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ネメシスを倒して、世界を救って。目まぐるしく追われていたものにやっと解放され、柄にもなくほっと息をついた。こんなことはもう懲りごりだと、心の底から思う。

何だかんだで脱力しきった体には、向けられるカメラを退かす気力さえなかった。
全て片付いたってことは、漸く帰れる。あの場所へ、帰れる。


――どのくらいだ?


どのくらい会ってねえんだろう。最後に見た、やたら真面目な顔で送り出したアイツの顔が過ぎった。





会いたいのかと聞かれれば、確かにそうなんだろう。ただ、会いたくないかと問われればそれも事実だ。言葉が見つからねえ。何を言えばいいのか分からねえ。


(会いたくねえな…)


それでも、考えずにはいられなかった。
会わずにはいられなかった。会うのだと、全身がそう望んでいるから。











銀河を先頭にヘリを降りると、開いた扉の先には集団。予想できてていた分、誰もそこまで驚きはしなかった。まぁ、ティティに関しては別の話だろう。
かき分けた人ごみの先に、一際小さいその姿。


ああ、見つけちまったと後悔する。これでもう見つからなかったと言い訳はできねえ。さっきまでの速さが嘘のように、足が動かない。それでも、確かに進んでいた。引き寄せられていた。


「よお」
「あ…、おかえり」


小さいな背中に声をかけると、振り向く間抜け面。久しぶりだとかそういうのは、顔を見どこかへ吹っ飛んじまった。ああ、同じだ。こいつも何も言えばいいのか分かってない。何か言いたげに向けられる視線が、うろうろと動いていた。


「お疲れ、様」
「ああ」
「カメラ、いっぱいあるけどいいの…?」
「興味ねえよ。正宗あたりが俺の分も喜んで撮られてんじゃねえか」
「あははっ」


そこで、会話は止まった。
当たり障りのない言葉だけが、ぽつりぽつりと出るだけ。それでも、コイツとこんな風に話せること事態珍しいことだ。賑やかな景色へと視線を向ける名前につられ、俺も視線を逸らす。ただ、全神経はコイツに集中している。何も逃さないようにと、馬鹿みてえに。


そんな状態だからこそ、背中にタックルなんてかましてきやがったキングを、何も言えずに逃しちまった。ムカツクことに、"その子キョウヤの彼女か?"なんて捨て台詞まで残して、だ。

人の気も知らねえで、ふざけやがってッ…!!
気になって見たコイツの反応は、俺と同じ。笑えるくらい赤く染まった顔は、一体どこを見てんだか。また何も言えなくなったじゃねえか。





「あの、さ」
「あ?」


少しの間。小さく口を開いた名前の顔は、いつも通りだ。真っ直ぐに向けられる瞳に映る俺がいる。


「世界を救ってれて、ありがとうございました」



小さく頭を下げたコイツに、目を見開く。直ぐ様込み上げてくるものが、抑えられずに口から溢れた。


「笑うところじゃないですよ」
「…その人事みてえな言い方なんだよ。つーかございましたって…」


当たり前のことを言われたはずが、どうしようもなく笑えてきた。不服そうに口を窄めるのを見て、また笑いが込み上げてくる。変なところで真面目というか馬鹿というか。ああ、やっと帰ってきたんだと実感する。

情けねえけど緊張が解けた。何をあんなに悩んでいたんだか。
同じように小さく笑った名前の口元が、綺麗な弧を描いた。



「キョウヤが、無事に戻ってきてくれて嬉しいです」




「幸せです」




波長が合ったというのか、コイツの思うことが自分のことのように分かった。合ったんだ、何かが。だからこそ、俺も同じなのだと口にしそうになった。

だがそれは、銀河を始めアイツ等を全員ぶっ倒してからにすることにした。
緩む口元は、やっぱりコイツと一緒だった。



(きっと分かってる、それでも早く伝えたい。)



20120603








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