かくれんぼ ※アニメ本編前


「美羅お姉ちゃんって、どんな人がタイプなの?」


子供特有のきらきらとした瞳を向けられ、その唐突な話題に思わずへ?と間抜けな声を出してしまった。
偶にはベイじゃなくてのんびりお喋りでもしよう、という女の子のお誘いにより、こうして談笑していたわけだが。なるほど、どの歳でも女の子はこの手の話が大好きなようだ。気がつくと、私も気になるー!なんてどんどん周りが便乗していくし。おおうっ、子供パワー恐るべしっ…!


「好みのタイプかあ…」
「何々、なんの話?」
「あ、ダメだよ!だんしきんせいだよ!」
「え、だんしきんせい…?」


男の子と女の子の間で騒がしくなってくると、その流れを断ち切るように、それでそれで!と答えを求められた。
うーん、考えれば考えるほど、よく分かんなくなっていくな。だんだんと傾いていく体に、皆もだんだんとつられていく。


「そうだな」
「うんうん」
「やっぱ、頼りに、なる人、とか…?」
「…普通だね」


でもやっぱりそうだよねー。強くて格好良い人がいい!銀河さんって格好良いよね。あ、分かるー!という、白熱する女の子トークに男の子の目が点になっているので、そろそろ止めなくてはと声をかけようとした時、背後から別の声が代わりにそれを果たしてくれた。かかった影に上を仰ぎ見ると、そこにはやっぱりな人物だった。



「おー氷魔、どしたー?」
「いえ、何だか楽しそうでしたから。なんの話をしてたんですか?」
「お姉ちゃんの好きな人だよー!」
「え?」
「おいおい…」
「頼りになる人が好きなんだって!」


ねー!と楽しげに頷き合うこの子達は、なんて可愛いんだか…!じゃなくて、在り来りな答えしか思い浮かばなかった自分には、そんなに話を広げられると少し恥ずかしいものがある。尚且つ、確実にネタにするであろう人物が背後にいるではないか。ほら、なんかしっかり相槌打ってるし。


「んでんで、氷魔さんやそれは?」
「ああ、山菜でも取りに行こうかと思いまして。一緒に行きますか?」


よし、上手く話は逸らせたようだ。氷魔の手にある籠から察してはいたが、そうだな、久々についてくのもいいかもしれない。


「うん。じゃあ行こうか「お姉さん奪取!!」ほっ?!」


唐突に引かれた腕に、そのまま体がぐんぐんと氷魔から離れていく。もつれそうになる足を必死に動かし振り向くと、帰りは遅くなりますからーと氷魔が小さく手を振っていた。



そんないつも通りの、お昼過ぎの話。



◇◇◇







「…で、こうなったと」


見渡す限りの緑には、少しずつ橙が重なっている。どちらに歩けばいいのかも分からず、丁度良い具合にある切り株へと腰を下ろした。まあ、所謂迷子というやつだ。こういう時は、動かない方がいいとよく聞くしそうしよう。それに、フルで使っていた喉を少し休めたい。


あの後、森に入った私たちはかくれんぼをすることになった。範囲はどこまで?じゃああの辺りで!うん、あの辺りね!という声と共に散り散りに分かれていく。


「どの辺りだよ」


ビシィッ、っと。
こっちは見つかりにくいよ、という言葉と共に腕を引かれ、途中で別れたわけだが。…奥まで来すぎたかな。
まいった…。お昼ちょい過ぎくらいに始めたのに、もうほとんど夕方だ。多分誰かが気づいてくれただろうけど、果たしてここが分かるかどうか。暫く皆のことを呼んでみたが、残念ながら返事はなかった。
そもそも、こんな時間になってからじゃ子供達も森には入れないだろう。


……氷魔、は無理か。遅くなるって言ってたし。
となると、頼みの綱は北斗だ。

ああ、本当ダメだな自分!!
膝に顔を埋めると、調度良い具合にお腹への違和感だ。うーん、綺麗に鳴ってる。……お腹空いたな。
夕暮れに染まる景色と静寂の空間は、ハラハラとして何だか落ち着かない。このまま日が暮れちゃったりしたら……いや!それはない!そんなことはない…はず!歩いた距離から考えても、そんな遠くまでは来ていないはずだ。


「……。」

「……。」


バサバサッ!!!


「はーいすみませんッッ!!!!!」



吃驚したっ…。なんだよ鳥かよ吃驚せんなよ吃驚したよ吃驚しました。煩いほど跳ねている心臓を抑え、取り合えず落ち着くべく深呼吸をした。ホラーは苦手だ。いや、今は決してホラーという状況ではないのだけれど、その、やっぱりね。
まずいな、結構、怖い、かも。

やっぱ歩こうか、と考えてみるが道が分からない以上下手に動いちゃ逆効果だ。少しは気が紛れるかもしれないけど、流石にこれ以上自分で状況を悪化させたくはない。


考えたら、こんな風になるの初めてだった。森に行くときは、ほとんど誰かと一緒だったし。自分一人の時は、通ったことのある道しか通らなかったし。

…寂しいもんだな。

思わずぼおっとそんなことを考えていると、上空からの鳥の鳴き声に、また大きく肩が跳ねた。


「……。」


そ、そそっそそそ、そうだっ…!の、狼煙!道に迷ったときは狼煙だよ王道だよ!ああでも火っ…、い、石!確か石擦ると煙がっ…!

手頃な石を探そうと腰を上げる。

すると、にゅっと伸びた何かが、

肩に、


「ぎゃあああああーーーッッ!!」
「うわっっ!?」













「いや、本当、申し訳ない」
「いいですよ、別に」


一歩前を歩く氷魔の後ろに続き、何度目か分からない言葉を口にする。まあ、よくある展開だったわけだ。でも本当に良かった、本当安心したッ…。


「森で迷子だなんて、本当美羅さんはやってくれますね」
「いや、本当、申し訳ない…」


表情は見えないが、恐らく笑みを浮かべているだろう氷魔の声色に、小さく頭を下げた。

「そういえばさ、よく分かったな。ここだって」
「簡単でしたよ」
「え?」
「皆さんからどこで別れたのかを聞いて、その後貴女がどんな風に進んでいくのか考えれば簡単です」
「……。」
「大方、上りやすそうな木でも探してたんじゃないですか?」
「ご、ご名答…」


正しくその通りだった。そんな風に木を追ってるうちに、気づいたら奥まで来てしまっていたようで。子供のかくれんぼはガチなんだよ。木の上って意外と見つかりにくいと思っちゃったんだよ。

流石氷魔と言うべきか、なんというか。本当頭の回る奴だ。嬉しさ半分、思わず苦笑いを浮かべると目の前の表情がちらりと振り向いた。



「僕も結構、頼りになるでしょう?」



夕日と混ざり合い、そう笑った姿。
その姿が泥だらけだったことに気づいたのは、家に帰り布団に入ろうとした時だった。



20121003








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