出会いと始まり


「許嫁…?」
「らしいな」


この言葉りに辿り着くまでに、かくかくしかじかいろいろありました。

そう、それは小一時間前。偶には美味しいものでも食べに行きましょうか!、なんて両親の言葉に釣られ辿り着いたのは、なんだか高級そうな和食店。なるほど、ちゃんとした服装にしろといったのはそういうことか。

綺麗な店内を軽く見回しながら案内されたのは個室で、おおうっどうしたんだ今日は一体…只事じゃないぞ…!と怪しげに両親を見ると、その表情はどこか輝いていてさらに頭を混乱させる。どういうことだ一体。

それから数分もしないうちに、個室へと入ってくる三人のお客様。夫婦と思われるおばさんとおじさん。そして、同い年くらいであろう男の子。嬉しそうに挨拶を交わす母さんと父さんの様子から、彼等が親しい間柄であることは分かった。目が合った男の子に小さく頭を下げると、相手も似たような反応だった。どうやら彼も、状況を理解していないとみた。


そんなこんなで会話も進み、母さん達とおばさん達は友人であり、男の子の名前は暗闇左京君ということを知った。なにそれ格好良い。そして、あまりに唐突にこの食事会の意味を聞かされることになる。


「カノン、お前はな、いや、俺達は竜の一族の生き残りなんだ」
「パニック」
「そして彼、左京君の家系は王の血筋を受け継いでいるのよ」


おーけー。理解した。まとめよう。
つまり、私達、そして左京君の家族は皆竜の一族というやつらしい(後に知ったが、左京君のお母さんは普通の人だったそうだ)。昔はそれなりにいた竜の一族は、過酷な環境から人数が減り今では一族がばらばらになってしまったと。そして、偶然にもこうして一族の者同士が巡り合えたわけだ。さらに左京君はなんとその王様候補。私たち家族は、奇跡的にも外の血が混じっていない純粋な竜の一族であるらしい。

まあ、そのなんだ。

この再会は運命だと。これ以上、竜の血を薄めてはいけないと。それが先人たちの願いである、と。




そして、現在に至ると。




「パニックッ!」
「二度目だな」
「ちょっと待ってよ、何それおかしいじゃん!今更なんなの、そんなの全然知らなかったよ?!それで急に許嫁?!馬鹿か!アンタら馬鹿だろ!世の中そんなノリでわたっていけないかんね?!」
「だってまさか再会できるとはねー」
「吃驚だよなー」
「ねー」
「うふふー」
「嬉しそうな顔しないで話聞いて!」


駄目だ、周りに花を飛ばしている大人組にはもう何を言っても無駄だろう。こうなったら味方につけるべきは暗闇君しかいない。


「彼女はさっきから何故腹を立てているんだ?」
「君もか!話聞いてたか!私と君、このままじゃ結婚しなくちゃいけないってことだよ!」
「それは…大変だな」
「呑気にお茶飲んでる場合?!なんで君はそんなに冷静なの?!」
「お前が騒がしいだけじゃないか?」
「ハッ、なによ格好つけちゃってさ」
「なんだと?」
「自分はどうでもいいって感じだね、クール気取りですか?格好良いとか思ってんですか?」
「騒ぎ散らすだけの女に言われたくはないな」
「どういうつもりか知らないけど、私だって言われるままに従ってるような軟弱男に言われたくないね」
「なんだと…?」
「なによ」
「あらーすっかり仲良しね」
「「仲良くない」」
「息もぴったり。どうやら心配はなさそうだな」
「……。」
「……。」
「…アンタのこと、好きになれそうにないわ」
「奇遇だな、俺もだ」








そんな風に怒鳴り散らした時が私にもありました。如何せん当時は子供でした。きっともう少し大きくなれば、なんとか両親も目を覚まし、竜の一族だなんてRPGもどきな肩書きも忘れられると思っていました。


「……。」
「朝だ、行くぞ」
「おはようございます。カノンさん、行きますよー」
「あぁ…うん」



母さん、父さん、元気ですか。どうしましょう、あれから数年が経ちました。




20120222







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