願うだけでは足りなかった


もうどれくらい前だろう、彼女に恋をした。一目惚れとかそういうのではなかったけれど、僕が恋に落ちるのはすぐだった。苦手なところもあった。それでも好きだった。全部が全部大好きだった。
だからいつかは、彼女も振り向いてくれるものだと信じていた。疑いもなく、信じていた。




扉を開けた先に、広がる純白。微かに頬を染めてはにかむ笑顔が、愛しくて堪らなかった。


「名前キレー!」
「ほーんと、馬子にも衣装だな!」
「ありがとまどか、あと正宗煩いよ」
「そうだよ正宗」


文句を述べるその口も、緩やかに弧を描いている。胸のあたりが熱くなって、上手く言葉が出てこなかった。氷魔も何か言えよ、なんて呼び掛けで我に帰る。向けられた瞳に、不覚にもときめいた。


結婚するんだ。

なんて言葉をもらった時は、ああ、僕らももうそんなに大人になったんだと実感した。

結局、彼女は僕を選びはしなかったのだ。いや、そもそも選択肢の中にいれたのかすら今に思えば疑問だが。
長い長い想いが必ず報われるとは、限らないのに。今更になって、気づくことが多すぎる。

そして今、銀河とまどかさん、ケンタ君と正宗と共に、彼女のことを祝っている。彼女の幸せを願う。もう、僕が叶えることはできないのだから。



僕は笑えているだろうか、貴女に伝えることができるだろうか。もう届かないと、僕は分かっているのだろうか。あと僅かで全て変わってしまうのだと、気づいているのだろうか。


「……。」


分かってる。
分かっているから、僕は言うんだ。


「とても、綺麗ですよ」
「うん!ありがとう!」


時間が来たからと、部屋を後にする彼女。
また後でね、と言う僕ら。
その後では、もう今とは違うのに。


「楽しみね」
「しかし名前が、まさかアイツととはなー…」
「本当にね」
「まあ、分からないってことだよ」


相手が僕らもよく知った相手、ということが救いなんだろうか。分からない。彼女に続き、彼らも順々に控え室から出て行く。僕はといえば、何故か動けずにいた。あっさりと閉まってしまった扉は、僕じゃもう開けない。


気づいたらしゃがみこんで、抑えきれない涙に顔を覆っていた。


「…今のうちにいっぱい泣いとけよ。ちゃんと笑えるように」


そう言って乗せられた幼馴染みの手に、泣くことしかできなかった。


ああ、もう君に伝えられるはずないんだ。





(届かなかった。)



20120626








×