朝露の行方 なに泣いてるのと問えば、泣いてませんよだなんて傾く首。その頭に手を乗せれば、その軽い衝撃を拍子に透明な何かが零れ落ちた。言わずもがな彼女の波打つ瞳から。泣いてたんじゃない、やっぱり。本人不思議がって顔を触り始めたりするものだから、なんだか馬鹿みたいで笑ってしまった。そういや、今だ波打つ瞳と一緒で、アンタいつも船漕いでるみたいにふわふわ(…ふらふら?)してたな。「…海とか好き?」「え?まぁ、好きですよ」あぁ、そしたらその目はそういう作りなんだな。ステータス。 「アカギさんのこと見てると、なんだかこう、自然と溢れてくるんですよ」 「相変わらず訳分かんないこと言ってんな、アンタ」 怖がってる訳じゃないらしい。当たり前だ。そんなんだったら、こいつは俺の部屋の酒を無断で飲んだりはしないだろう。 ちょこちょこと俺の半歩後ろを歩くその足は、既に俺の歩数の倍は歩いてるんじゃないのかと疑いたくなる。前回は四倍だったかと思いめぐらすが、考えるほど六倍にも十倍にも思えてきた。ぎゃん!なんてよく分からない悲鳴に振り向けば、どうしたらそうなると疑いたくなるような格好で地面に転がってるし。手を差し出すと、赤くなった鼻を摩りながらおずおずと立ち上がる。 「…鼻血出てるよ」 「うそっ!?」 「嘘」 何度も来る背中への衝撃なんて痛くもないが、その細い腕を掴むとこいつは悔しそうに顔を歪めた。かと思えば、足を進めた俺にあの店は美味しいだのあの服は可愛いだの、一定の間合いを空けて伝えてくる。確かに、そう言って彼女に連れられて行った店に外れはなかったように思う。というより、服の感想なんて俺に聞いたところで分かりもしないくせに。 「アカギさん」 「なに?」 「私、アカギさんといると楽しいんですよねぇ」 その笑顔は不覚にも綺麗だと思った。 いつかは俺も気づくんだろうね。 (アンタはきっと) (最後まで俺の側にいるんだろうと) (平行線では、) (決してなかったのだと) 20120211 ← ×
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