気づいたから 「……んっ」 ここ、どこだ…?自分何して…。 ベッドだと思われるそこから身を起こすと、体に小さく痛みが走った。思わず顔を顰めて視線を落とせば、手や足には綺麗に包帯が巻かれていた。包帯……? 「ッッ!!」 思い出した、そうだ、私洞窟で…!! 「なゆ?!」 周りを見渡すも、そこには誰もいない。そもそも、ここはあの洞窟でもなかった。 「私の部屋…だ」 と言っても、本当のではない。氷魔の家の私の部屋だ。思い出せ。確かあの時、咄嗟になゆを突き飛ばして、ヤバイと思った時にはもう遅くて。まあいいさ、子供を助けられるんなら本望!ヒーローとはそういものさ!名を刻んてくれ、古馬村の英雄のひとりとしてな!!!って厚かましくも覚悟して目を瞑ったら、 「氷…魔が…」 カチャッ、と音を立てる扉。 そこには、先ほど口にした本人がいた。 ……ん、氷魔、固まってる? 「氷 「美羅さん!!」 い"ッッ!!!」 ええ?!ちょちょちょちょ?! 突然氷魔が動き出したかと思えば、私、なんで氷魔のう、腕の中?!ん"??!! つかつかつか… 「良かった…良かった…!」 「…いッ」 「い?」 「痛えええッッッ!!!!!」 外で鳥の羽ばたく音が聞こえた。 「すいません、ついホッとして…」 「いや、気にしないで…大丈夫」 氷魔の腕から抜け出し、今は起き上がる体を支えてもらってる状態だ。 ごめんなさい。私変態だからすごく緊張しました。チキンなんです、はい。ああ、あまりにも急だったから体がギシギシしてる…相当体痛めたようだ。 「怪我人でしたのに…すみません」 「だーかーらー!気にすんなって!実際大丈夫だったわけなんだからさ!」 ニッと笑って見せれば、氷魔も遠慮がちに笑ってみせてくれた。それにホッとして、言葉を続ける。 「ねえ、あの時…どうなったの?」 「え?」 「氷魔が助けてくれたんだろ?」 「…もっと、ちゃんと助けたかったです」 氷魔は視線を私の腕へとずらし、目を伏せた。 あああそんなこと、気にしなくてもいいのに。 「十分助けてもらったよ!本当、ありがとう氷魔」 「いえ、」 「なんか二回目だね、助けられたの」 思い出した事実にそう笑えば、氷魔は一瞬きょとんとするも、小さく笑ってくれた。うん、その笑顔は、好きだ。 「あー…というか、私もごめん。勝手に扉の向こう行っちゃったし、氷魔にも迷惑かけちゃったし…」 氷魔に怪我はなさそうだが、迷惑をかけてしまった。 ……いや、隠してるだけ本当は怪我してるんじゃ?!そう思い、じっと視線を凝らして見るが、意図に気づいたのか「僕は平気です」と一言返されてしまった。とりあえず安心だ。思い出した彼の身体能力から、嘘ではないだろうと十分納得できた。 「迷惑だなんて言わないでくださいよ。僕が好きでやったことなんですから」 「でもさ」 「じゃあお互い様、それでどうです?」 思わず、ぽかんとしてしまった。 なんか、氷魔がそんなこと言うとは思わなかった、というか。そんなしてやったりな表情をされてしまえば、ああコイツ、敵わないなと思わざるを得ない。 だけど今は、何となく嬉しかった。 「ははっ!…そうだな、じゃあお互い様!」 「はい」 お互いに、静かに笑い合った。 いいな、こういうの。 優しいなあと、何に対してでもなく、そう思った。 のも、束の間。 「っあ!!そうだ、なゆは?!」 思わず張り上げた声にまた体がギシッと軋む。い"、た、たッッ…!!! 「ああ、ダメですよそんな!」 「ご、めん…つい」 氷魔曰く、なゆにも大きな怪我はなく、今は隣の部屋で寝ているらしい。…良かった、無事なら、本当に良かった。 どっと力が抜けていくのを感じて、なんとなしに氷魔に目を向ける。すると、そこにあった予想外の表情に、また緊張が走った。 「美羅さん」 「ん?」 「言わせてほしいことがあるんです」 「どした?」 一連の動きに、思わず言葉が出なかった。 「すみませんでした…」 んん"ッッ?! 呆気に取られるを自分を他所に、氷魔は深く頭を下げていた。 ◇◇◇ 「すみませんでした…」 お互い様。だけどどうしても言いたかった。許されることでは、ないろうだろうけど。 「え、え、何のこと?!」 あの時、僕が隠れたりしなければ、美羅さんはこんな怪我をせずに済んだのに。 あの時、早くあの場から離れてれば、こんなことこには。 全部全部、僕の弱さが招いたことだった。 彼女を警戒して、疑って、盗み聞きなんて形で真実に近づこうとして。今なら何かが分かるかもしれないと、欲が出てしまった。 信じたいって言ったのに。 聞きたいことがあるなら、本人に聞けば良かったじゃないか。それができなかったのは、どこかでまだ、彼女を信じ切れていない自分がいたからだ。 