last endless 「僕のことどう思う?」 鳴り響く雨音に混じり、そんな言葉が聞こえてきた。ぽつりぽつりと互いに言葉を零してはいたが、今までのどの呟きよりも凛とした声だったように思い、無限に続く透明な線から視線をずらし隣に並ぶ水地の顔を見た。 正直、濡れた前髪のせいで水地の目はあまり見えないが、多分こちらを見ているのだろう。答えを口にするべく続く沈黙の中で首を傾げると、垂れた髪から水が滴った。 「好きだよ?」 また襲ってきた沈黙。しかし、それは数秒後の水地の溜息によって終わりを告げた。気だるげに丸まった背中が、肩を落としたことによってさらに沈む。あれ、何かおかしなことを言ったかな。鼓膜を打つ雨音を聞き、そんなことを考えた。「そういうことじゃない」ああ、そうだったの。それはごめんね。 「…名前は、変わってるよね」 「水地には負けるよ」 「ハッ。馬鹿だね」 「馬鹿同士仲良くしようよ」 じろっ、とした視線がくる。怖い怖い。 まあでも、現に今の私たちは馬鹿の極みではないかと思う。元々身寄りがなかった私たちは、暗黒星雲が解散されたと同時に行く当てがなくなってしまった。するとどうだ、不死鳥のふぇにっく?だったか、WBBAの方々が手を差し伸べてくれた。なのに馬鹿だよなぁ、なんで蹴っちゃったんだろう。隣の彼も同類だ。馬鹿二人。そんなわけで、どういう巡り合わせか、あの日から二人で行動を共にするようになり数日が経っていた。 飛び出してきたはいいが、当然行く場所もない。だから、こうして降られた雨を店先の屋根(…以前翼くんに教わったらオーニングというらしい)で凌いでいる。ああ、静かだなぁ。 「竜牙様の天下は、ずっと続くと思ってたのになー」 「急になに、思い出話?」 「違うよ。ただ、世の中分からないもんだなって」 「アイツが最強だって思ってんだ」 「まさか。ただ、なんとなくこう、王って響きが板についてたというか」 「ふーん」 あ、そもそも竜牙様天下取ってないよ。と今更気付いたが、訂正したところで馬鹿にされるのは目に見えているので何も言わないでおこう。 さて、これからどうしよう。今や旅の相方となっている彼との、人一人分空いた距離には、もう慣れてしまった。遠いとは思わない。だって、あの場所ではもっとずっと遠かった。互いのことを何も知らなかったのに、不思議だよね。きっと何かが吹っ切れたんだと思う。私も、水地も。 「やっぱり、折りたたみ傘くらい必要だったかな」 「今更だね」 この程良い間隔での旅の末路を、私は心のどこかで予感してしまっている。 彼には言ってないが、実は私の右ポケットには、いつ入れられたのかWBBAの連絡先が書かれたメモが入っている。あの環境から飛び出した私たちは、所詮ただの子供なのだ。しかも、水地はある意味温室育ちだ。…目的もないしなぁ。そういえば近々、世界大会の日本代表を決めるとか。(…二人して興味なしだったけど) 「あ、」 その声に、顔を上げる。日が差し屋根の先から雫が落ちてきた。雨は止んだようだ。ふと視線を落とすと、足元にできていた水たまりが波紋を描いていた。まぁ、取り敢えず今は行けるところまでいこうじゃないか。何故だろうね、前よりずっと、こんなに気持ちが軽いんだ。 「よし。じゃあ行こうか」 「どこに?」 「うーん、どこだろうね」 「そろそろ寒くなるね」 「よしっ、じゃあ南だ!」 「極端」 永遠は恐らくないでしょう。 だから、どうか最後までよろしく。 20120314 ← ×
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