真相は誰の手に 成し遂げようとすることと実力が不相応、ってよく言うだろ。だからこそ、アイツは奇跡だの神がかりだの訳の分からない称号なんてのをつけられる。 アイツがそれを本気にするのは、羨ましげにその称号を語るバカが側にいるせいではあるが。 正義感だけは強い彼女の行動に、こっちは頭を悩ませるばかりだ。 「名前のやつ、また記録伸ばしたらしいぜ」 「全勝全敗記録?よく続くッスねー」 どこにでも、馬鹿な奴はいる。それは、(不本意だが)隣でハンバーガーを頬張るゼロの類いではなく、所謂、不良ブレーダーのことだ。昔もそんな連中がいたらしいが、詳しいことは知らない。 俺自身、そういった連中を快くは思っていないが、俺以上に奴らに嫌悪感を抱くのが名前だ。 彼女は勝負を挑む。 そして負ける。 しかし、彼女とバトルをした不良ブレーダーは皆、悪さはしなくなる。この街から出ていく奴さえいた。 誰が上手いことを言ったのか、試合に負けて勝負に勝つ。それが彼女の全勝全敗記録。 本当、よく考えるもんだ。 「忍、お前はどう思うよ」 「何がだ」 「名前のことだよ!実はやっぱすげー強えのかな!」 「さあな」 「なんだよお前、興味ねーのか?」 「名前の実力は分かってるだろ、アイツはいつもあれで本気だ」 そう、彼女は決して強くない。ゼロだって、既に名前とはバトル済みだ。当然、コイツの圧勝だったわけだが。ならば何故、彼女とバトルをした不良ブレーダー達は悪さをしなくなるのか。興味を持った奴らが、真実を突き止めようといろいろ考えるわけだ。 「あれあれ?その言い種、まるで事の真相が分かってるような感じッスねー?」 「え、そうなのか!?」 意味あり気に向けられた視線に一瞬怯むも、「別に」と一言加えその顔を逸した。真逆の表情を向ける二人が、正直、五月蝿い。 「なんだよ忍!教えてくれたっていいだろ!」 「だから、知らないと言ってるだろ!」 「そんなこと言うなって!あ、俺のポテトやるからさ」 「いるか!第一、俺はお前に巻き込まれてここにいること事態納得いかないんだ!」 「なんだよ!いいじゃん、店長のハンバーガー美味いし!」 「そういう問題じゃない!」 「あ、名前ッス」 マルの言葉に反射的に顔を向けると、店内の窓越しに半泣きで駆けていく名前の姿があった。…あぁ、また負けたのか。 「全敗記録、伸びたみたいッスね」 「ほんと、名前って強えのか弱えのか分かんねえな」 少なくとも、お前よりは弱いさ。というのは、口にするのは癪だから黙っておこう。 いい加減アイツも懲りろよ…、と思いつつ去り行く姿を見送った。 「忍、追わなくていいんスか?」 「なんでだ」 「べっつにー、意味はないんスけどー」 ニヤニヤと笑みを浮かべるマルの横で、ゼロが訳が分からないと首を傾げていた。ゼロが話に加わると間違いなく厄介だ。 話を終わらせるべく口を開きかけたところで、マルは開いたパソコンに視線を落とした。…まあ、適当な話題を出すよりずっと助かるからいいか。その間もゼロは、名前の真の強さについて話していた。(…実際、そんなものはないが) そんな時、ふとマルが口を開く。 「ありゃー。ちょっとまずいッスよ」 「何がだ?」 「マルのデータに間違いがなければ、今回の名前の相手は面倒な奴らッスよ」 「面倒?」 「名前、下手に目つけられたりしなきゃいいッスけど…」 「マジかよ。じゃあ俺がやっつけに……って忍?」 「急用を思い出した。じゃあな」 バタンッ 「「……。」」 「よし、これで全勝記録も更新ッスね」 「え、なになにどういうこと?」 Who is a hero? また馬鹿なことを、と後悔するのはいつも、慌てて逃げる馬鹿共の背中を見送ってからだった。 結局俺が一番甘い。いや、馬鹿なのかもしれない。 20120617 ← ×
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