季節は動き、暑さを痛感し始める今日この頃。衣替えが完了した校内では、去年以来の半袖が景色を埋めていた。
中間テストも終わって、漸くあの独特の雰囲気から普段の生活に戻るものだと思っていたけど、どうやらそうもいかないらしい。

再来週には、体育祭が迫っていた。



「コウ、どれが可愛いと思う!」
「…白。ああでも、美心に似合うのはこの…青のやつかな」
「本当!?悩んじゃうなあ」


机に突っ伏していた顔を上げると、目の前に出された雑誌には水着の数々。もうそんな時期か、通りで暑いわけだ。席替えで得た窓際の特権を活かし、吹き込んでくる風を顔面から受け止めた。楽しそうに雑誌と向かい合う美心は、カイジの隣になれたようで。幸せそうでなによりだ。


「…俺はこっちの方がいいと思う」
「…ナチュラルに混ざる会話じゃないよ、アカギ」
「ねぇ、カイジさんは?」
「お、俺に聞くかそういうの!?」
「カイジ君は!どれどれ!」
「べっ、別にどれがいいとか…」
「「女々しい」」
「ぐっ…!…ま、まぁあれじゃねえの…、あんまり派手じゃないやつっつーか…」
「えー!じゃあやっぱり、この青にしようかな」
「じゃあ、カイジさんは選んだ責任とって夏の予定は決まりだね」
「うん、そうだね。それがいいよ」
「なっ!?」
「きゃー!カイジ君、嬉しい、ぞ!」
「くっつくなっ!なんでそうなる…!?」
「女性に水着選んどいて、見てあげないなんて、ねえ」
「ねえ」
「何が『ねえ』、だお前らっ…!」


同じように二人で机に突っ伏し話を流していると、徐々にカイジがぐずり始めたがまあいいだろう。アカギも私も、暑さには弱い生物なのだ。


「溶ける…」
「まあ、今日は特にな…。体育祭ん時もこんなんかよ…」
「カイジさんがボールとじゃれてるなんてね。フフ…似合わない」
「お前ほどじゃねえよ」
「コウは何に出るの?」
「ドッヂボール」
「「似合わなっ…」」
「……。」


まぁ確かに運動は得意じゃない。体育祭も別に楽しみにしているわけではない、が。…そこまで声を揃えられると微妙だ。

じっと視線だけで訴えようとしたところで、頭に何か重みがのしかかった。ぐしゃぐしゃと髪を乱すそれは、撫でるというには強すぎるような気がする。


「アカギさんアカギさん、髪抜けちゃうよ」
「お前に俊敏な動きとか想像できないな。つか無理だろ」
「失礼な。それなりに頑張るさ」
「コウはいつも通りふらふらしてれば、意外と全部よけれちゃうんじゃない?」
「アカギ…」


未だ頭上にあるアカギの手を退かし今度こそそちらを見て、思わずぱちりと目を開いた。意外な人物の登場に目を離せないでいると、宇海も気づいたのか小さく目を見開く。もちろん、すぐに視線は外されたが。
会話もそこそこに、誰かと話し終えた宇海はそのまま教室から出て行ってしまった。

なんだろう、用事かな。
この暑いのに、相変わらずキラキラしてたなぁ。


季節が変わろうとも変化のない彼の笑顔は、いつまで経っても妙な違和感を抱いている。と言っても、彼のあの一面を知らなかったら、やっぱり私もあれが普通だと思っていたんだろうか。


きっと体育祭でも、宇海は大活躍なんだろう。それでもって、きっと勝っても負けても笑顔なんだろう。
皆が楽しみにしているように、宇海にとっても楽しい行事なんだろうか。あの仮面がずれる程度には、本気になれるのだろうか。


「……。」


私に負けたら、宇海は悔しがってくれるだろうか。


「よし、体育祭頑張るぞ」
「おおっ、突然やる気になったな」
「物事は常に突然だよ。ラブストーリーもだよ」
「だってさカイジさん」
「そうだぞ、カ・イ・ジ・君!」
「だからなんで俺に振るんだっ…!」


あの仮面を取ってみたい。そんな思いで口にしたが、男女は別々の種目であることに気づいたのは家に帰ってからだった。




20120520








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