「本当にすみませんでしたッ…」 「ちょ、頭上げてよ氷魔!!」 違う、僕は、探りたいわけじゃない。 ただ、知りたいんだ。 「すみませんでしたッッ…」 だから、もう迷わない。 だって僕は、 「てえいやッッ!!」 「かはっ!」 急な痛みに顔を上げれば、そこにあるのはもうご立腹な表情だった。その顔に思わず、ぽかんと視線を返すことしかできなかった。 「…何をそんなに謝ってるのかは知らないけど、それ以上言ったら怒るぞ。私は氷魔がいてくれたから、この程度で済んだ訳だし。感謝してるんだよ?」 怒った顔から一転、どうしたらいいか分からないという表情の彼女は、視線を外してどこか寂しそうに呟いた。 「だから、そんなに一人で責めんなよ」 こんなにも心が、軽くなるなんて。 まるで魔法にでもかかったみたいに、彼女の一言に浮かんだり沈んだり。そうなる原因も、もう分かってしまったから笑ってしまう。しかも自分よりも先に、周りに気づかれてしまうなんて、笑い話もいいところだ。 「はい」 僕は今、自然に笑えているだろうか。目の前の彼女の唇は、とても綺麗に弧を描いていた。 だから、笑顔で言える。 「うん、分かればよっろしー!」 「あはは、…ですけど美羅さん」 「ん?」 「僕のこと許さないでください」 「ん"?!」 「憎まれるのは嫌ですけど、でも、許さないでください」 周りがあれだけ気づいてるのに、多分目の前で目を丸くしてる彼女は、全く気づいていないんだろう。 「どういうことだ?!」 「解釈はお任せします」 別にいい。むしろ、そっちの方がいい。 だから、今はまだいい。 「よく分かんないけど…うん、分かった」 「ありがとうございます」 貴女に許された時、貴女がちゃんと話してくれた時、言うことにしよう。 小さく立てた誓いは、掲げることなく仕舞い込んだ。 ◇◇◇ 遠慮がちに、小さく開かれた扉。 そこから顔を覗かせた少女に、思わず表情がパッと開く。 「おー!なゆ、起きたかかはッッ」 二度目のタックルをくらって、か、体が…!!思わず天井を見上げ言葉を失うと、氷魔が慌ててなゆを離してくれた。(ご、ごめん二人とも…) 「ごめんお姉さん…、アタシのせいで、怪我…」 「別になゆのせいじゃないよ。気にしちゃダメ」 それでも、なゆはどこか納得いかない顔だ。その表情に、思わず苦笑いを溢した。 「それだけじゃない。アタシ、お姉さんにたくさんひどいこと…言った」 その言葉に、森での出来事をふと思い出す。そういえば、そんなこともあった。いやあ、あれは事情も知らずにいろいろと聞いてしまった私が悪かったってのに。 「全然怒ってないよ。私こそごめん、もっと早く見つけてあげたかった。それに…突き飛ばしちゃったし…森でのこともさ…」 「お姉さんは悪くないよ!」 …デジャヴ、って言うんだっけ? そういうことなら、言うことはひとつだ。 「じゃあお互い様!それでどう?」 今度はその言葉を、自分の口から伝えてみた。視界の隅で、氷魔は小さく微笑んでいるのが分かった。 「お互い様?」 「そっ!お互い様」 「…、じゃあ、一緒にありがとうで一緒にごめんなさいってこと?」 「おう!」 お互いに、ありがとう、ごめんなさいと口にする。自分で言ったくせに、妙におかしくてなんだか一緒に笑ってしまった。 ◇◇◇ 「美羅さんが言ってた子って、なゆさんのことだったんですね」 なゆが北斗を探しに部屋を出たところで、ふいに氷魔が口を開く。ベイを嫌いな子がいる、そう氷魔に相談したのは、もういつのことだったか。 「そ。でも、良かった」 「…彼女はもう大丈夫ですね」 「…だな!」 例えダメでも、何回でも支えてあげればいいんだ。 「もう一人じゃないからな!」 なゆの問題が解決したところで、私も聞かなきゃいけないことがある。 「でさ、氷魔」 「はい?」 「教えてほしいんだ」 「何を、ですか?」 「……暗黒星雲」 「?!」 ずっと黙ってたけど、ちゃんと聞きたい。知識としてじゃなく、現実の向き合う問題として、奴らのことは知っておく必要があると思った。それに、復讐とかそんなんじゃないけど…あいつ等は、許せない。個人的に恨みができてしまったから。 「、知って、たんですか?」 「知ってたっつーか…会った」 「え」 「今回のことはさ…」 氷魔に、事の経緯について話した。 森で、竜牙たちがなゆに接触していたこと。何故なゆが、あの地へ足を踏み入れたかということ。 話し終えると、氷魔は小さく「そうですか」と言葉を返してくれた。その表情は、いろんな感情を映している。辛くて当たり前だ、だって直接的なものではなくても、暗黒星雲にいいようにされたのは、これで二回目だ。 少しの沈黙の後、意を決したように氷魔は口を開いて、あの事件について話し始めた。 