る倉庫に足を踏み入れていた。怒られるのか、やっぱり。いや、私が悪いわけじゃないぞ、うん。 既に日は落ちきっていて、薄暗い倉庫内をオレンジのライトが照らしている。そして、僅かに漂う海の匂い。ああ、秘密基地としては最高の環境かも。 目の前の彼らが足を止めたことにより、私も釣られて足を止める。 途端向けられる、痛いほどの視線。 「なんじゃ、その後ろの女は」 聞いたことのある声に視線を向ければ、そこにいたの、は 「ベ、ベンケイさん!」 うわあああベンケイだ!予想してたよりも全然身長高い! 見とれている私を横に、彼らはしどろもどろに説明をしているようだった。その姿は少し…い、いや何度でも言うぞ、わ、私悪くないからな?! どうにも進まない会話に、彼らのひとりが堪らずに奥へと声をかけた。 「ああ?」 静かな低音ボイスに、一気に場が静まり返る。 倒していた体を起こし、徐々に明らかになるシルエット。 思わず見惚れる深い緑。そんな瞳と目が合えば、なんだか吸い込まれるような気分に陥った。電流でも走ったのか、体がぱちぱちと心地よくぴりつく。 「その、あの…」 キョウヤに睨まれ、目の前は彼は冷や汗を流しながら口を動かす。 「ああ?何が言いたい」 「あ、あの…」 流石にここらで口を出そう。案内ご苦労!! 「私とバトルしようよ、盾神キョウヤ」 「バッッ、おま!」 一歩前へと踏み出せば、静止をかける声が聞こえた。いや、そんなの気にしない。こんなに魅力的なブレーダーが目の前にいるのに、じっとしてなんていられるか!! 「誰だてめえ」 「別に名乗るほどでもないよ。アンタとバトルしてみたくてここに来た、ただのブレーダー」 「お前、キョウヤさんの質問に答えるんじゃ!」 「ダメかな?彼等は、俺らに勝てばアンタとバトルしてもいいって言ったんだけど?」 ちらりと振り返れば、彼らは肩をびくっと震わせた。おそらく、私の視線だけじゃなくてキョウヤからの視線も浴びているのだろう。改めてキョウヤのリーダー性というか…、強さを感じる瞬間だ。 「お前ら負けたのか、こんな女一人に」 「いや、それは…」 「黙れ」 ベンケイの責める口調に、キョウヤが口を挟む。その声色はどこか怒りを含んでいた。 「ベンケイといいお前等といい、負けて無様に逃げ帰ってくるとはな」 その言葉にベンケイはうっと言葉をつまらせ、目を伏せ黙り込んだ。 ん?負けた…ベイケイが? 誰に? 疑問に思うのもつかの間。 「チッ、ふざけたこと抜かしやがって。おい女、どうしてこの俺が、てめえとバトルしなくちゃならねえんだ」 ああ、やっぱりそうきますか。いくら彼らと約束したとはいえ、キョウヤがそれを聞き入れてくれるのは難しいと思ったんだ。まあ、諦めないんだけどさ。 「いいじゃん、減るもんじゃないし。あ、なんならポイントかける?」 とにかく、このまま帰るなんてのは絶対嫌だ。折角のチャンスなんだからさ。餌でもなんでもやって釣るぞ。 「…ほう。で、どのくらい持ってるんだ?」 あ、食いついた。 「二万」 「に、二万じゃと?!」 そのざわつきで確信する。 二万って結構すごいんだ。……頑張ったな、私。 「悪くねえな。並みのブレーダーじゃないのは確かだ。しかし、何故わざわざ俺なんだ、勝てる気でもしたか?」 思い違いだとでも言いたそうなその視線。位置的にも、まるで見下されたような図になっている。 勝てる気…か。 「いや、全然」 「は?」 「勝てるかどうかなんて、そんなのやってみなくちゃ分かんないだろ。私は勝ちに来たんじゃなくて、バトりに来たんだ」 実際勝てるかどうかって聞かれたらなんとも言えないな。キョウヤが強いのは分かってるけど、どのくらい強いのか分かんないし。自分の力がどこまで通用するのかも、さっぱりだ。 だけど、 「…まあ、並みかどうかは分からないけど、退屈はさせないと思うよ?」 ケアトスを突き出して見せれば、キョウヤは一瞬ぽかんとして、声を上げて笑った。 「言うじゃねえか!いいぜ、このレオーネが相手をしてやる。てめえのポイントは全て俺がいただいた!」 余裕の表情を見せる者、息を呑む者。それぞれの思いが交差しながら、バトルの舞台は出来上がった。うわああああ、楽しみだ…!!! 「さあ、始めようじゃねえか」 「そうこなくっちゃ、ね!」 スタジアムはコンクリートの地面。スタジムアウトはなし…か。何だか、氷魔とのバトルを思い出す。あの時みたいに、楽しいバトルになるな、わくわくする!! 私達を囲むように、首狩団のメンバーも円を描く。 