瞬間ドラマチック


離して!、と言葉にしたかった音声は見事に形を成さず、私の口を塞ぐ彼の手によってもごもごと響くだけだった。
触れ合う肩と背中に回された腕から熱が伝わってきて、頭から蒸気でも出てしまいそうだ。彼が何かに気づいて手に力を込める度、その長い指ひとつひとつの感覚が分かってしまう。


このままじゃ爆発してしまう!そう思って捩った体は逆効果で、馬鹿じっとしてろ!の一言に押さえつけられてしまった。
乱れた彼の息が近距離で鼓膜を揺らし、ああもう駄目、失神しそう。キョウヤ、早く気づいて。私もういろいろと限界ですよ。


「もがが!」
「んだようるせえな!」
「キョウヤ何私まで引っ張って来てんの!?」
「ああ?そうでもしねぇと、お前すぐに俺の居場所言っちまうだろうが!」
「だからって!」


ベンケイから逃げるのに、ここまで付き合わせないでよ!と言いかけた口は、外から聞こえた呼び掛けの声にぴたりと止まる。お互いに身を固くし息を潜め、倉庫内のコンテナに体をくっ付けた。



「キョウヤさーん、いるんですかー?」


近づいた足音に妙な焦りが沸き起こるも、ベンケイの足音は徐々に遠ざかっていった。もう大丈夫だろうかと頭だけを物影から出せば、何度目かも分からない馬鹿!に強く腕を引かれて、先ほど同様彼の腕の中に身を収めていた。


「ちょ!むぐっ!」
「はっ、誰が捕まるかよ」


途端に上がる熱に、いいから早く気がつきなさい!
なんでアンタそんなに楽しそうに笑ってんの!




20120120








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