「左京君、ちょっと」
「なんだ、カノン」
「そっち逆だから。このままじゃ公演間に合わないよ」
「ムッ、そうか。急がなくてはいけないな」
「くるくるしないで。急いで」
両手を真っ直ぐ上へ伸ばし、くるくるーと回りながら不思議移動をする左京君にはもう慣れっこだ。慣れてしまったことに、多少認めたくない気持ちはある、が。まあ、くるくるしつつも前進はしているのだから、文句を言うわけにもいかないだろう。一歩前のくるくるーを見つめ、思わず溜息を零してしまった。
「そういえば、左京さんはカノンさんのこと呼び捨てですけど、カノンさんは君付けですよね」
「ん。まあ、そうだね」
「やっぱりあれですか、呼び捨ては恥ずかしい感じですか?」
「え?」
「いひゃれすーごへんなひゃいー」
引っ張っていた頬から手を離すと、ひーと言いながら鷹ノ助君は両手で頬を抑えた。…相変わらずのふにふにだ。しかし、慣れてるいるせいか意外と回復の早い鷹ノ助君が、左京君には聞こえないよう「それで、なんでですか?」と聞いてくる。…こうなると、鷹ノ助君は答えを聞くまで折れないからなあ。合わせないよう努めていた視線をちらりと向けると、確信犯なのかもうニコニコ顔だ。
「…呼び捨てだと、なんか距離近いじゃん」
「いいじゃないですか。許嫁なんだし」
「え?」
「ごへんなひゃい」
「…暗闇君は、言いづらい」
「ああ、確かに」
「あと…」
「はい?」
「…左京さん、は」
「はい」
「新婚みたいでやだ」
「…カノンさんもいろいろ考えてるんですね」
20120226