ふと上を見上げれば、なかなか天井が高かった。これなら、必殺転義に支障は出ないだろう。 多分、私のにも。 「「3」」 「「2」」 「「1」」 「「ゴーシュート!」」 真っ直ぐに放たれたベイは、空中で一度ぶつかり合い、勢い良く離れた。孤を描いて様子を探るケアトスを尻目に、レオーネは中央へ陣取り構えの態勢に入る。 流石、早い。いきなり守りの体制に入るなんて、こっちの実力を見るつもりか。いいじゃん、乗ってやるよその挑発。 「お手並み拝見といこうじゃねえか」 余裕に腕を組むキョウヤを一瞥して、考える。さて、どうしたもんか。 いや、でもまあ、 「考えたって仕方ないな!そっちが守りならこっちは攻撃あるのみ!」 一直線にレオーネへと向かうケアトス。激しくぶつかり合う音が響くものの、レオーネが怯む様子はない。 「ハッ、その程度かよ」 ダメだ。あの防御を崩さない限り、攻撃は通用しない。 だったらこれはどうだ。ケアトスはレオーネから距離を取り、何度も角度や位置を変えて攻撃を繰り返していく。大した攻撃じゃないけど、これなら…! 「ハッ、無駄じゃ無駄じゃ。そんな攻撃キョウヤさんには通用せん!」 来た、この瞬間! 「ケアトス!」 不規則な連続アタックの繰り返しで、一瞬よろけたレオーネ。そこを狙ってケアトスが一気に距離を取り、素早いアタック。急なそれに対応できなかったレオーネが、やっとその身を動かした。 「チッ」 「よっしゃ!」 「甘いぜ!」 レオーネを吹き飛ばした瞬間、まさかだった。飛ばされたはずのレオーネが急転換しケアトスの元へと戻ってきたのだ。 「なっ!」 「分からねえのか?!始めからこの瞬間を待ってたんだよ!!」 無防備なケアトスにきつい一撃が入り、吹っ飛んだ先のコンテナに大きな凹みを作った。 「ハッハッハッ!」 「ケアトス!」 良かった、まだ回ってる。まだいける。 やっぱり強いよキョウヤ、なんだこれ、楽しすぎる…!! 「どうした、もう終わりか?」 「まだまだ、こっからだよ!」 互いに火花を飛ばしながら、金属音が響く。 アタックの衝撃で宙を舞ったレオーネは、横壁を上手く使い地面へと滑り落ちてくる。ニヤリとしたキョウヤの表情に、胸が躍った。 来る…! 「必殺転義!獅子暴風壁ッ!!」 一気に風が舞い上がる。いや、舞い上がるなんてもんじゃない、竜巻だ、まさに。 周囲の物がガラガラと音を立て倒れていった。高く舞い上がる風は天井のライトを揺らし、不規則に視界が色を変える。 「こんな場所で?!」と叫ぶ周りにも気にせず、キョウヤはその威力を強めていく。 すごい、これが…、盾神キョウヤなんだ!! 「さあ、どうするつもりだ!」 向けられた視線に、喜びが隠せなかった。 やろう、私たちも!! 「さー、行くよケアトス!」 竜巻に巻き込まれない位置までケアトスを下げて、意識を集中させる。旅の途中で編み出した、私とケアトスの必殺転義。使うの久々だな、これ。 「必殺転義!ケアトス、ディフュージョン・リップル!」 フェイスが光ると同時。雫が落ち、ケアトスの真下へ波紋ができる。それは徐々に広がっていき、おおきな波へと変わっていった。 そして雨が地面に弾くように、次々に周囲で小さな波紋ができる。不規則にできる波紋は、ルールを持たない水の流れだ。その波に、乗る! その不規則な動きに合わせ、レオーネへと向かうケアトス。ふいに現れた大きな波はレオーネの作り出した竜巻を襲い、その形を歪めた。 「これは…!」 ついに竜巻の姿は消え、その身をを見せたレオーネ。 最後の一撃を、決める。 「なめんじゃねえッッ!!!」 (信じてますぜ、相棒…!!) その時現れた、獅子と鯨の姿。 激しい衝突音に、視界を奪う砂煙。 飛ばされた先を目線で追えば、 「…なっ…?!」 「!、ケアトス…!!」 そこには、横たわるレオーネと、 微かに回り続ける、ケアトスの姿があった。 「う、嘘じゃろ…キョウヤさんが…負けた?」 静けさを取り戻した倉庫内に、ベンケイの声が震えて響いた。 「よっしゃあ!!勝ちい!!!」 「俺が、負けた…?」 信じられないといった様子で立ち尽くすキョウヤ。首狩団の彼らも、何も言えずに只キョウヤを見つめているだけだった。 「楽しかったよ、キョウヤ!」 「ッ楽しかった…だあ?!ふざけんな!!!」 鋭い瞳と視線が絡み合う。怒りに満ちた表情。 そうか、今はまだ、銀河と出会ってないのかも。だとしたら、まだあんなひどいバトルをしてるのかもしれない。まだどことなく悪役面の彼に、ひとりで納得した。 