ささやく告白

※原作ゼオ
世界大会終了後(捏造)




そんなことを言ったら、君は笑うのかもね。



目の前を行きかう人々の会話が、耳を通り抜けていく。忙しい大人、騒がしい学生、無邪気な子供。
何だか不思議な感覚を抱きながら、そんな日常をぼんやりと見つめた。いや、少し訂正。大分慣れた。こんな日常にも。



悪夢から醒めたのは、ほんの少し前。悪夢、なんてさ。俺が自ら望んだ世界を、今はそんな風に笑ってしまう。
只強くなりたくて、『ここ』はあんまりにも退屈で。
人を騙した。もちろん、傷つけた。

ふと自分の手を見つめると、生傷なんてとっくに消えていた。それがあんまりにも、汚れて見える。消し去るんじゃなくて、まるで隠すみたいにするくらいなら、いっそ消えてくれなくて良かったのに。
罪から逃れようと必死にもがいているみたいで、より惨めな手に見えてしまった。




俺はきっと、許されないんだろうな。




漠然と、そんなことを思った。
後悔なんて、そんな女々しいことは言わない。別に思ってもいない。
善だと思っていたわけじゃないんだ。初めから、自分の過ちくらい理解していた。


何もかもを、捨てた。



「ゼオ君」



声から声、そんな中真っ直ぐに聞こえてきたのは、待ち望んでいた声。
ふと視界に影を下ろしたのは、今将に待っていた彼女。



「すみません、お待たせしました…!」



やんわりと微笑む彼女の後ろには、太陽がちらついていた。
ああ、綺麗だな。
眩しすぎる光が途切れたかと思うと、彼女自身も淡い光で少し眩しいなんて。

あの頃からそうだった。

君はいつも、綺麗だった。
そして俺の側にいてくれた。




全部、捨てるはずだったんだ。




こんな当たり前も、
こんな会話も、
こんな場面も、
こんな笑顔も。

『ここ』はあんまりにも、退屈。



会話を弾ませる人も、
過ぎていく自転車も、
揺れる風も、
それで飛び立つハトも、

目の前で笑う、誰かも。


もう二度と、こんな景色は見ないと思っていたのに。見たいとも、思っていなかったのに。



今こうしてここにいることが、こんなに幸せだなんて。



胸からこみ上げてきた何かが、あんまりにも熱くて。どうしようもなく、冷たい。



「ゼオ君?」



最初に声をかけたのはどっちだっけ?

君は、なんて言ったんだっけ?

あ、そうだ。相変らず男には挙動不審なのかな。

笑っちゃうよなあ、ハデスインクまでついて来る勇気があるくせに。

本当目が離せなくて。

こんな手で、君の手を引くのはいつも気が引けたよ。

馬鹿だよね、俺たち。

、…いや、俺だけか。





彼女は、
俺を見つけてくれた。



「ねえ」


不思議そうに首を傾げる彼女を見ると、ほら、なんなんだろうね。こんなに暖かい。





君に出会えて、本当に良かった。




「ありがとう」




ささやく告白


泣きそうなほど、愛を込めて



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夢色流星群様
企画提出作品(旧サイト:みずいろ)


20111022








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