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「そうだよね」


紡いだ唇が、にんまりと弧を描く。一体どんな状況だよと思いつつも、俺を見下ろす水野の視線にひどく苛立ちが募った。なんだよ、これは一体なんだよ。どんな状況に自分が置かれているのか、さっぱり分からない。地面に座り込んだ俺に、あの無表情が微笑みかける。


「分かるよ。宇海のこと」


蔑むような、慈しむような、そんな風に細められた目が俺を映した。普段のそれよりも感情の読み取りやすい言葉、ひとつの感情を映した瞳。アイツらしくない、気持ち悪い。アイツらしくないと思うのに、その人物を、俺は水野コウだと確かに捉えていた。だって、今まで出会った誰よりも、アイツは、俺に。


「宇海は、寂しがり屋なんだよね」


乾いた音が響いた。差し出された手を、反射的に叩き払いのけた。
ぱちりと開いた目は、俺ではなくアイツの目。叩かれた自分の手を見つめ、残念そうに後ろへと引っ込める。


「そんなんじゃ、宇海は」


いつまでたってもひとりだよ。










「勘弁してくれよ…」


せめて夢の中でくらい、自由にさせてくれ。
カーテンの隙間から漏れる光を、ひどく待ち望んでいたように感じた。



◇◇◇




その呼び声は、最近になって聞きなれたものになった。


「宇海、宇海」


零の背中を追いかけるコウのあんな姿、誰が想像しただろうか。なんの遊びかと思ったが、決して楽しそうではない雰囲気からなんとなく状況を察した。あれだな、多分からかってるんだな、コウのこと。


「カイジさんって、本当考えなし。というより、馬鹿だよね」
「お前そればっかり…」


アカギと共に廊下を覗き込み、それこそひよこの様に零を追いかけるコウの姿を眺める。いや、ひよこなんて可愛らしいものに例えたのはやりすぎたかもしれない。あんな無表情に近い顔で追いかけられたら、俺だって逃げたくなる。


「珍しいよね」
「何が」
「コウが、あんな風に誰かに執着するなんて」
「そうか?執着ってのは言いすぎな気もするけど」


まあ、言われれば確かに珍しいことなのかもしれない。普段はだるーっとしてるアイツが、あんなにてきぱきと零を追いかけている。どんな理由があるかは知らねえけど、まあ、良い傾向なのかもしれない。
ついでに言うと、珍しいのは隣に並ぶこいつもそうだ。普段より饒舌なのは、俺と同じことを思ってなのかどうなのか。


「本当、あの2人何してんだろうな」
「さあね」
「つか、アイツ等そんな仲良かったか…?」
「さあね。でも」
「あ?」
「ちょっと羨ましい」




「「……。」」




「…お前でもそういうこと言うんだな」
「なに?」


本当、俺の周りはよく分かんねえ奴ばっかりだ。






20120113








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