ケアトスを拾い上げて、キョウヤとの距離を詰める。目の前で足を止め、自然と目を合わせようとすれば首が痛くなった。おお、間近にくると、本当に身長高いんだなー…。 それに、とんでもなく睨まれてはいるが、ものすごく顔が整っている。さ、さすが…。なんだか訳もわからず恥ずかしくなってしまった。 「それでも、楽しかったんだ。またバトルしようよ」 思いっきり、ニッと笑ってみせる。 だけど、次に何を言われるのか少し不安はあったので、返事は聞かずに倉庫から飛び出した。 「待ちやがれ、てめえ逃げる気か?!」 背後から聞こえた声。立ち止まって振り返る。 「おう!敵前逃亡万歳だ!次はスタジアムでバトろうよ。あとは、アンタの本当の力が発揮できる屋外、でね!」 その後も何か聞こえた気がするけど、今度こそ外へ飛び出した。 ああ、外はすっかり真っ暗だ。 ◇◇◇ ここまで来れば平気だろう。そう思いスピードを緩め、ホッと息をつく、 私、あの盾神キョウヤと戦ったんだ…。やっぱり、すごく強かった、そしてすっごく楽しかった。 でも、ひとつ心残りなのはこの戦った場所だ。あんな建物内じゃ、いくらキョウヤの必殺転技でも威力は半減だろ。それに比べて、水を武器とするケアトスにとってこんな海辺は最高の環境だ。 つまり、 「引き分けかー…」 フェアじゃなかったな、この勝負。っあー!!悔しい、なんで気づかなかったんだよ自分のバカ!!天井の高さだけ見て大丈夫かなって安易に思ってしまった。アンフェアじゃ意味ないだろ!! 絶対次こそ、ちゃんと勝負を!! 拳をぎゅっと握って、もう一度走り出した。 ◇◇◇ 「キョ、キョウヤさん!今回は場所が悪かったんですよ、あんなのキョウヤさんに分が悪すぎじゃないですか!!」 「……。」 ざけんな、負けただと?この俺が? 場所が、条件が、耳障りな周囲の言葉は無視し、抑えきれずに舌打ちをする。 俺がイラついてんのは、そんなことじゃねえんだよ。 「チッ!」 「ひぃ!!」 ふざけやがって。 バトルの始終崩さなかった、あの女の楽しそうなあの顔が頭を過ぎる。初めて玩具を与えられたガキみたいに、光が消えない目。 無性に腹が立った。 "楽しかった"だと? なんで笑ってやがんだ。何がそんなに楽しいんだ。 あんなヘラヘラしたやつに負けたなんて、認めねえ。絶対に認めねえ。 このまま終わらせてたまるか。 「…あの女、探して連れて来い。今すぐだ!!」 「はっ、はい!」 一瞬たりとも笑えないくらい、徹底的にぶっ潰してやる。 ◇◇◇ 「お、ここいいんじゃないか!」 歩きながら見つけた河原。ここなら普通に過ごせそうだ。 そういえば、野宿にもすっかり慣れっこになってしまった。これが良いことなのかどうなのか、イマイチよく分からないけど。 「……にしても、ついに来たんだ」 ずっとずっと来たかったんだ。"この街"に。狙ってるのかってくらいに、強いブレーダーが集まるこの場所に。 キョウヤとベンケイにも会えたことだし、銀河やケンタ、まどかとヒカルに会えるのもそう遠くはないのかもしれない。 楽しみだ、すごく。 キョウヤがまだ首狩団のリーダーをやってるってことは、銀河と竜牙は戦っていないのかもしれない。となると、今までなかなか手に入らなかった暗黒星雲の情報も、手に入る、かも。 河原との境になっている手すりに体を預け、真っ直ぐに空を見つめる。 綺麗に夜の黒に、星の橋ができていた。 そうだ、今度ベンケイともバトってもらおう。そんでもって、B-pitにも行ってみよう。店内ってどうなってるんだろう。 上がりっぱなしの口元がさらに孤を描いていく。 「…、…さ!」 「……!」 風が髪を揺らしたかと思えば、少し先のほうで聞こえた少年の声。 あ、意外にも側にいたみたいだ。少年達が寝転がってるせいか、全然気づかなかった。 「あ…」 その姿を確認したとき、何かが胸に落ちた。 楽しそうに話すその横顔、微かに聞こえる声。間違い、ない。 やっと、会えた。 無意識のうちに足は動き出し、胸が熱い。 きっと今、自分の表情は緩みっぱなしで、まるで子供みたいにキラキラしてるんだろうな、なんてふと思った。 これからどんなことが起るんだろう。 手すりにつかまり、下を覗き込む。目の前の寝転がる二人の姿。 すっと息を吸って、 「こんばんは、何してるの?」 星が、光った。 20100903 ← ×
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