反照


偶に考えるんだ、もう少し大人になったら自分は何をしているんだろうって。まだベイをやっているのかな、このジムに通い続けているのかなって。ああでも、一番気になることはまだ皆と一緒にいるのかなーって。だって、私はトビー達みたいに特別強いわけでもないから?このジムを継ぐぞー!なんてこと言えないし。メンテナンスの方に強いわけでもないし。でも、ベイ以外に特技があるわけでもないんだよねえ。なんとなーくさ、どうなっちゃうんだろうなーって思うわけよ。

なんて。と言って小さく溜息をつけば、横に座る彼の髪が静かに揺れた。


「うーん…名前の言ってることも分からないではないけど、考えすぎだよ」
「そうかなー?」
「うん」


困ったように笑うトビーを一瞥してから、目の前で行われるバトルへと視線を戻した。キング君が来てからというものの、また賑やかになったダンジョンジムでは、彼と正宗の騒ぎ声が絶えない。


「それにさ、名前にだって特技は沢山あると思うよ?」
「例えば?」
「伊達にダンジョンジム一の頭脳派とは呼ばれてないでしょ?」
「それってなんかお堅いじゃん。しかも正宗には馬鹿扱いされてるし」
「名前の料理、僕は好きだけどなー」
「…トビーの方が上手だよ」


こう考えると、トビーに勝てることって何もないんじゃないか私。所謂女子力というものも、トビーのが数段上だし。あれ、どうしようこれ。


「よし、修行に行こう」


女子力の。引き攣る口元から自然とその言葉が漏れた。ベイはもちろん大好きだけど、うーむ、なかなかこの問題は重要なのかもしれないぞ。
あ、もしかしてこのパターンは、見事立派なレディになって戻ってくるあれか、あれなのか。でもそれって、なんか寂しいなー。結局私だけだと思うんだ、そろそろ変わらなくちゃいけないのは。皆よりも少し時期が早いだけといえばそうなんだろうけど。
大人になったら私だけ、皆とは別の道を歩いているんだろうか。

うんうんと唸っていると、困った笑顔のトビーがまたにっこりと笑った。整った顔がさらに輝きを増したように思う。


「僕は、名前がジムにいなかったら寂しいけどね」
「え?」
「確かに名前は女の子だし、僕等とは違うところもあるよ。それは仕様がない」
「ぶー」
「だけど、それでひとりになっちゃうなんて、君は勘違いをしてるね」
「んん?」
「…名前が大人の女性にね。そうだね、たとえ名前が大人になっても、道が違って、僕達から離れたとしても、それで諦めたりしないよ」
「トビーさん?」
「大丈夫。どこにいても必ず、僕は君を見つけ出すよ」


もちろん、大人の君もとっても魅力的だと思うけどね。
なんて言葉も添えられれば、嫌でも顔に熱が集まる。これは、その、どう受け取っていいんだろうか。頭脳派なんて肩書きばっかで、私だって普通に女の子なんです。こんな素敵な笑顔にときめかない訳ないんです。紡ぐ言葉を探しつつ口元を抑えると、やっぱり熱くて何だか妙に恥ずかしかった。


「…そんなこと言うとさ、勘違いするよ。私馬鹿だから」
「うん、是非とも勘違いしてほしいな。その方が僕も、行動に移しやすいから」
「それはどういう…」
「あーっ!トビーが名前のこと口説いてる!」


散々響かせていた声の矛先をこちらに向け、キング君が勢い良く駆け寄ってきた。もちろん、正宗とゼオも続いて。
「口説っ…!」とキング君の言葉を繰り返すが、隣の彼は至って平然としていた。その笑顔にまた胸が痛むのは、多分、そういうことなんだろう。


君に映る自分を自分はいつも気になっていた。
君もそうだったのかな、なんて。


「…心の準備期間がほしい」
「知ってた?僕、待つのは結構得意なんだ」
「うわわわわわわわわ」



20210124








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