私が初めて知る、自分で直接知る、古馬村の過去。 話の内容は、私の記憶と変わらず確かに追学習をするようなものだった。だけど、伝わるものは全然違う。物語では語られない、現実。 エルドラゴ、ペガシス、銀河、そして流星さん。バラバラのピースみたいに持っていたものが、やっとひとつの形になった。そんな感じだ。 「だから僕は、奴らが許せない…」 語尾が消えそうになりながら、氷魔は拳を握り締める。 馬鹿みたいだ。 結局私は、何も見えていなかった。 エルドラゴを取り戻し、流星さんが本当は生きていると分かる。それで、全部解決するのだと思っていた。古馬村には、それだけじゃ癒せないもの、もう癒せないものがあるんだ。 「……とにかく、僕達は暗黒星雲を怨んでます。弱さ故に招いた結果の一言で、収めるつもりはないですよ」 一呼吸おいた氷魔は、笑顔だった。もちろん、いつも通りとはいかないくても。 そうだ、私もいつまでも沈んでたって仕様がない。本当に辛いのは古馬村の皆だ。それでも、こんなに強く戦おうとしている。 だったら私も、前を向こう。 「私もだ。あいつ等にはもう一度会って、絶対ぶん殴る」 特に大道寺、なんとなく大道寺。 ぜーーーったいこんな計画を立てたのはアイツだろう。見てろよ絶対その眼鏡かち割ってやるからな…?! 「ええ、一緒に徹底的に潰してやりましょう」 ニッコリと笑みを浮かべた、氷魔。 …あっれー…?…く、黒くない…? そ、そんな可愛く拳作るなよ、怖ええよ目笑ってねえよ!! リアルファイトしたら、氷魔に勝てるやついない。直感だ。(う、わお…) 「奴らに喧嘩を売るなら、それ相当の力が必要だな」 「ただいまー」 突如聞こえた渋い声に顔を向ければ、予想した通り、そこには北斗…… がっ?! 「ぶっ!!あはは!!北斗お前格好良いこと言ってんのになゆに抱っこされてぎゃああああああ」 あれ、これ何度目だろ? あまりのギャップにお腹抱えて笑えば、突然の逆襲くらった。じ、地味に痛え…。 自分下敷きにして着地した北斗は、ふんと鼻を鳴らした。 「北斗、一応怪我人なんですよ!」 「ふん」 「お手」 「わん!」 「ぶっはははは!!ゴホッ」 「…で、どうなんだ?」 「どうって、何が?」 「奴らと戦うためには、力が必要だな。……例えば、伝説のベイの力、とかな」 「!、北斗!」 自分を見上げて睨みつけるその視線は、探るようなそんな感じで。氷魔は氷魔で、北斗になんか怒鳴ってるし。 「北斗、まだそんなこと!」 「どうだ、欲しいか?伝説の力」 なゆも心配そうにこちらを見ていた。なゆが伝説のベイブレードを探していた、というのは北斗には伏せておこう。なんかややこしくなりそうだ。 てか、欲しいか…って、そんなの。 「いらないよ?」 「!……ほう、何故だ?」 「いや、だって普通に考えていらねえだろ。私には…こいつがいるし」 近くの机に置いてあったケアトスに手を伸ばし、ぐっと突き出して見せれば、北斗は目を丸くした。 「今更こいつ以外と戦うとかねーから。嫌だし」 こんなじゃじゃ馬でも、一応私の相棒ですからね!やっぱり、"相棒"と戦ってこそ、楽しいもんだろう。それに勝つことだけが全てじゃないし、と言いかけた口は北斗の表情を見て、動きを止めた。 「……どした?」 ぽかんとした北斗の前で手を振れば、どうやら我に返ったようで、ハッと体を揺らしていた。 …どうしたんだ、北斗のやつ?ばちっと合う視線に、思わず首をかしげる。 「北斗」 笑顔で言う氷魔に続いて、北斗は少しばつが悪そうに視線を外し、それからもう一度こっちを見た。 「悪かったな」 「え?」 「いろいろ、悪かった」 「…どゆこと?」 「…もう言わん、分かったな美羅」 どこか照れくさそうに聞こえたのは気のせいだろうか。 ……ん? あ、あれ、も、もしかして今…は、初めて名前で呼んでくれ…たっ?! 「美羅さん輝いてますね」 「よっぽど嬉しいんだね」 ど、どうしよう…!!う、嬉しい!!! 「ほ、北斗おおおおお!!!い"ッッ」 「「「?!」」」 何度目かの痛みは、抱きつこうした自分の体の軋みだった。わ、忘れてた…怪我人だ自分…折角のチャンスだったのに…!! 「ふ、ははっ」 「!!、」 でも、北斗も笑ってくれたし、結果オーライっつーことで!! だけど、 「やっぱり北斗萌ええええ!!!ガッ」 「「「!!??」」」 なんだか、幸せだ。すごく嬉しい。 この気持ちはそのまま、夢まで続きそうな気がした。 「すかー…」 「美羅さんっ?!」 「…にやけてるね」 「…にやけてるな」 20100731 ← ×
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