龍の囁き 昔から、ヒーローっていうものが大好きだった。恋をした…っていうのとはどこか違う。今思えば笑える話だけど、憧れてたんだと思う。 あんな風に、強く強く、 「…あ、ついに降り出したか」 頬に当たる冷たいものに気づいて空を見上げれば、下へと降り注ぐ雨。心なしか風も冷たくなってきた。 随分と森の奥まで行ってしまったみたいで、なゆの姿が一向に見当たらない。 そういえば、他の子供たちは大丈夫だろうか。一瞬不安になったが、皆山育ちで天候には気をつけてているだろうと思い、頭を振った。 天気も随分と意地悪なもんだ。何もこんな時に降り出さなくてもいいのに!! 軽く空を睨めば、なんとなく腰のケースが反応を示した、ような気がした。正確には、その中のケアトスが。 おいおい…え、 「……まさか、雨だから喜んでるわけじゃないよね?」 足を動かしたまま視線を移せば、何だかものすごくケアトスにばっきゃーろー!!って言われた気がする。お前何キャラだ。 不思議に思って、ケアトスを手のひらに乗せた、途端。 「……え」 ふいに、胸を通り過ぎた何か。 あまりにも自然と入り込んできたそれに、思わず顔を顰める。 え…なんだこれ…? 不安、心配、恐怖? 違う、そうじゃなくて何ていうか…。 ピタッと足を止めれば、髪から零れた滴がケアトスに弾いた。何か嫌だ、この感じ…嫌な予感がするっていうのか。 妙な焦燥感に駆られ、足が早くなる。とにかく、早くなゆを見つけよう!! 雨はまだ、止みそうもない。 ◇◇◇ なゆなゆなゆー!!! なんだろう、この嫌な感じは。転びそうになるのを耐えながら、一歩一歩足を進めた。 その度に、ケアトスが何かを伝えるようとしているのが分かった。その何かに気づけない、いや…気づいてはいけないようなそんな気が……、足が重い。 急げ、行くな。そんな矛盾に飲まれた心情になるべく気づかないように前を見据えれば、雨音と混じって聞こえた微かな声。 良かった、見つかった。 少しづつ近づく背中に、自然と笑顔になった。 けど、 「……なっ…」 そこで声は止まった。 「……誰だ貴様」 一気に、音が消えた。 雨音も風音も聞こえるのに、記憶に留まらない。 目の前のことで、頭がいっぱいだ。 え、嘘だろ、なんで……? 「!、お姉さん?」 ただ胸を貫くのは、どうしようもない驚きと困惑。 言葉なんて、出やしない。 何でここに、こいつがいるんだ。 黒き龍と出会った。 20100711 ← ×
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