空に輝く一番星。少しの休憩のつもりで立ち止まったのだが、チョアーッ!とすっかり修行モードに入ってしまった左京君を横目に、丁度いい切り株に腰掛けた。もう暗くなってしまったし、今日はここで野宿をするしかないだろう。むやみに暗い森を進むのは危険だ。鷹ノ助君も同じ考えに至ったのか、薪になりそうなもの取ってきますね、と立ち上がった。手伝うか。
「カノンさんって、なんで左京さんとの結婚嫌なんですか?」
「いや、そりゃあね…」
「今となっては別ですけど、王位継承者と婚約だなんて昔だったら羨望の的ですよきっと」
「じゃあ鷹ノ助君が左京君と結婚する?」
「…おっそろしいこと言いますね」
口元を引き攣らせる鷹ノ助君。ほらみろー、やっぱり鷹ノ助君も嫌なんじゃないかー。
「別に、左京君のことが嫌いなわけじゃないんだよ」
「じゃあ、なんでです?」
「…普通が良かったの。普通が」
そう、別に左京君のことが嫌いなわけではないのだ。好きでもないけれど。私は只、普通の恋愛がしたかったんだ。その人を知って、だんだんと意識し始めて、話すのもなんだか照れくさくて、話ができたらその日は一日ハッピーで…みたいな、そんな当たり前の恋愛をしてみたかった。
戻ってみると、左京君はまだ修行モードだった。疲れたら止めるだろうから、声はかけなくていいや。集めた木の枝をひとつにまとめ、鷹ノ助君と火をつける。周りがほんのりと明るくなった。その暖かさに手を当てていると、鷹ノ助君が再び話を戻した。
「左京さんとだって、普通の恋愛できるじゃないですか」
「…できると思う?」
チョアーッ!
「「……。」」
「で、できますよ」
「目を合わせてよ鷹ノ助君」
そりゃ、自分の願うこと全てが叶うとは思わないよ。だけど、この仕打ちはあんまりだと思うんだ。なんのドッキリよ本当に。挙句、いつの間にかこの旅にも同行しちゃってるし。竜の一族とか、先人たちの願いとか、許嫁とか。ほんと、あんまりだよ、唐突だよ。
「まあでも、カノンさんがそのことを知ったのって、数年前ですもんね」
「鷹ノ助君は昔から知ってたの?」
「まあ、それなりに小さい頃には」
「そっか」
「急にそんなこと言われたら、確かに今までの生活一変しますよね」
「はは…」
「…カノンさん、左京さんに出会う前に好きな人とかいたんですか?」
「そりゃあ…」
……ん?
「初恋もまだだった私…!」
「良かったじゃないですか」
なんと、初恋もまだでしたか私。吃驚だ。
いや、だからといって何かあるわけじゃないけどね!とにかく私は嫌なんだ、もっと普通に恋愛がしたかったんだ!似合わないと言われようと、ロマンチックな恋に憧れているんだ!何が悪い!
頬杖をついて俯くと、正面の鷹ノ助君のとは別の影が視界に入り込んだ。
「カノン、特訓に付き合え」
「え、今から?疲れたからパス」
まだ続けるのか君っ…!
左京君のなんにでもひたむきな姿には感心しているけれど、私まで付き合うというのは別の話。ふむ、と何かを考え出した左京君から視線を外そうと、すると。
「…俺に負けるのが怖いのか?」
「わー!左京さん格好良いー!」
ぱちぱちと拍手する鷹ノ助君の横で、相変わらず左京君はビシィッとポーズを取っている。なるほど、なるほど…。ぴくりと、口元が引き攣った。
「……どこでそんな安い挑発覚えてきたか知らないけど、叩き潰してあげるから表に出なさい」
「あはは、カノンさんもう外ですよー」
「俺が勝ったら今日は湯豆腐にしろ」
「変なポーズ取るな、無理言うな、絶対勝つ」
「(カノンさんは否定するけど、あの人も立派に竜の一族なんだよなー。普段冷めてても実はかなり好戦的なところとか。左京さんが一度も勝てないのも、やっぱり純粋な血故なのかな。ベイは趣味程度にしかやらないって言ってたし)」
今日の夕食は、僕の取ってきた焼き魚になりました。
20120322