それでも君は大切な人


そう、まるで運命だったんだ。一目見た時、形容しがたい何かがが胸の内に広がっていった。それは世に言う、恋というものだったんだと思う。好みのタイプ。相性。そんなの、今まで考えたことも、まして興味すらなかった。だからこそ、直感的に運命ではないかと感じてしまったんだ。
"ああ、きっと好きになる"そう思った。

しかしその思いは、瞬時に入れ替わる。なんて馬鹿なことを、と。突然目の前に現れた彼女。砂を伴う風が、肩で息をする彼女の髪を揺らす。涙目とも取れそうなほど瞳を輝かせ、彼女が口にしたのは、


「やっと会えた…!」


盾神キョウヤ――俺の相棒の名前だった。


















「ナッイルー」

呼びかけられた声で、我に返る。思い出したかのように感じる風や眩しさに一度きつく目を閉じた。よし、落ち着いて再び瞼を上げると、あの時とは全く違う笑顔で首をかしげる名前がいた。


「なんだ?」
「ぼーっとしてたから、どしたのかなー?と思って」


そんなんじゃ、レジェブレに逃げられちゃうよ。逃げはしないだろう。やや、油断は禁物だよ。そんなやり取りの中でもころころと変わる表情が、見ていてとても面白い。

メカニックとして彼女をチームに加え、ワイルドワァングは世界で闘った。結局日本チームの優勝が決まり、その後もいろいろあったが、世界大会は無事に幕を閉じた。現在は現在で、レジェンドブレーダーや破壊神ネメシスなんて大変なことになってるが、それでも、またこうして奴らと会えたことが嬉しかった。


彼女が今とても幸せそうに笑うのは、アイツが側にいるからだろうか。


「キョウヤ、ナイルがばてちゃったよ!」
「だらしねぇな」
「おい、別にバテてないぞ」


キョウヤは強い。俺が言っても変だが、魅力もあると思う。それが試合放棄の理由ではないが、名前関連のことでキョウヤに勝負を挑むのは、とても馬鹿馬鹿しいことに思えた。俺が真っ直ぐに彼女を見つめるように、彼女も真っ直ぐ、アイツを見つめている。アイツを必死に追いかけてきたあの姿が、今でも鮮明に思い出せた。


敵うわけないんだ。
叶うわけないんだ。


そもそも、俺は知らない。キョウヤに好意を寄せていない彼女を、俺は知らない。つまり、俺が好きな相手と言うのは、盾神キョウヤという人物に惚れているのが大前提なのだ。
早く、彼女が幸せになればいいなと思う。キョウヤにも、そうだな、面倒見の良い相手が必要だろう。何せあのキョウヤだ。


――そうしていずれ、彼女のことを"好きな人"だと言えない日が来るんだろう。…直ぐにでも。それでいいんだ。けれど、どうか特別であってほしい。俺にとっては、ずっと特別で。


「名前」


キョウヤから移される視線。嬉しそうだ、とても。その笑顔に俺は何度救われただろう。締まる胸の内に、自然と笑みが溢れた。
相変わらずキョウヤに振り回されてるな、お前も。今でも、その視線が変わってなくて安心した。そうじゃなきゃ、俺があまりにも不憫だ。それにキョウヤには、お前が必要だから、きっと。ああ、そうだ。

悲しいくらいに、
あの頃から俺たちは、
何も変わってない。


「?、なに」


キョウヤは強い。俺が言うのも変だが、魅力もあると思う。アイツを追いかけて、ブルもお前もわざわざ遠い地へ来たくらいだ。…、背だって高い。しかも今じゃ、レジェンドブレーダーなんて肩書きまで手に入れた。
……違う。本当は、そんなことじゃないんだ。俺が言うアイツの魅力っていうのは、そんなことじゃない。そんな、どうにかできることじゃない。張り合うつもりはないが、敵わないことばかり。俺に足りないものを、アイツは持ってる。


それでも、ひとつだけ俺にもあったんだ。絶対に見せることのないものだけれど。



決して想いを交わすことのない、特別な人。



「風、強いな」
「そうだね」




誰よりもお前が好きだっていう、それだけは、自信があった。




(アイツが好きな男)(それだけでもう、)(俺に足りない全てを持ってる)


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夢色流星群様
企画提出作品(旧サイト:みずいろ)

20120321








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