永遠の体現



私達の関係を一言でいうならば、幼馴染である。
古馬村という小さな村で家族同然のように暮らし、それこそ同じ目線で、同じ景色を見て、同じものを愛して、嫌って。私にとってはまるでひとつの心を共有しているような、そんな感覚だった。

だからこそ、言い過ぎかもしれないけれど何でも分かっている気がしてたんだ。しかし、それはどうやら違ったらしい。銀河が村から飛び出し、少しだけ月日が流れた今。顔つきなんて別に変わってはいないけれど、心はちょっと違ったらしい。

相変わらず男女の垣根すら感じない距離感。それ故に、銀河とこういった話題で盛り上がることだって、特に疑問には思わなかった。



俺、まどかのこと、好きなのかもしれない。



数秒の間。照れくさそうに告げられた言葉に、ヒュウと口笛を鳴らしてしまったことは少しだけ反省している。いや、だって吃驚したんだよ、本当に。


そっか、銀河が、そっかー。
当の本人は、既にケンタ達とのバトルに夢中である。先ほどまでの恋する少年わたわたモードは鳴りを潜め、ベイパーク内で楽し気に笑う姿はいつも通りだ。その姿を視界に収め、思わずうんうんと頷く。吃驚はしたけれど、まあ、不思議ではないというか。でも、吃驚の方が気持ち的には勝っている。その理由は分からないけれど。


(銀河も恋とかするんだなあ)


幼馴染の急な告白は、何かを残した。
それが何か分からず、分かっていいのかも分からず。とても純な何かを受け取った様な気がするのに、突然爆弾にも変わりそうな何か。

何とも形容しにくい感情に天を仰ぐと、腰かけたベンチの後方から音が響いた。振り向くと、微妙な顔をしたキョウヤがいた。柱の死角で見えなかったけれど、意外と傍にいたのかもしれない。その表情を見るに、先ほどまでの会話は多分聞かれてしまったんだろう。


「やだキョウヤ聞いてたの?悪趣味」
「お前等の声がデカすぎんだよ」
「そうかも」


あはは、と笑ってみせるも、キョウヤの表情が変わることはなかった。皆のバトルにも混ざらずこんな隅の方にいたのは、もしかして寝ていたんだろうか。それは申し訳ない。寝てた?と聞くと、起きたと返ってきたので、やっぱり寝てたんだろう。ごめんごめん。


それにしても、まさかキョウヤに聞かれてしまうとは。
あちゃーと思ったが、それで揶揄ったりするようなタイプではないし、実は特に問題ないのかもしれない。……これが遊だったりしたら大変だった。内緒話を受け取った責任として、一応「内緒だよ」とは伝えておく。返事は曖昧だ。


起きたのなら、キョウヤもバトルに参戦するだろう。君の宿命のライバルならあそこにいるよ。喧騒の中心にいる銀河へ視線を向けてから、もう一度キョウヤへと振り向く。しかし、キョウヤは一向に動こうとしない。そこにはまだ、微妙な表情が残っていた。


「大丈夫なのか」
「え、何が?」


それは、どういう意味?
特に、今大丈夫じゃなくなる理由がない。数秒の無言の後、盛大に首を傾げて見せると、それに負けない盛大な舌打ちが返ってきた。あんまりである。


「お前、アイツに惚れてんじゃねえのかよ」
「………えー…?」


それは、どうなんだろう。



銀河が大切な存在であることは間違いない。だけど、悲しさの欠片も見せないこの感情に、恋と名前をつけるのは少し無理があるような気がする。


でも、そっか。
私そういう風に見えてたのか。



(あ、)



と、思った瞬間。

小さな気づきと、唐突に澄んだ視界。
ぱちりと開いた目で、キョウヤと視線が合った。









私達のいた世界は、きっと本当に小さなもの。それを窮屈に思わなかったのは、全てがそこに揃っていたからなのかもしれない。君の戦いに着いていき、少しだけ広がった世界でもそれは変わらない。


小さな世界の、当たり前の未来。
当たり前のふりをした未来。


友情とか、好きとか、愛とか、きっとそういう言葉じゃない。そういう意味や理由があったわけじゃない。だって約束もなければ、別に望んでいたわけでもないし。

そうなるんだと、そういうものなんだと疑問にも思わなかった。だから悲しくはない。驚いただけなの本当に。
でも、きっとこれは喪失感なんだろう。ううん、少し訂正。小さな世界、本当は初めからそんなものなかったのかもしれない。
甘さを持たない言葉は、少しだけ綺麗な光をみせた。


私、君と結婚するんだと思ってた。



20200131


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